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第十三話

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「蓮、セリフ大丈夫?」

「大丈夫に決まってんでしょ!華ちゃんこそ、僕のアドリブについていけるかなぁ?」

「あっ、アドリブいうの?」

「さぁ、どうだろうね」

「からかわないでっ!もう、行ってくるから」

華の頬が赤らむ。

「可愛い……マジで、もっと惚れさせないでよ…好きで好きで仕方がないよ華……」

そう言って蓮は、周りに気付かれないように、口元を手の甲で軽くおさえた。
劇はいよいよ山場だ。白雪姫が毒りんごを食べて倒れるシーン。

バタン

観客がざわつく。
素人では出来ない倒れ方だったからだ。背中から倒れ、運が悪ければ後頭部を打つような、倒れ方だ。

それを見ていた蓮は、いち早く華の異変に気付く。蓮は辺りを見回す。

舞台裏でくすくすと笑う声が聞こえる。寧々達だ。蓮が

「何か飲ませたの?」

と問いかけた。寧々は「いいえ」と首を振って答えた。

蓮は寧々を睨みつけた。

「なんかしたの?」

流石の寧々も折れてしまった。

「白雪姫なんて、出しゃばってるからこういうことになるのよ!帝君は寧々のもので……」

寧々の話を遮って蓮が強く言う。

「君の話は聞いてない!華に何したんだ!」

「うぅ……少しだけ眠くなる薬をいれたのよ、さっき飲んでた水に…すぐ効き目が出る物だったんだけどここまでもったのは計算外よ」

「君って勘違いしやすいタイプだよね。だから、モテないんじゃない」

「寧々はね、ベタベタ帝君に引っ付くあの子が嫌いでっ!」

「人の話聞いてる?」

「なっ、何よっ!」

「ベタベタ引っ付いてんのは、華じゃなくて、その帝って奴じゃねーの?」

「帝君が神聖さんのこと好きっていうのは知ってた…でも」

「チャンスはあるんじゃない?」

「どういうこと?」

「今、僕は神聖華の王子様だよ?」

「えっ?」

「君には言っとこうかな?俺と華、結構特別な関係だから……」

寧々の頭の中は真っ白になっていた。

「じゃあ、華が起きるまで、何分?」

「この時間からだから三十分前後」

「長いね……まぁ、幸いにも、最後だからそれ位の延長は大丈夫だよ、行ってくる、西沢さん」

「へぇー腹黒王子ね、音嶺さんは…帝君をゲットできるかもしれない!私の素晴らしい演技で、三十分ぐらいスグ終わらせる!」



幕が閉じた瞬間、蓮がみんなに声をかける。

「みんな!きいてくれ!不慮の事故で姫役の華が動けない!三十分だけ延長できるか!台本引き延ばして!細部をしっかりと!アドリブでいくよ」

みんなは、頷いた。

次は蓮のセリフ。

『白雪姫!あなたを必ず助けます』


観客がまた、ざわつく。

「あの子だれ?」

「違う学校だよね。だけどイケメンだ!」

「演技うまい!」

『白雪姫を救える薬はここにある!本当に救いたければ、私の城に来ることだな!ハッハッハッハー!』

「西沢さん、凄い迫力……」

『ここから、王子の冒険が始まったのです!』

「白雪姫の話って、こんなにあったっけ?」

「でも、面白そう!」


『王子様!是非とも僕達も連れて行って下さい!』

『それは七人の小人達でした』

『八人は、様々な戦いを経て魔女の城にたどり着きました』

『魔女よ!薬を!』

(あと、十分。起きてくれよ、華ちゃん!)

『そんな簡単に渡すとでも?』

『くっ!』

『さぁ、私に秘められた力よ!今、解き放て!』

『魔女が、進化した?』

『僕は、愛する白雪姫を目覚めさせる!そう簡単に引くわけにはいかない!』

『そうして、魔法と剣の戦いが始まりました』

「凄い迫力……」

『王子は、最後の力を振り絞り、魔女の腹に剣を刺しました』

『これが、姫を助けられる薬……』

『王子は、白雪姫のもとへ帰りました』

蓮は、その薬を口に含み、華に飲ませた。薬は本物ではないのだが、蓮は自分の気持ちを抑えきれなかった。華は目覚める。華は小声で

「何やってるの?」

と聞く。蓮は

「もうラスト!話合わせて!」

「うん」

「もう一回キスさせて!」

「あとでね……」


『姫が目覚めた』

『ヤッター』

『心配させてごめんなさい!』

『白雪姫!僕と結婚してください!』

『喜んでっ!』

『こうして、白雪姫と王子様は幸せに暮らしたとさ、おしまい!』


スタンディングオベーションだった。大成功だ。

こうして、波乱の劇は終わりを告げた。


そして、後夜祭が始まろうとしていた。
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