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第1章:最悪な幕開け

第5話:動機が不純とかそんなの関係ねぇ

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 差し出された手をぼーっと見つめている私に、
 女剣士は困惑した笑みを浮かべる。
 その微笑みもめっちゃかっこいい。

「おい!   油断すんな!   紅月さん!   まだ、そいつは息があるぞ!」

 動き出すキマイラの横っ腹に誰かが飛び込んだ。
 強烈な蹴りを受けて、再びキマイラが地響きをたてて倒れた。

 ストっと綺麗に着地を決めたのは、赤毛に青毛のメッシュが入ったボーイッシュな少女だった。

 や……べぇ……。また、神が増えた。

「あぁ。すまないなリアンジュ。助かった」
「ったく。まーた1人で飛び出していきやがって!
 っていうかこの化け物が見えるヤツが、
 オレら以外にもいたとはな」

 そう言って、リアンジュが私の方をちらりとうかがう。
 すごく綺麗な青い瞳だ。
 でも、なんか私の事バカにしてるみたいな目付きだな?

「な、何見てんだよ!」
「別に?   男のくせにべそかいてる情けねぇやつを観察してたんだよ」

 ぐぬぬ!わ、私!男じゃねぇし!中身は女だし!
 ってか!昨日までただのニートで戦闘系のゲームとかもしたことないやつですけど?!

 うっわー!ムカつくわ!

 リアンジュは、
 あざけるように口元を歪ませて、私をジロジロ見てきやがる。

 見てろよ!この野郎!私は転生者だ!きっとチートスキルを持ってここに来たに違いない!

 私は、紅月さんにいいとこ見せたかったのと、
 リアンジュにバカにされた怒りで、
 再び起き上がろうとしていたキマイラに刃を向けた。

「2人は下がっててくれますか。私が、こいつにトドメを刺す」
「へぇ?   お前に出来んのか?」
「できるし。見てろよォ?!」

 あぁ!ムカつく!
 なんでこんな年下にバカにされなきゃならんのだ!
 うっぜぇ!

 私は深呼吸をしてなんとか怒りを収めると、
 キマイラの首元目がけて刃を振り下ろした。

 魔物ってのは、ゾンビとかもそうだけど、
 多分首を切ると死ぬもんなんじゃね?
 という認識があったんだ。

 けれど、刃が首に当たる前に、またもやぶっ飛ばされて壁にめり込んだ。

「……つうう……!」

 は、話が違うぞ!チートスキルはどうした?!
 魔法は?!なんで出せないの?

 この一撃で、体が完全にいかれちゃったらしい。
 痛すぎて動けない。

「はぁ……情けないやつだなぁ……。口ほどにもねぇ。
 紅月さん。オレが奴を引きつける。その間にトドメを」
「あ、ああ」

 紅月さんは本当に優しい人だ。
 何の役にも立てずに、ただ見栄張って、
 やられてノックアウトされてる私を気遣うように、
 目線を送ってくれた。

 だけど、逆にその目線が痛い。
 推しの目の前でこんな姿晒して……恥ずかしくて消えてしまいたい。

 くっそぉ……泣きたくないのに涙が出てきた。
 ミランダちゃんが回復魔法を使ってくれたけど、
 心の痛みには全然効かなかった。

 そんな感じで、私が自分の情けなさにすっかり打ちのめされてる間に、
 イケメンコンビは準備を整えたみたいだ。

「おい!    図体だけでかい雑魚野郎!   こっちをむけぇ!」

 リアンジュが胸に手を当てると、そこから7色の光が溢れ出た。

 すごい……魔法なのかな?めっちゃ綺麗だ。

 だけど、魔物の感じ方は違うみたいで、血走った目が見開かれ、
 紅月さんの方に向けていた顔を、ぐるりと回してリアンジュの方を向いた。

「あれはヘイト魔法ですね。わざと魔物を挑発して、
 自分だけに攻撃を集中させる、
 不死の能力を持ってる人だけが使える魔法ですよ」
「つまり、リアンジュは壁職ってことか……。
 ますますゲームっぽいな」

 しかも、あいつ不死なんだ。やっぱりあるのかーそういう力。
 いいなぁ!なんで、私は何もないのにあいつはそんなすごい力を持ってんの?
 あー!悔しい!羨ましい!意味わかんない!

 けれど、不死ってのはそこまでいい能力じゃなかったんだって私は知った。

 挑発されて、キマイラが叩き潰そうと爪をかけるけど、
 リアンジュは涼しい顔でその攻撃を当たり前のように受けている。
 でも、あいつの体からは尋常じゃないほど血が吹き出してるし、
 強気な姿勢は崩してないけど、痛みは感じてるみたいで、
 息も苦しそうだ。

 慌ててミランダちゃんが回復魔法をかけてあげてるけど全然回復が追いついてない。

 紅月さんは、離れた場所でじっとその光景を見つめていた。
 すごく整った横顔だけど、なんだかとても切なそうだった。

「よし!   体制が崩れた!   今だ!」

 気づくと、リアンジュが噛みつかれながらも顔面にグーパンを食らわせていた。
 強烈な一撃でキマイラが怯んでよろめいたのを、
 紅月さんは見逃さなかった。

 助走をつけて飛び上がり、炎を纏わせた大剣をキマイラの体に叩き落とす。
 火の粉が舞散って、魔物の体が真っ二つに割れたように見えた。
 血の代わりにキラキラと輝く結晶が舞い上がって、
 キマイラは跡形もなく消え去ってしまった。

「すごい……」
「終わったんですか……?」

 ミランダちゃんには最後までキマイラの姿が見えていなかったみたいだけど、
 私の呟く声に戦いが終わったことを知ったようで、
 ほうっとため息をついた。

 ところで、そうだ!リアンジュは大丈夫なんだろうか?
 相当やられてたけど……。

 ミランダちゃんも心配してたんだろう、慌てて走っていった。

「オレのことなんて気にすんな。無駄な魔力を使うんじゃねぇよ。
 初心者用だけど、ここがダンジョンだってことを忘れるんじゃねぇ」

 リアンジュは駆け寄るミランダちゃんの手を振り払って立ち上がり、
 出口までもうすぐだ、雑魚が群がってくる前に逃げるぞ。
 と、先に立ってさっさと歩き出してしまった。

 いいやつなのか、悪いやつなのか、どーも判断つきかねる。

「すまないな。リアンジュのことは気にしないでくれ」

 紅月さんが苦笑しつつ、私の方を振り返った。

 なんだか、すごく疲れたような笑い顔だ。

 いつも、相棒が傷つく姿をみてるのかな。
 私が戦えたら……あいつにあんなことをさせなくても、
 紅月さんが力を発揮できる隙くらい作れるのかな。

 刀をぐっと握りしめて、私は決意した。

 やってやる。強くなってやる。紅月さんのこんな顔はもう見たくない!
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