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1話 プロローグ
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そこは森の奥の教会。
そんな静かな森に、どこからともなく、子供たちの歌声が鳴り響く。
それは元気で、優しくて、素直で。
何にも囚われない、自由な歌声。
パイプオルガンの綺麗な伴奏と、子供達の声は、意外な組み合わせではあるが、とてもマッチし美しい。
伴奏をしている者は、齢十八の少女。
名は、天方祈。(あまかたいのり)。
祈は三年前からこの教会で、子どもたちを集め、勉強を教えている。
亡くなった両親が成し得なかった、学者、教師になる夢を叶えるために。そして、子ども達の笑顔を見るために。
此処に来るのは、様々な事情で学校に行けない子たち。
家族も親戚もいない祈もまた、高校へは行けなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
此処は、魔法技術が発達し、唯月(いつき)の名を持つ吸血鬼と、その支配下にある、吸血鬼一族が征服している世界。
学校に通えるのは、その吸血鬼等と、吸血鬼に媚びを売って生き残っている、富裕層達。彼等は、人間と呼ばれる資格を持つ。
それでは、それ以外は?
それ以外は家畜として扱われる。もっと貧しい家庭になると、ゴミ、ただの蟻と等しい扱いをうける。
祈の父は学者であったため、富裕層の中に入っていた。だから、祈は中学二年生まで学校に通えていた。
しかし、魔法の事故により、両親を亡くしてしまった。他の親戚もいない祈にとって、それはあまりにも残酷だった。祈は幸せだった人生から、一人ぼっちで、家畜の人生に没落した。
ふと、父の夢を思い出してみる。父は、元々学者ではなく、教師を目指していた。しかし、勉強を教える相手は、吸血鬼。富裕層の生徒は、ほぼ個別で、人工知能で教える。魔法を教える授業もないので、ろくに授業なんてできない。それに比べ吸血鬼は、熱心に教えられることができる。魔法は、個人の特徴や、人工知能では、レクチャーできない、内容なので、勉強も全て、オトナの吸血鬼が教える。
そう、オトナの吸血鬼。祈の父は人間だ。教師をするもなにも、免許が取れないのである。人間だから。父は昔私塾を開いており、その授業はとても分かりやすく素晴らしいものだった。父は敏腕教師。でも、無理だった。だから、父は、その壁を超えようと奮闘していた。もう少しだった。唯月のトップと、話が決まって、その当日に命を落とした。
だから、私は父の夢を次ぐと決めた。父の夢は母の夢。両親の夢は祈の夢だから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「祈先生っ!できたよ!ほーてーしきってヤツ!」
そう言って、無邪気に笑う、この教会で祈の次に背が高い少年。そして、祈は少年の頭を撫でる。
「すごいよっ!タスクは天才ねっ!さぁ、次は国語ね。」
タスクと呼ばれた少年は、先ほどの笑顔とは裏腹に、拗ねた顔になる。
「俺、国語嫌いっ!数学がいいっ!テストはイヤだけど…先生の授業なら楽しい!嫌いな教科でも頑張れる!
俺将来、先生のナイトになる!強くなって先生を守る!」
拗ねた顔が、希望に満ちた笑みになる。祈は、ありがとうと笑顔でいった。
すると、祈は思い出した様に、子ども達に言う。
「あ、もうお昼だね。ご飯の準備しないと。…もう食料切らしてるんだった。先生街まで買い出しに行って来るから、タスク、皆のことお願いできるかな?皆も、賢くお留守番していてくれるかな?」
子ども達は全員、寂しい表情を見せながらも、頷いた。そして、タスクという名の少年は、子どもたちを代表して、応える。
「うん、僕達も先生について行きたいけど、邪魔になるしなっ!だから待っとくよ!その間、皆に勉強教えとく!」
そう言って胸を張る少年と、笑顔になる子ども達を見て、祈は満面の笑みで、皆に伝えた。
「うんうん、タスク、皆を宜しくね!皆も、賢く待っててね!
じゃあ行ってきます!」
そう言って、祈は寒さが残るこの卯月の季節に、丁度良いような、薄手のカーディガンを羽織り、大きな鞄を持って教会を出る。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□
教会から、歩いて約三十分ほどの街。そこはまるで、吸血鬼のような化け物が支配しているとは思えないほど、賑やかで、人間ばかりの街。しかし、此処は吸血鬼から見れば人間としてみなされていない者の溜まり場である。でも、此処は新鮮な食材が多いのに加え、祈はここの街の全ての人と顔見知りなのだ。だから安心感がある。金銭的な問題もあるから、物価が高い吸血鬼の市場で買おうとも思わない。
祈りはいつもの店に立ち寄る。そこで食材を吟味していると、会計口の方から、言い争いが聞こえてくる。
「おい、文無しっ!そんなに腹が空いてるからって、会計前に食べるな!それに、なんだ?この安っぽい偽小判はなんだ!こっちにも、生活があるんだ!そんな善人にはなれねぇーんだよ!」
もう一人の、色々言われている、美形の男が言い返す。
「だーかーらー!別にお金払ってるから、此処で食べてもいいんじないか?!あんたに止められたから、食べてないし…。それに、このお金、今食べたヤツより相当価値が高いのだ!だから、この街はっ!猫に小判と言うのはこの事だな。」
火に油をさす言葉を、淡々と言う、美形の男。祈には、この男に見覚えがあった。そう、一度だけ姿を見たことがある。中学校を止めさせられたとき。姿だけ、一方的に。彼は確か吸血鬼……。止めなきゃ。恐らく彼は、吸血鬼だから、此処のルールなんて知ったこっちゃない!それに、これ以上彼を怒らせると、ただでは済まない。そう思うと、彼女の体は自然に言い争っている者の間に立っていた。
「カルディオおじさん!彼は、私の知り合いなの!彼は旅人だから、色々な国のお金を持っていて、まだこの国の言葉は練習中らしいの。だから、凄くご無礼な事を言ってしまったけれど、許してあげてください。」
祈の説得に納得したようで、仕方なく頷くカルディオ。そして、美形の男は唖然としている。しかし、祈との目が合い、祈の真っ直ぐな瞳には、
[あ・や・ま・れ]と書いてあるようにも見え、威圧感がもの凄かったので、小さく呟くように、スミマセンと言った。カルディオは祈に言う。
「祈ちゃん、ごめんねぇ。こっちも言い過ぎたよ。おい、旅人さんよ、祈ちゃんに感謝しろよ?」
「いのり…?」
美形の男は、そうつぶやく。祈は笑顔を振り撒く。美形の男は、我に返ったように頷く。そして、祈はカルディオに注文する。
「カルディオおじさん、このかごの中の物と、コロッケ三つ、お願いします。」
あいよ、と返事をして、カルディオはいわれたものを袋につめていく。詰め終わり、毎度あり、と言われると、祈は笑顔で店を後にする。そして、美形の男の手も引いて。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
「コロッケどうぞ、吸血鬼のトップさん。」
そう言われた美形の男は、コロッケを貰いつつ、驚く様子を見せる。
「ありがとう。コロッケって何だい?あと、何で私の事がわかったのだ?」
コロッケを知らないことに驚きを隠せない祈だが、彼の問いに答える。
「コロッケって言うのはとっても美味しいんですよ!カリカリの衣にフワフワの身っ!貴方には縁もゆかりもない食べ物でしょうが、美味しいので食べてください。せっかく買ったのですから。
あ、あと、どうして分かったのか、でしたっけ?えっと、それはですね、貴方が吸血鬼しか使っていない硬貨、を使っていたので。普通の人間には価値が分からないような、硬貨を。あと、トップって分かったのは、見たことがあったんです。私が退学する前に。その時、貴方はすごいオーラでしたから。それにそのペンダント。それは、唯月の名を持つ吸血鬼がつけているものだからです。昔本で読んだことがあって、〔このペンダントを身につけているものは、神から授かった、紋章をその体に焼き付けている〕と。私のただの、推測なので、間違っていたらすみません。あと、自己紹介、まだでしたよね。私の名前は……」
「天方祈、さんだね。」
自分の名前を、彼に言われて、驚く祈。今度は祈が問う。
「何故、分かったのですか?」
彼は祈を見つめて、こう答える。
「天方先生は、良い先生だったから、よく知ってるよ。私は認めようと思っていたんだ。会談の時に報告するつもりだった。けれどそれが叶わなくて、だから、私はずっと君を探していた。天方先生の娘さんなら、私の学校に革命を起こせるのではないか、とね。」
「貴方の学校?」
彼は頷く。そして、こう付け加える。
「そう、私の学校。唯信ヶ花学園(ゆいのがはながくえん)に来てくれないかな?」
その名に、祈は耳を疑う。
「唯信ヶ花学園って、名門男子高じゃないですか。そんなの、私は女ですよ?……あ、そっか、共学になったんだ。それに、私は入学できるような、身分ではありませんし…。それに教会の子達も…。」
先程とは違う真剣な目で、祈を説得する。
「身分?君の父親はそれを超えようとした。なのにその娘は、その理不尽を、素直に受け止めている。君の夢は叶う。勉強はできるし、教師にもなれる。明日から。教会の子達だって、君の夢が叶うのを望んでいる。もしそうでなければ、君が育てた子は君の理念に反する。」
またまた、彼の口から爆弾なが放たれた。
「教師に?そんなのどうやって……。」
「君には、家庭教師をしてもらう。私の四人の息子たちを、一から、しつけ直し欲しい。正しくは、寮のみなの教師なのだが。特に、あの四人をな。」
祈は、溜め息を吐き出す。
「ハァ。貴方のことですから、恐らく、私の弱みか、逆らえない何かを持っているのでしょうね。」
彼は苦笑し、分厚い本を取り出す。その中身には、様々な契約の文字がかかれていた。
「これは、逆らえませんね。特に最後の一〇八条なんて。分かりました。引き受けます。この契約に従って。」
彼は胸をなで下ろし、付け加えていった。
「その一ことを待ってた。さぁ、これがただ一つの入学試験。私は、善人と思うか?悪人だと思うか?」
祈は即答で返した。
「そんなの分かりません。でも、偽善者でもあり、偽悪者でもあると、思います。それは、これから貴方とコミュニケーションをとり、分かっていくこと。私が貴方を偽善者と思うか、偽悪者と思うかは、貴方の行動と、私の思想によって決められるのだと、思います。」
彼はコロッケを食べながら、笑顔で返す。
「合格だ。明日から、こちらへ来い。寮もあるから、日用品だけでいい。あと、言っておくが、女子生徒は君だけだ。頑張れ。私の名は唯月煌太だ。詳しいことは明日説明する。あ、美味しいなぁ、コロッケというやつは。もう一つくれんか?」
コロッケを一つ渡しながら、祈は言う。
「三個買っててよかった。……ん、女子生徒、わ、私だけっていいました?さっき?」
普通に頷く煌太。そして、ショックを受ける祈。
全ては此処から始まる。運命の歯車が狂い出す。
そんな静かな森に、どこからともなく、子供たちの歌声が鳴り響く。
それは元気で、優しくて、素直で。
何にも囚われない、自由な歌声。
パイプオルガンの綺麗な伴奏と、子供達の声は、意外な組み合わせではあるが、とてもマッチし美しい。
伴奏をしている者は、齢十八の少女。
名は、天方祈。(あまかたいのり)。
祈は三年前からこの教会で、子どもたちを集め、勉強を教えている。
亡くなった両親が成し得なかった、学者、教師になる夢を叶えるために。そして、子ども達の笑顔を見るために。
此処に来るのは、様々な事情で学校に行けない子たち。
家族も親戚もいない祈もまた、高校へは行けなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
此処は、魔法技術が発達し、唯月(いつき)の名を持つ吸血鬼と、その支配下にある、吸血鬼一族が征服している世界。
学校に通えるのは、その吸血鬼等と、吸血鬼に媚びを売って生き残っている、富裕層達。彼等は、人間と呼ばれる資格を持つ。
それでは、それ以外は?
それ以外は家畜として扱われる。もっと貧しい家庭になると、ゴミ、ただの蟻と等しい扱いをうける。
祈の父は学者であったため、富裕層の中に入っていた。だから、祈は中学二年生まで学校に通えていた。
しかし、魔法の事故により、両親を亡くしてしまった。他の親戚もいない祈にとって、それはあまりにも残酷だった。祈は幸せだった人生から、一人ぼっちで、家畜の人生に没落した。
ふと、父の夢を思い出してみる。父は、元々学者ではなく、教師を目指していた。しかし、勉強を教える相手は、吸血鬼。富裕層の生徒は、ほぼ個別で、人工知能で教える。魔法を教える授業もないので、ろくに授業なんてできない。それに比べ吸血鬼は、熱心に教えられることができる。魔法は、個人の特徴や、人工知能では、レクチャーできない、内容なので、勉強も全て、オトナの吸血鬼が教える。
そう、オトナの吸血鬼。祈の父は人間だ。教師をするもなにも、免許が取れないのである。人間だから。父は昔私塾を開いており、その授業はとても分かりやすく素晴らしいものだった。父は敏腕教師。でも、無理だった。だから、父は、その壁を超えようと奮闘していた。もう少しだった。唯月のトップと、話が決まって、その当日に命を落とした。
だから、私は父の夢を次ぐと決めた。父の夢は母の夢。両親の夢は祈の夢だから。
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「祈先生っ!できたよ!ほーてーしきってヤツ!」
そう言って、無邪気に笑う、この教会で祈の次に背が高い少年。そして、祈は少年の頭を撫でる。
「すごいよっ!タスクは天才ねっ!さぁ、次は国語ね。」
タスクと呼ばれた少年は、先ほどの笑顔とは裏腹に、拗ねた顔になる。
「俺、国語嫌いっ!数学がいいっ!テストはイヤだけど…先生の授業なら楽しい!嫌いな教科でも頑張れる!
俺将来、先生のナイトになる!強くなって先生を守る!」
拗ねた顔が、希望に満ちた笑みになる。祈は、ありがとうと笑顔でいった。
すると、祈は思い出した様に、子ども達に言う。
「あ、もうお昼だね。ご飯の準備しないと。…もう食料切らしてるんだった。先生街まで買い出しに行って来るから、タスク、皆のことお願いできるかな?皆も、賢くお留守番していてくれるかな?」
子ども達は全員、寂しい表情を見せながらも、頷いた。そして、タスクという名の少年は、子どもたちを代表して、応える。
「うん、僕達も先生について行きたいけど、邪魔になるしなっ!だから待っとくよ!その間、皆に勉強教えとく!」
そう言って胸を張る少年と、笑顔になる子ども達を見て、祈は満面の笑みで、皆に伝えた。
「うんうん、タスク、皆を宜しくね!皆も、賢く待っててね!
じゃあ行ってきます!」
そう言って、祈は寒さが残るこの卯月の季節に、丁度良いような、薄手のカーディガンを羽織り、大きな鞄を持って教会を出る。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□
教会から、歩いて約三十分ほどの街。そこはまるで、吸血鬼のような化け物が支配しているとは思えないほど、賑やかで、人間ばかりの街。しかし、此処は吸血鬼から見れば人間としてみなされていない者の溜まり場である。でも、此処は新鮮な食材が多いのに加え、祈はここの街の全ての人と顔見知りなのだ。だから安心感がある。金銭的な問題もあるから、物価が高い吸血鬼の市場で買おうとも思わない。
祈りはいつもの店に立ち寄る。そこで食材を吟味していると、会計口の方から、言い争いが聞こえてくる。
「おい、文無しっ!そんなに腹が空いてるからって、会計前に食べるな!それに、なんだ?この安っぽい偽小判はなんだ!こっちにも、生活があるんだ!そんな善人にはなれねぇーんだよ!」
もう一人の、色々言われている、美形の男が言い返す。
「だーかーらー!別にお金払ってるから、此処で食べてもいいんじないか?!あんたに止められたから、食べてないし…。それに、このお金、今食べたヤツより相当価値が高いのだ!だから、この街はっ!猫に小判と言うのはこの事だな。」
火に油をさす言葉を、淡々と言う、美形の男。祈には、この男に見覚えがあった。そう、一度だけ姿を見たことがある。中学校を止めさせられたとき。姿だけ、一方的に。彼は確か吸血鬼……。止めなきゃ。恐らく彼は、吸血鬼だから、此処のルールなんて知ったこっちゃない!それに、これ以上彼を怒らせると、ただでは済まない。そう思うと、彼女の体は自然に言い争っている者の間に立っていた。
「カルディオおじさん!彼は、私の知り合いなの!彼は旅人だから、色々な国のお金を持っていて、まだこの国の言葉は練習中らしいの。だから、凄くご無礼な事を言ってしまったけれど、許してあげてください。」
祈の説得に納得したようで、仕方なく頷くカルディオ。そして、美形の男は唖然としている。しかし、祈との目が合い、祈の真っ直ぐな瞳には、
[あ・や・ま・れ]と書いてあるようにも見え、威圧感がもの凄かったので、小さく呟くように、スミマセンと言った。カルディオは祈に言う。
「祈ちゃん、ごめんねぇ。こっちも言い過ぎたよ。おい、旅人さんよ、祈ちゃんに感謝しろよ?」
「いのり…?」
美形の男は、そうつぶやく。祈は笑顔を振り撒く。美形の男は、我に返ったように頷く。そして、祈はカルディオに注文する。
「カルディオおじさん、このかごの中の物と、コロッケ三つ、お願いします。」
あいよ、と返事をして、カルディオはいわれたものを袋につめていく。詰め終わり、毎度あり、と言われると、祈は笑顔で店を後にする。そして、美形の男の手も引いて。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
「コロッケどうぞ、吸血鬼のトップさん。」
そう言われた美形の男は、コロッケを貰いつつ、驚く様子を見せる。
「ありがとう。コロッケって何だい?あと、何で私の事がわかったのだ?」
コロッケを知らないことに驚きを隠せない祈だが、彼の問いに答える。
「コロッケって言うのはとっても美味しいんですよ!カリカリの衣にフワフワの身っ!貴方には縁もゆかりもない食べ物でしょうが、美味しいので食べてください。せっかく買ったのですから。
あ、あと、どうして分かったのか、でしたっけ?えっと、それはですね、貴方が吸血鬼しか使っていない硬貨、を使っていたので。普通の人間には価値が分からないような、硬貨を。あと、トップって分かったのは、見たことがあったんです。私が退学する前に。その時、貴方はすごいオーラでしたから。それにそのペンダント。それは、唯月の名を持つ吸血鬼がつけているものだからです。昔本で読んだことがあって、〔このペンダントを身につけているものは、神から授かった、紋章をその体に焼き付けている〕と。私のただの、推測なので、間違っていたらすみません。あと、自己紹介、まだでしたよね。私の名前は……」
「天方祈、さんだね。」
自分の名前を、彼に言われて、驚く祈。今度は祈が問う。
「何故、分かったのですか?」
彼は祈を見つめて、こう答える。
「天方先生は、良い先生だったから、よく知ってるよ。私は認めようと思っていたんだ。会談の時に報告するつもりだった。けれどそれが叶わなくて、だから、私はずっと君を探していた。天方先生の娘さんなら、私の学校に革命を起こせるのではないか、とね。」
「貴方の学校?」
彼は頷く。そして、こう付け加える。
「そう、私の学校。唯信ヶ花学園(ゆいのがはながくえん)に来てくれないかな?」
その名に、祈は耳を疑う。
「唯信ヶ花学園って、名門男子高じゃないですか。そんなの、私は女ですよ?……あ、そっか、共学になったんだ。それに、私は入学できるような、身分ではありませんし…。それに教会の子達も…。」
先程とは違う真剣な目で、祈を説得する。
「身分?君の父親はそれを超えようとした。なのにその娘は、その理不尽を、素直に受け止めている。君の夢は叶う。勉強はできるし、教師にもなれる。明日から。教会の子達だって、君の夢が叶うのを望んでいる。もしそうでなければ、君が育てた子は君の理念に反する。」
またまた、彼の口から爆弾なが放たれた。
「教師に?そんなのどうやって……。」
「君には、家庭教師をしてもらう。私の四人の息子たちを、一から、しつけ直し欲しい。正しくは、寮のみなの教師なのだが。特に、あの四人をな。」
祈は、溜め息を吐き出す。
「ハァ。貴方のことですから、恐らく、私の弱みか、逆らえない何かを持っているのでしょうね。」
彼は苦笑し、分厚い本を取り出す。その中身には、様々な契約の文字がかかれていた。
「これは、逆らえませんね。特に最後の一〇八条なんて。分かりました。引き受けます。この契約に従って。」
彼は胸をなで下ろし、付け加えていった。
「その一ことを待ってた。さぁ、これがただ一つの入学試験。私は、善人と思うか?悪人だと思うか?」
祈は即答で返した。
「そんなの分かりません。でも、偽善者でもあり、偽悪者でもあると、思います。それは、これから貴方とコミュニケーションをとり、分かっていくこと。私が貴方を偽善者と思うか、偽悪者と思うかは、貴方の行動と、私の思想によって決められるのだと、思います。」
彼はコロッケを食べながら、笑顔で返す。
「合格だ。明日から、こちらへ来い。寮もあるから、日用品だけでいい。あと、言っておくが、女子生徒は君だけだ。頑張れ。私の名は唯月煌太だ。詳しいことは明日説明する。あ、美味しいなぁ、コロッケというやつは。もう一つくれんか?」
コロッケを一つ渡しながら、祈は言う。
「三個買っててよかった。……ん、女子生徒、わ、私だけっていいました?さっき?」
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