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5話 教室編 上

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 時計が朝の九時を指す頃、祈は新しい部屋で、新生活の準備をしていた。普通の高校なら、もう授業は始まっている頃なのかもしれないが、この高校は違う。吸血鬼は夜行性の生き物。吸血鬼の学校である此処は、始まる時間も吸血鬼に合わせてている。とのことで、授業開始のチャイムがなるのは午後三時。前倒しする事も多々あるのだが、設定上はそうらしい。

「ふうー。これで概ねは準備終了かぁ。この部屋広いから、結構体力使ったなぁ。初対面の人にあんな態度で接したのは初めてだなぁ。もしかしたら、またほかの作戦考えてるのかも!いや、興味すら見せずに、独りで授業することになるかも!でも、分かんないや。私もまだまだってことか。」

 そんなことをブツブツと言っている祈は、頑丈そうな箱を開ける。中には、鍵が付いてある日記帳が入ってある。そして、沢山のノートが入っている。そこには"歩み"と書いてある。しかし祈はそれを、微笑むように見つめると、日記帳だけを取り出し残りはもどす。日記帳は机上に置く。
 そして、祈は、新たに買ってきたノートを開封し、十冊の束のうち四つを取り出す。そして、生徒会の四人の名前を一冊ずつ書く。
 若干ストーカーぽいと言えばぽいが、これが祈流の生徒に接するための誠意である。
 一人一冊、どの子にも作ってきた。紙すら買うことがままならなくても、自分の食費までも削ってまで、一冊ずつ買ったのだ。だから、これは続けていきたいと思っている。
 そんなこんなで時は過ぎ、時計は二時十五分をさしている。

「もうそろそろ、行く時間か。行ってきます!って、誰もいないか。」

 そんなボケとツッコミを1人で入れながら、部屋を出る祈だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「なーなー!知ってる?今日、転校生くるらしで!」

「どんな奴なんだろうな?」

「アイちゃんよぉ?自分は楽しみやないんか?そんなすまし顔してぇ!イイな!美少年さんは!」

 そうやって、ワチャワチャする者達。そして、アイと呼ばれる美少年は、こう言う。

「だから、アイちゃんって呼ぶな!……別に。マンガでもあるまいし、イケメンな転校生なんて、来るわけないでしょ?此処、一応は共学なんだから、女の子来て欲しいけど。その可能性はないね!イケメンの方がまだ理解できるよ。まぁ、僕は美少年として、このクラスでイケメンと云うと、唯月兄弟でしょ?ていうか、僕、クラスちがうんですけど?」

「そうだな!お前は一年下の二年A組だったな!ショタだな!」

「ショタって、言うな、下僕の分際で。」

「下僕は言い過ぎだ!上級生に向かって、んなことゆーな!」

「じゃ、そろそろ戻るから。バイバイ。サーヴァント。」

「下僕よりは上がったけど、まだ召使いかよ!ちょっと、カッコよく言うんじゃねーよ!」

「ドンマイ!カンタ、義兄弟とはいえ、お前、お兄ちゃんやのに、めっちゃ下に見られてんなー!」

 若干関西弁紛れで軽そうな少年も、その横で頭を抱えているしっかりしてそう少年も整った顔立ちである。そんな中、教卓の前に立つ一人の男声で、ワチャワチャした空気が、電流が走ったように、静かに変わる。

「今日は転校生を紹介する。おい、入ってこい。」

「はい」

 ゆっくりと開く引き戸に、教室中の視線が注がれる。

「え?」

 誰が言ったのかは特定できないが、恐らくほとんどがそう思ったのは確かである。
 入ってきたのは、膝よりも少し短いスカートを履いており、ブレザーは男子とほぼ同じ。違うのは袖の部分が姫袖で、ネクタイがリボンに変わっているくらい。それをバッチリと着こなして、胸くらいの長さの髪を緩く横で束ね、十字架の髪留めをしている、美少女。

「初めまして。私は天方祈です。この学園の寮専属教師でもありますが、皆さんと一緒に勉強したいと思います!宜しくお願いします!」

「彼女は言った通り寮専属教師だ。相談も何でもするといい。だが、この学園にいる時は生徒だ。お前らも切磋琢磨しろよぉ!
じゃあ、いのりん、唯月兄弟の真ん中の席に座ってくれ。」

「「「「いのりん!?」」」」

「いのりんって言ったらダメなのか?」

 関西弁紛れの少年は、先生の問いに答える。

「いのりんはいいけど、いや、アカンけど、接し方全然違うない?あだ名ってゆーのはな、そこそこ、親交を深めた相手やないと、恐れ多いゆうかな、なんか先生がゆうと、ストーカーにしか聞こえへんというかな……。」

「ス、ストーカー!?そうか、俺は生徒にこんな事を言われてしまったのか……
 ストーカー、フフ、ストーカー。スカート、スカート、スカートー、ストーカー……。
            
お!今日の朝ごはんはトーフフ」

 先生は黒板に意味不明な文字を書き続けている。そこで、祈は先生を励ますように、そして、教室の皆に伝わるように言う。

「先生は、私をここに馴染めるように、努めてくださったんです。それに、あだ名なんて、初めてなのでとっても嬉しいです。私は生物学上女ですので、話しにくい事もあるかとは存じますが、私が教室に入ってくる前の笑顔、とっても、最高でした!だから、いつもの感じで接してくれると嬉しいかな!」

 そう言って、満面の笑みの祈を見て、ほぼ全員の生徒が

(いのりん、マジ女神!聖母!天使!)

と思うのであった。

 そして祈は、唯月ハルと、ユウの間の席に座る。しかし、二人は祈を睨みつけるばかり。そんなことはお構い無しに、祈は宜しくね、と云うが伝わらないので、
 お前ら何調子こいてんだ、さっき私に負けたくせにという思いで、言ってみる。すると、その思いに比例する様に、威圧感が凄まじくなっていく。祈は、自分はそんな完璧な人間ではないので、時にはこうなる事もあるが、自分的にはまだ、怒っているの域に達していないのだ。しかし、今の祈の笑顔は、凄く怖いのである。祈はトドメのように言う。

「宜しくお願いします。」

「あぁ」

「宜しく……お願いします……。」

 流石にこれは、この兄弟にしても言わざるを得なかった。

「すげー、あの兄弟が、返事を返したぞ!」

「あの娘スゲー!」

「いやー、カンタどうや?おもろくなってきたんちゃう?ん?カンタ?カンタくーん!」

 カンタと呼ばれる、先程頭を抱えていた少年。その少年の顔は、紅く染まっており、こう付け加えた。

「ヤバイ。すごい、タイプ……。」

「ほほう、確かにあの兄弟に返事を返させるとは、今までになかった、すごいタイプやな!……うん?すごい、タイプ……、もしや、カンタ君よ、青春なんか?いや、今はあんまり聞かないでおこう。」

 そうやって、彼が話している間にも、カンタと呼ばれる少年は、どこか上の空だった。




 












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