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 25、国王陛下

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 ヴァイスは学園から家に戻ると、とんでもなく高貴なお客様と対面した。

「やあ、お帰り」
 笑顔でそう言った人物は、ソファで足を組んでいる姿がとても優雅だ。
 ヴァイスに右手をヒラヒラと振っている。
 胸まで伸びるサラサラな金髪に紫の瞳で、いかにも、という衣装を身に着けている。

「あの、もしかして・・・」
 そう言って、側にいる両親に目を向ける。
 タリダルは面倒くさそうな表情で、面倒くさそうに言う。
「ジャック・フォレスト・アマルロード国王陛下だ」
 ヴァイスは息を呑む。
 予告もなしに国王陛下と顔を合わせることになるとは思ってもいなかった。
 心の準備が出来ておらず、嫌な汗がじわっと滲み出す。

「お初にお目にかかります。ヴァイス・トリガーと申します。この度は、僕の個人的な都合のためにお力添えをいただき、ありがとうございます」
 緊張が声に表れてしまう。
「ふふ、どういたしまして。そんなに緊張しないでおくれよ。さあ座って、お茶でも飲んで、ね」
 ジャックはまるで我が家のような振る舞いをした。

(国王陛下は、父上と母上、そしてハイルトン侯爵と学園時代のクラスメイトだったな。でも父上より若く見える)

「全く・・・来るなら先触れを出してくださいよ。こっちにも都合があるのですが」
 タリダルは不機嫌そうにジャックを見た。
 仕事の打ち合わせで外出していたところ、急に呼び戻されたのだ。
「だって、珍しく執務が早く終わったんだもん」と、子供のような言い方をする。
 毎日膨大な仕事を抱えているジャックは、このような自由時間はなかなか作れない。

「ヴァイス、この人は普段ヘラヘラしているが恐ろしく頭がキレる。基本的に相手にしなくていいが、命が下ったときには一応従いなさい」
「それ、私の前で言っちゃうの?私の親友は遠慮がないな」

 ジュリアは微笑んでいる。
「私は久しぶりに会えて嬉しいわ」
 そう言われたジャックの表情は明るくなった。
「ジュリア優しい~」
「チッ」
「私に舌打ちするなんて、タリダルくらいだよね。まあ、いきなりやって来て悪かったと思ってるよ。だから怒らないで。ね?」
 しっかり者のタリダル、おっとりな性格のジュリア、そして切れ者だがマイペースなジャック。
 この三人は学園時代からこんなノリだ。

 ヴァイスは大人たちのやりとりを静かに見つめる。

(この方が国王陛下・・・なんて気さくなんだ。ランドホーク殿下は生き写しだな)

 ジャックが今日トリガー家にやって来たのは、調査報告の話をするため、そしてヴァイスに会うためだ。
 ランドホークからもよく、学園での話を聞かせてもらっている。

 ジャックはヴァイスを見つめる。
「久しぶりに二人の自慢の愛息に会えて嬉しいよ。遅くなってしまったが、留学の件、すまなかったね」

(自慢って・・・両親は国王陛下に、僕のどんな話をしたのだろう?)

「いえ、得られたことが多く、留学して良かったと思っています」
「うんうん、いい子だねぇ」
 ジャックはヘラっと笑う。
「あの、失礼ですが、久しぶりとは?」
 こんな高貴な人物に会った覚えがない。
「君には一度会ったことがあるんだ。まだ二歳くらいだったかな。覚えてなくて当然だよ。それにしても、立派に成長したなぁ。その上、とびきり美男子だね」
「お、恐れ入ります」



 痺れを切らしたタリダルが話題を変える。
「本題に入りましょう」
「そうそう、ハイルトンのこと話に来たんだった」
 ジャックは足を組み直し、先程までのヘラヘラした表情が消えた。

 そしてシャッテンの調査報告を話し始めた。

 ハイルトンの領地には鉱山があり、そこで採れた鉱物を他国に闇ルートを使って流しているという。
 国には採掘量を過少報告し、闇ルートで得た利益を丸々懐に入れている。
 それに伴って帳簿が改ざんされていることは明白で、どうやら数年前から常態化しているようだ。
 調査はまだ途中だが、他にもいくつか疑惑があると見ている。

 タリダルはうんざりした顔でため息をつく。
「全く、何をしてるんだ。あいつは」

「さらに、我が国の隣、南にあるティアーノウッド帝国の商人と接触している可能性が出てきた」
 タリダルは尋ねる。
「商人?それが何か問題でも?」 
「その商人も闇の匂いがプンプンするんだよね。あいつ、きっと面白いことを企んでるよ」
 ハイルトンが悪事を働いている、と決めつけているような言い方だ。
 ジャックの美しい顔に浮かぶ不敵な笑みに、ヴァイスは鳥肌が立つ。

「まあ今のところこんな感じなんだけど、調査にはもう少し時間がかかりそうだ。ナタリーゼ嬢の調査は順調なのだろう?」
 タリダルは頷く。

 以前ヴァイスが街で襲われたあと、ナタリーぜは犯人を追跡してフォグのアジトを発見した。
 そこにあった手紙で、ルナントフがヴァイス殺害を依頼したことが判明している。
 
「今は慎重にアジトを張っています」
「今更だけどさ、娘によくそんな危険なことさせるよね、お前」
「あの子、ノリノリでやってるんで」
 ルナントフの調査は、もともとタリダルがナタリーゼに頼んだことだが、本人はすっかり楽しんでいる。

 ジャックはコホン、と咳払いする。
「とにかく、父親の鉱物密輸はほぼ確定だ。息子によるヴァイス殺害依頼も確定。ティアーノウッドの商人との接触は内容にもよるが・・・父親の確たる証拠が掴めれば、できれば二人を同時に捕らえたい」
 どちらか一方を捕まえると、もう一方が証拠隠滅を図ったり、逃亡するかもしれないからだ。

 ジャックは立ち上がり、ヴァイスを見る。
「街での襲撃後、学園でも狙われたそうだな。ヴァイス、気を抜くなよ?」



 国王陛下に忠告されたにもかかわらず、ヴァイスは一瞬の気の緩みから失態を犯してしまう。

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