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第五十話 大阪・京都編 【14】

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「神聖さんって、ほんとスタイルいいよね!」

  上品に大浴場の湯船に浸かる華を見て、ある女子が羨ましそうに言う。

「そうかな。…ありがとう。あなたも綺麗だと思うよ。スタイルはもちろんだけど、艶やかな髪と綺麗なお肌、ね。」

 華は思っていることを率直に答えた。華自身、女子特有のこのやり取りは苦手だ。
『あなたココ綺麗だね。』
『ううん。私なんて全然…。あなたこそ、ココとても綺麗!』
『そんなことないよ!あなただって…』
 これの無限ループである。最後の方ではお世辞を通り越して、何を褒めて合っているのか、分からなくなってくる。
 だから華は、率直に羨ましいなと思った所を、こういった場では、伝えることにしている。
 下手なお世辞を言うと、墓穴を掘りかねないので。

「し、神聖さん…!それがお世辞と分かっていても、嬉しい!!」

 学年一、学校一の美少女にそう言われて、感動のあまり口を手で押さえる女子。

「お世辞じゃないのだけれど…。」

 華がそう付け加えるが…。

「神聖さんが言うと、お世辞に聞こえちゃうの!」

 と、即答で反論してくる。

「そういうものなの?私は本心で言っているのよ?」

 もうそろそろキレそうだったので、真剣な眼差しで彼女を見つめると、

「きゃぁぁぁっ!これだよ!神聖さんが天使と呼ばれる所以。」

 どうやら彼女は分かってくれたようであった。
 華には身に覚えのないことの所以も、分かったそうだが。

「ええっと…?」

 華が問い返すと

「神聖さんって、学校で天使って呼ばれてるの!それが今、分かったような気がする!」

 彼女は満面の笑みを華に見せ、別の友達の元へ行った。



「––––華。ちょっと、いい?。」

 ゆっくりと湯船に浸かるのもつかの間。
 後ろから華を呼び止める声が聞こえた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

「うーん。やっぱり、塀を登るのは断念しましょう。周りの目もあるし、なんと言っても不自然で怖いわ、この光景。」

 NOZOKIリーダーである爽が、タオルを腰に巻きつけて、塀登りに挑戦中の快と薫の姿を見て、作戦断念の指示を出す。

「なんで!ここまで頑張ったのに!」

 快は甲高い声で起こるが、爽は…

「アンタたちが、変態にしか見えないのよ!NOZOKIはもっとエレガントにやるものじゃない?」

 と、苦言。

「はあ?覗きやってる時点で変態だろ!」

 薫はマトモなツッコミをするが…

「覗きをカッコよくこなすのが、
真の男…いや、真の漢なんだよ!」

 蓮が、よく分からない理由で、薫を説得する。
 今の空気感では、何故か蓮の言い分の方が四人の心にしみるらしい。

「さあ、ルート変更ね。女将だけが知っている、連絡扉にご招待するわ。」

 爽の満面の笑みに、快と薫がツッコム。

「最初からそこを案内しろよ!!」

「俺たちの努力と、勇気はなんだったの?」

「さすが!用意周到の爽さんです!」

 蓮だけが、爽の笑みに心からの拍手を送っていた。

「…ココよ!」

 一行が辿り着いたのは、staff onlyと書かれた扉。

「おい!マジでの職権濫用じゃねぇか!」

 薫が血相を変えて喚く。

「…怖くなったの?じゃあ、帰ったら?
快が職権濫用してくれるのよ?
せめてアタシも、貢献しないとね。」

 爽が低く恐ろしいトーンと、顔で、薫を諭す。

「べ、別に怖くなってなんかない!」

 薫は慌てて反論し、爽は微笑を浮かべる。

「さあ、行くわよ!多分、今の時間だったら、脱衣所には誰もいないわ。オンナは風呂が長いからねっ!
作戦よ。脱衣所に入ったら、見つかりにくい一番奥のロッカーを盾にして進んで行くわ。もし、誰かに見つかったら、私を呼んでちょうだい。快は別よ。さっき言ってた通り、一人で解決できるでしょ?」

 爽は作戦を述べた後、快に問いかける。

「うん。できる。」

 快は自信満々にそう答えた。

 そして一行は、扉を開けた!

♢♢♢♢♢♢♢♢♢

「ここが女子風呂…!」

 蓮は感嘆の声を漏らす。

「落ち着きなさい!まだ、始まってないわ!」

 蓮を注意し、周りを見渡す爽。

「オッケー。さあ、行くわ……しぃぃっ!」

 爽は口元に人差し指を添えて、残りの手で、危なっかしい薫の口を手で押さえた。

 そこから聞こえてきたのは、女子数名と、華の声だった。

「–––––なんでっ!」

「何度言っても、私は同じ答えよ。
 というか、私は一度退いたのよ?それでも?」

「それでも、だよ。私は、理由を聞かない限り納得できない。」

「理由なら話したじゃない。」

「あんな理由で納得できると思う?」

「納得できたかできないかは関係ないわ。それ以上詮索しないで。」

「……そうなんだ。華、そんな目出来るんだ。でも、私も、伊達じゃないんだよ?
それが、う……」

「ちょっと待って!舞、下がって!」

「え?ぇぇ?????」

 突然の言葉に驚きを隠せない、舞と呼ばれた女のコ。
 そして華は何かを感じとったように、即座に振り向いて、先の尖ったクシを浴衣から取り出して、気配のある方に、ダーツのように投げる。

 浴衣の袖を上品にめくりながら、投げる姿は誰もが目を見張る。

「ごめん、舞。ちょっと行ってくる。ゆっくり、してきて。」

「うん。分かった。」

 華の言葉に同意するそぶりを見せた舞。
 華が去った後、舞は

「変わってないね。諦めないから。絶対。」

 と、呟いたのだった。

♢♢♢♢♢♢

 そして、矢の如く鋭いクシは…

 爽の顔に後もう少しで刺さっていたであろう所に、彼の髪と壁を引っ付ける役割を果たしていた。
 爽が咄嗟の判断で避けなければ、無残な結果となっていた。

「あら。命中できませんでしたか。残念です。」

 華がロッカーの陰から姿を現わす。

「殺す気⁉︎」

 爽が、発狂するが。

「覗き魔に殺意を抱くのは、当然なことだと思いますが?」

 ど正論をぶつけられ、何も言えない男たち。

「まあ、今回は、辱めはうけてないわけですし、許しますが。今後、このようなことをした場合、顔にクシを命中させるので、気をつけてください。」

 華の恐ろしい言葉と、表情で、せっかくの彼女の浴衣姿を、男たちは堪能出来なかった。
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