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プロローグ

DAY 0-1

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 高校の友人が1週間振りにSNSを更新した。どうやら、アメリカのラスベガスに旅行で行き、カジノで一儲けをしたようだ。屈託のない満面の笑みが俺のスマホの画面中央を陣取っていた。

 世界はかくも広いというのに、自分の世界は限りなく狭く縮こまっている。幸せそうな友人の顔にイラつき、アカウントをブロックした瞬間に、自分自身が今日を生きるのに必死になっている事に気づく。いや、必死さもとうの昔に消え失せてしまったのかもしれない。今自分にあるのは、虚無だけだ。

 俺こと鷹田幸太郎たかだこうたろうは大学を卒業後、札幌の某有名チェーン店の居酒屋で5年フリーターとして働いている。それなりの学はあったが、やりたい事もなく、それなりの高校を出てそれなりの大学に入り、就活に失敗して腐っていった結果がこれだ。

 不毛な27年間を過ごしてきたおかげで両親からは見捨てられ、友人も少ない。貯金残高もわずか3万円。俗に言う「人生負け組」という奴が俺だ。週4で深夜まで働き、趣味は無いので休みの日はパチンコかネットサーフィン。食事はカップ麺とチャーハンを交互に摂取。缶ビールは常備。ついでに毛髪量も一般と比べ少ない。一般とはどこを指すのかが問題となるが。

 何度目かわからない自己推理を終えたところで現在は15時。仕事は休みなのでまだ布団から出ていない。そろそろネットで注文していたスマホのカバーが届く頃なのでポストを見に行こう。

 重い身体を起こし、幸太郎は冬眠から目覚めた熊の如く、のそのそと歩き出し、かかとを潰したスニーカーで外に出る。溢れんばかりの眩しい光に目を細めつつ、ポストの中を手探りでまさぐる。

「ん?」

 スマホのカバーはまだ届いていなかったようだが、代わりに真っ黒な封筒が1通、入っていた。

「こんな封筒どこに売ってんだよ…」

 すぐに文句を言うのが自分の悪い癖だとはわかっている。でも、ゆとりだから仕方がないだろう?それに、本当にどこにこんな高級そうな封筒が売っているというのだろう。

 頭をぼりぼりと掻きながら布団に戻り、胡座あぐらをかく。差出人には、金文字で「神谷 明」と書かれていた。幸太郎には見覚えも聞き覚えも無い名だった。

 「怪しいが、他にする事もなし。開けるだけ開けてみよう」

 一人暮らしをすると独り言が絶えない。とりあえず開けてみると、中には一枚の便箋びんせんが入っていた。取り出すと、封筒からポロっと何かが落ちた。「05」と書かれた番号札だ。

 いたずらの線も大きくなってきたが、せっかくなので手紙を読む。

『お金にお困りではないですか?弊社では只今、先着順で短期アルバイトを募集しております。業務内容は簡単な作業を1週間住み込みでして頂きます。報酬は後払いで1000万円です。参加をご希望でしたら番号札をお持ちになり、下記日時に…』

「1000万?!」

 何度見ても1000円の見間違いではなかった。本格的にいたずらだな。詐欺かもしれない。流行ってるのかな、こういうの。これは、中学生とかならすぐ引っかかるだろうなー。全く、暇な人もいるもんだな、やっぱり世界は広いぜー。

 …しかし…これはもしやチャンスなのではないだろうか?27年間、不幸続きの自分にも遂に神の施しが与えられたのではないだろうか?確かにそろそろ幸福が来てもおかしくない頃合いだ。もしかしたら、という可能性もあるし、簡単な作業と言い切っているし…

「日時は…空いてるな」

 まあ、完全に信用しているわけではないけども、万が一、万が一があるからな、そう。それに、きっと俺は選ばれたんだ。なかなかこんな、その…スカウトみたいな事も無いだろうし?俺のモットーは日々挑戦、だしな。うん。


 自分自身との八百長やおちょうな葛藤はすぐに終わった。彼は、まともな社会経験が無い為、疑うことを知らない、騙されやすい人間なのだった。幸太郎はすっと立ち上がり、キッチンの冷蔵庫に貼ってある真っ白なカレンダーに赤ペンで丸を一つ付けた。その動作の中には彼には珍しく、口笛が混ざっていた。
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