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第5章 3組の双子

第61話 迷子

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「この場所は一体何の目的で造られたんだろう」

 複雑怪奇なマップ、こんな場所を地図も無しに彷徨ったら脱出できる気がしない。いや、地図があっても複雑すぎて出口を探すのに苦労するだろう。

 既に半年以上は経った。この場所に出てくるモンスターは全て赤目の魔物、ギリギリの戦いを何度も繰り返し、死ぬか生きるかの戦いを乗り越えてきた言っても過言ではない。

 そんな幾度もの戦いで分かったことは、魔物の肉を体内に取り入れるとスキルを取り込める。また、彩衣は魔力量を吸収出来るということが分かった。

「解せない」

 モンスターを倒したことで元神子アカリが言った通り経験値を稼ぎレベルが上がったことを身をもって実感できた。が、彩衣は経験値を積んでにレベルが上った実感は無かったようだ。しかし、強さと身体能力が少しづつ上がっていく実感があるらしい。

「サクラまた大きな部屋に出たぞ」
「ああ、どうやらここはマップの配置的に重要な部屋のようだよ」

 中央には高くなった台座があり、その上には開かれた半円形のカバーがあった。
 中には六角形の窪みがある箱が置かれているが中身は空、誰かに持ち出された形跡がある。

「サクラ、これを見ろ」
 台座の前に落ちていたペンダント。これを僕は見たことがある……結衣が常に首からかけていたペンダント、結衣との思い出がフラッシュバックした。

「これは……結衣がいつも付けていた……」
「そうだ、私も持っているぞ。首にかけるのは苦手だから部屋に置いてあるけどな」
「へー、双子だからお揃いで買ってもらったの?」
「姉と私はそう思ってた。だけどな、高校に入った時に言われたんだ。私たち姉妹は本当の子じゃないって、拾った時にふたりが身につけていたペンダントだって」

 それじゃあ、異世界から持ち出された物ってこと? 今までの経験から双方の世界に物を持ち出せないはず……とりあえずバックにしまっておこう。
 
「賢者の石って書いてあるぞ」
「彩衣、どこに書いてあるんだ」

 彼女の指差すところには確かに文字が書いてある。しかし何て書いてあるのか理解できない……「なんで彩衣に読めるんだろう」

「何を言っている、日本語だぞこれ」
「えっと、とてもそうには見えないけど」

 規則的ではあるが丸みを帯びた文字。剣を取り出して床に『にほんご』と削った。
「その文字、読めるけど日本語違う。多分この世界の言葉」

 ちょっと待て、一体どういうことだ。
「気にするな、どうせ考えても分からない。そういうものだと思って後で考えよう」

「サクラ、右」

 彩衣の未来視、刃のブーメランを弾き返す。巨大なムカデ、牙をブーメランのように飛ばすモンスター。それをドラグナイトの剣で切り裂く。

 今や簡単にあしらっているが最初は大変だった。フリックバレッドは当たらないし剣で弾き返すのがやっとだし。彩衣の未来視を活用して銃で補助してもらいながら何とか倒したが1匹倒すだけで彩衣の魔力は空、ゆっくり回復させて次に進む。そんな事を繰り返すうちに強さと連携力が強化された。

「あと数日進めばマップが途切れている所に出るんだけど出口だといいな」
「期待してないよ。また行き止まりだろ」
「いやいや、今度は出口の前に大きな部屋があるんだよ。きっとエントランスだと思うんだ」

 スケルトンならまだ良い、僕に羽を与えてくれた蟹にコウモリの羽が生えた魔物もまだいい。ただ何度出会ってもミミズタイプの魔物だけは苦手だ。
 伸び縮みするボディー、うねうねと動く体、強力な消化液は僕のシールドを溶かすほど。魔力の差なのか彩衣のシールドが破られなかったからよかったものの……

「私の炎弾で萎萎しおしおにしてやったぞ」

 実際、何ヶ月もダンジョンを彷徨い魔物との戦いに明け暮れていたら話しのネタは戦いしか無い。連携がどうだとかスキルをどう使ったほうがいいとかそんな会話ばかり。
 
「ここを脱出したら美味しいもの食べるんだー」
「サクラは異世界で美味しいもの食べたことあるんだろ、私は異世界に来て魔物の肉しか食べてないぞ、脱出したら好きなものを食べさせてよ」
 
 出口に向かって着実に近づいている感覚があった。空気感というのだろうか。

「問題は、大広間に巨大な赤点がマップに表示されてるんだよなぁ」
「それって単純に図体ずうたいがでかいだけだろ。大きいから強いってわけじゃない」

 確かに白熊を丸くしたような魔物がいた。彩衣の鑑定だと『イエティチカンの肉』と言う肉に変わったからイエティチカンという名前なのだろう。身長は3メートルを超えていたので初めて会った時はあまりのデカさに恐怖したもんだ。

「ムカデより弱かったもんな」
「デカくてビックリしたけど、見た目はモフモフして可愛かったぞ。ムカデよりよっぽど良い」
「確かにモフモフもマップの赤点が大きかったけど……今回はそれ以上みたいだ」

 全面が見渡せる大広間、特に魔物がいる気配はない。確かにマップはこの場所に敵がいることを指し示しているがそんな様子もない。

「上か!」
 スピード線が見えるほどの勢いで見上げる。しかし何もいない……流石に下は石が敷き詰まっているし隠れる場所なんてどこもない。

「サクラ、下だ。シールドを張れ!」
 何もない下? 昔だったら『何もないじゃん』と言っていただろう。しかしこの地獄のような場所で生き抜いてきた僕たちが疑わずに信用から入ることは命を守ることでもある。

 精神武器を媒介にしたシールドを張った瞬間、巨大な縄のようなものに叩きつけられた。

 吹っ飛ばされる体、壁に向かって一直線、もしシールドを張っていなかったら体はバラバラだったかもしれない。

「壁」

 以心伝心というのだろうか、空中で体勢を変化させ壁に着地する向きになる。

 彩衣の風弾が壁に着弾、その風を蹴って巨大な魔獣にドラグナイトの剣で斬りかかった。

 ──ズシャッ

 縄のような巨体を切り裂いた。ふたつに分断された体……やったか! しかし切断面は何事もなかったように繋がり、地面に溶け込むように消えていった。

「こんな硬い地面に溶け込むなんてずるい」

 マップを見ると動いているのが分かる。しかし大きな点しか見えないのでどこから攻撃を仕掛けてくるか分からない。

「サクラ、上下」

 考えるより早く反応する。下からは尻尾、上からは頭の挟撃。すんででかわす。

「炎弾」

 彩衣の精神武器の銃ブレザイムが火を吹いた。魔獣の顔面に着弾した炎は爆発とともに体を包む。干からびていく体、修復していく体交互に繰り返される。そのまま魔獣は天井に消えていった。

「フリックバレッド」

 高価なほど硬化なギラ、最高価値、最大出力で発射。地面から伸びている体幹を突き抜ける。が、修復されてしまった。

 巨大な蛇のような魔獣……イメージ的には竜の顔を持つサンドワームと言ったところだろうか。地面の中を移動し自己修復まで持つ。

「さて、どうやって倒そう」
「サクラ、諦めたらそこで終了ですよ……安東先生も言ってただろ」

 強力な魔獣との戦い、さらに過酷を極めるのだった。

 
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