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 32、決断

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 イライラしながら帰宅したルナントフは自室に入り、手に持っていた鞄を思いきり壁に投げつける。
 さらに、机の上の教科書や花が生けてある花瓶を床に叩きつけるが、物に当たっても怒りは収まらない。

 ドカッとソファに座り落ち着こうとするが、どうしてもリフィアが毒を口にしたことが頭から離れない。



 昨日、昼休憩が終わり授業が始まっても、リフィアとヴァイスは教室に戻ってこなかった。 
 休憩時間にクラスメイトたちが深刻な顔で話をしており、嫌な予感が駆け巡る。 
 聞き耳を立てると、リフィアが食堂で毒を飲んだのでは、という噂が流れているらしい。
 確認のため医務室に行くと、それは事実だった。



「心臓が止まるかと思った。無事に助かったからよかったが···イチャつきやがって!」
 医務室でヴァイスを一発殴っておけばよかった、と後悔する。
「くそ!くそ!くそっ!どうしてうまくいかない!!」

 頭を両手で抱え、これまでの計画を回顧する。



 数ヶ月前にヴァイスの殺害を思いつき、フォグに依頼の手紙を書いた。
 しばらくして、戦闘になり三人の負傷者を出したが、ヴァイスには傷一つ与えられなかったという報告を受けた。
 計画は失敗に終わった。
 すぐにフォグの店に足を運んだ。

『夜中に直接屋敷を襲撃すればいいのでは?』

 そう尋ねてみたが、フォグは『それは無理だ』と言った。
 トリガーの屋敷の庭には数多くの罠が仕掛けられており、それを突破するのは至難の業だという。
 さらには屋敷を覗いているだけで、恐ろしく強い執事が攻撃をしてくる。
 なので殺害の場を学園に移すよう指示したが、それも防がれてしまった。

 次に毒殺を試みた。
 以前、父親がティアーノウッドの商人から手に入れたというキブエラ毒を見せてもらったことがある。
 父親曰く、『一滴飲めばあの世行き』だという。
 ヴァイス殺害にその猛毒を利用することを思いついた。
 フォグは薬屋なので毒も作れるが、さすがに他国の製造禁止の毒は作れない。
 そもそもギブエラの葉を入手するのは困難で、ましてや製造方法は誰も知らなかった。
 そこで父親に毒を分けてもらいフォグに渡した。
 フォグはそれを学園の料理人に渡すが、ヴァイスはいつまで経ってもピンピンしている。
 また失敗に終わった。



「くそっ!フォグは本当にプロの暗殺集団なのか!?」
 ルナントフは、何度も失敗することに怒りが最高潮に達していた。
「高い金を払っているというのに!」

 ルナントフの頭には、来る日も来る日も平然としているヴァイスの顔がちらつく。
 何度狙われても、毒を飲んでも死なない。
 しかもヴァイスは、毒殺の黒幕に心当たりがあるような言い方をしていた。
「あいつ、俺が殺そうとしていることに気づいているのか?」
 このままではトリガー公爵家が、リフィアとルナントフの婚約解消に動き出すのも時間の問題だ。
 焦りが加速する。

「このままではリフィアを取られてしまう!早くあいつを始末しなければ!前世、カナさんは死んでしまったが、現世では必ずリフィアを手に入れて結婚する!」

 だが、プロの暗殺者でも仕留められない相手に、どうすればいいのか。
 ルナントフは、何か策はないものかと考えを巡らす。

 そもそもフォグに殺害を任せたのが駄目だったのでは、と考える。
 実際フォグよりも、ルナントフのほうがヴァイスとの距離が近い。
 嫌でも毎日顔を合わせるため、隙をついて始末できる可能性がある。

「いや、そうすると学園内で仕掛けることになるな···人目は避けたい。学園外で仕掛けるにはどうしたら···」
 焦りばかりが先行し、考えがまとまらない。
 それでも、なりふり構っていられないルナントフは覚悟を決める。

「うまくいくかわからないが、もうやるしかない!俺が直接手を下す!」

 書棚から植物図鑑を取り出し、とある植物の特徴を確認する。
 そして再びフォグに手紙を書く。

“ビュビュラノの薬と長剣を大至急用意しろ”

 と、一文だけ綴った。
 執事を呼びつけ手紙を渡し、急いでフォグの店に届けるよう伝えた。

 そしてもう一通、手紙を書き始めた。

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