風ノ旅人

東 村長

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ハザマの国・編

金工の町ゴルゴーン

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 翌朝。僕達は村を出て、ゴルゴーンを目指す。
 まだ泣き言を言うドッカリに、マイマイちゃんは引いていた。
 ははは、と苦笑しつつ、僕はシクシクする彼を励ましてあげた。

「そんなんだから、恋人ができないんだよ」
「え?」
「もっとしっかりした男じゃなきゃダメ。私は強い人の方が好き」
「……うん」

 おぉ・、マイマイちゃんが励ましてる!

「でも、ドッカリが強くても、ドッカリは嫌い」
「ブフッ!」

 マイマイちゃんの時間差口撃に堪らず吹き出すトウキ君。
 僕も肩を震わせながら、何とか笑いを堪える。

 笑っちゃダメ! 笑っちゃダメだってっ!
 あははははははははははははははっ!

「ソラさんまで俺を笑うのかっ⁉︎ もういい、死ぬっ‼︎」

 あ、顔に出てたか⁉︎ でも、これはフォローできないよなぁ。だって——

「でもさ、ドッカリがマイマイちゃんに嫌われるのは仕方ないんじゃない?」

 僕の発言を、マイマイちゃんは、うんうんと肯定する。
 それを見てバツが悪そうな顔をするドッカリはいじけてしまい、膝を抱えて動かなくなった。彼女に嫌われたのは、ドッカリの自業自得だ。こればっかりは仕方ない。
 
 僕はポンポンと肩を叩き、元気出してと伝えた。
 
 馬車を走らせること、数時間。
 
「皆さん! あれを見てください!」
「ん?」

 全員が荷台から顔を出し、マルさんが指差す方を見る。
 指の先には、大きな山が見えた。
 かなりの距離があるにも関わらず、くっきりと目に映る灰色の山が、途轍もないほど巨大だと見て取れた。
 その威容に、僕とマイマイちゃんは口を開けたまま放心し、ドッカリはゴクリと固唾を飲む。  
 トウキ君は不敵な笑みをし、マルさんはヤル気に満ち溢れた表情で馬に鞭を打ち、さらに加速する。

 徐々に見えてくるのは巨大な防壁。もしかしなくとも、あれが——

「あれが金工の町ゴルゴーンですヨォ!」
「やっと、着くのかぁ」

 僕は背伸びをし、町を眺める。

「着いたら美味しいご飯が食べたい。ドッカリの奢りで」
「え?」
「あ、それ良いね!」
「俺も賛成」
「えっ⁉︎」
 
 マイマイちゃんの発言を、僕とトウキ君は賛成する。
 町に着いたら、ドッカリの奢りで豪勢な食事を摂ろう。
 財布の心配をする彼を置き去りにして、何食べる? と盛り上がる三人。
 
「僕は肉を食べたいなぁ」
「私はケーキと、ジュースと、あとは……」
「俺は米が食いたい」
「お、俺はぁ安いのが良いなっ! なっ? なっ⁉︎」
「「「……」」」
「おいっ!」

 焦るドッカリを見て、僕達は笑みを溢す。
 何故か彼も笑い出し、全員がそれに釣られて声を上げて笑った。
 
 約五日間の移動。 
 長き道程を経て、僕達はとうとうゴルゴーンに到着した。

         * * *

「ようこそ、ゴルゴーンへ」

 僕達は検問所を通り、町に入る。
 視界に広がる町は話に聞いていた通りの金ピカだった。
 建物の外壁や支えになっている柱も金色。
 流石にこれ全部が金って訳じゃないよな?

 建ち並ぶ店はガラス張りで、店内が丸見えになっている。
 目に映る店の殆どが金のアクセサリーショップだ。
 買い物をしていると思われる、お婆さんは一眼で分かるお金持ち。
 大きな宝石が付いた指輪を全ての指に嵌めているし、ネックレス、デカすぎないか? 首疲れないのかな? あっ! 歯も金色だ。すげー……。

 それにしても、陽の光が反射して目がチカチカする。
 僕は目を窄めながら町を見渡した。
 治安が悪いと言われていたが、皆んな笑顔で町を彷徨いている。
 見せ掛けだけは良いって話だし、あんまり気を抜かないようにしておかないと。

 僕達は町の北側へ進み、少し大きな宿に入った。
 マルさんは受付に向かい、僕達は出入り口前で待機。

「大部屋を一室と、一人部屋を一室、お願いします」
「はーい。こちらが鍵でーす」

 もしかしなくとも、今日が最後の休息だ。気を引き締めよう。

 撮った部屋に入り、荷物を置く。全員が目配せをして、意思疎通をする。
 四人はテーブルを囲むように座り、最後の作戦を考える。

「どうします?」
 
 最初に発言したのは僕だ。緊張した面持ちで、面々を見回す。
 
「どうってなぁ。まずは金山を知らなきゃならねえ」

 僕の問いに答えたのはトウキ君。
 彼は胡座を組みながら、真剣な顔で考えを巡らせていた。

「誰か、金山について知っていることを話してください」

 情報を求めたのはマルさんだ。
 掛けている眼鏡をクイっと上げて、ドッカリを見た。

「俺が知ってるのは、この町にゴルゴンの屋敷があるってことぐらいだ。金山については何も知らねぇ。この町は何度か来たことあるから、大通りくらいは案内できるぜ」
「他に知ってる人は……いないか」

 僕の問いかけに、答える人はいない。うーん。
 ゴルゴン金山の情報が全く出ないな。これじゃあ、何も考えようがないぞ。
 全員が目を瞑り、腕を組みながら押し黙った。
 
 静寂が、部屋を支配する……。それを破ったのは部屋に入ってきた、彼女だった。
 ドシドシと部屋に来たマイマイちゃんを、僕達は見つめる。
 彼女は僕達を見回し、ブスッとした表情で言う。

「……お腹空いた」 
 
 四人は目を合わして苦笑した。

「そうだな、米食いに行こうぜ」
「ドッカリ、財布出して!」
「ドドッカリの奢りですかぁ」
「え? マジで言ってたの?」

 ゾロゾロと部屋を出て、食事を摂りに町に出る。
 自然と、僕の顔から緊張が消えていた。
 息詰まる皆んなを助けてくれたのかな? とマイマイちゃんを見て思った。

「マイマイちゃん、何食べる?」
「……ケーキ」 
「ドドッカリ! ケーキ屋を探しなさい!」
「え、いや、俺の奢りになるじゃん!」
「あ? だからどうしたんだよ」
「ええ~?」

 奢られる気満々のマルさんとトウキ君。
 それに困惑するドッカリを見て、僕とマイマイちゃんは笑った。

「ドッカリありがとう」
「ブフッ!」

 彼女のまさかのお礼に、僕は笑いを堪えられなかった。

「し、仕方ねぇなぁ! でも高いのは無しな? 高いのは無しだぞ? 分かったか?」
「「「「……」」」」
「おいっ!」

 僕達はケーキ屋に到着し、ドッカリの奢りで腹を満たした。

「美味しい」

 嬉しそうにケーキを食べるマイマイちゃんを見て、ドッカリは満更でもない顔をする。

「仕方ねぇなぁ。もっと味わって食えよ?」
「うん」

 ニコニコな二人を見て、僕は安心した。
 どうやら和解できたようだ。
 
「あっ! トウキさん、もっと味わって食えって!」
「あゆあぶあああわふ」
「あはははははははははははは!」
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