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本編
真実の愛とはただの浮気であると知る
しおりを挟む「俺とヴァレリアは、真実の愛で結ばれているんだ」
やあやあ、皆のものご機嫌いかがかな。
私はオウタイーシだよ。
ふふふ、先のセリフ、まだ言ってら、って言わないでおくれよ。
ヴァレリアと再婚約まで約一年、再婚約してから数年が経過した。
今ではヴァレリアと固い絆で結ばれていると言っても過言ではないだろう。
なぜなら、そう。俺達は真実の愛で結ばれているから。
ふっ、何というロマンティックな響きだろう。
俺とヴァレリアを邪魔する者はもういない。
これは運命だ。
ヴァレリアは、俺にとって運命の女性。
二人を邪魔する者はいない。たぶん。
横恋慕されてもキニシナーイ。きっと。
いやそんな事されたら気にする。ヴァレリアを奪われないか、向こうに惹かれたりしないか。
俺に言い寄る女は弾いても、ヴァレリアは華奢だしか弱いから守ってやらねば。
「殿下、まさか、ヴァレリア嬢に『君は真実の愛の相手だよ』とかおっしゃってませんよね?」
まさかーねー、ははは、なんてアイザックが笑いながら尋ねてきた。
「最初からそう言ってるぞ!
『君は運命の女性だ。僕の真実の愛は君にある』とな!」
運命に導かれ結ばれた二人は真実の愛で幸せになるのだ。
最近侍女が読んでた小説のように。
あれは良かった。
最初は浮気した王太子だったが、ちゃんと婚約者に戻ったからな。
その内容を思い出し、悦に浸っていると。
「……殿下、それは大変まずいです。それはもう、遅いですと言われかねないかもしれません」
アイザックは目を逸らし、心無しか震えていた。
「ん?どうした?何が遅いと言われるのだ?」
「殿下、巷では『真実の愛とほざいて浮気する男』の話が大変に流行っているのです」
なに?
「『俺は真実の愛に目覚めたんだ』とのたまい、幼い頃よりの婚約者を蔑ろにした挙句、公衆の面前で婚約破棄を言い渡すのが今の流行りらしいです」
はあああ?
「誰だそんなもの流行らせたのは!?」
「アルファーノ書房やポラリス出版、果てはナロウペ文庫とエブースタ社、あ、あとカクリヨ書店から出ている書物です」
意外に多岐にわたり流行ってるな!?
「様々なパターンはありますが、だいたい低位貴族女性の奔放さと上目遣いと豊満な胸に鼻の下を伸ばした高位貴族男子(王族含む)が、鼻持ちならない高位貴族令嬢である婚約者を虐げてみみっちい自己満足に浸るのです。
婚約者からの愛に胡座をかき、いつまでも続くと思ったら大間違いで、大体冤罪かけて断罪して『真実の愛は浮気相手にある』と婚約破棄したあと、『本当に愛しているのは君だけなんだ』と元婚約者に復縁を迫るのが王道ですね」
その男どもはアホなのか!?
運命とか真実とかを浮気の代名詞にするなど、ロマンスの女神様におこられるぞ!?
しかし、アイザックの言う事が正しいならば、それは世界滅亡の危機なのでは……?
「あ、ちなみに先程申し上げた出版社の名前は架空のものです。実際の団体には何の関係もありませんのでご注意下さい」
「はっ?」
「こちらの話です。まぁ、つまり、とある出版社から出た書物の中の、とある国の出来事ですね」
という事は現実世界の話では無いのだな。少し安心した。
「まぁ、フィクションですからね。作り話ですよ。落ち着いて下さい」
うむうむ、だいぶ安心したぞ。落ち着いてきた。
「ただ、ヒロインに感情移入して、軒並み世間のイメージは『高位貴族、特に王太子は浮気クズ』になってますね」
全く安心できないじゃないか!!
もうやだ!俺王太子辞めたい!!辞職したい!!!
「そ、それは俺達も、入るのかな?」
手を組み机に肘を付き、顎を乗せたポーズで俺はアイザックに聞いてみた。
真面目な顔をしたアイザックは、後ろ手に組み。
「散々婚約者のヴァレリア嬢に『真実の愛は君だ』とおっしゃってる殿下は、その勲章を与えられていると言われても不思議ではありません!」
詰んだ。
よし、書物全て燃やしてしまおう。
いや出版社をどうにかするか……?
そもそもなぜそんな話が流行るのだ。
浮気者が出て来る話より、互いに想い合い、いちゃいちゃする話のほうがよほどいいではないか。
それよりも。
「ヴァ……ヴァレリアに、ちゃんと説明しなければ……」
心無しか足が震える。
そんな架空の話を鵜呑みにして、俺の気持ちを間違って伝えられては困る。
そもそも俺は低位貴族と懇意にした事は無い。
それは大きな違いだろう。
とにかく俺の気持ちは本物だと理解して貰わねば明日も未来も無い。
「そうですね、誤解は早目に解いたほうが良いと太古の昔から言われております」
珍しくアイザックから同意され、ヴァレリアの下へ急いだ。
「ごきげんよう、王太子殿下」
「ヴァレリア……」
いつもの微笑み。
けれど俺は今まで再婚約できて、恋に浮かれていたんだろう。
いつもの見慣れているはずのヴァレリアの表情は貼り付けたような笑みで。
誤解どころの騒ぎではないと、実感しただけだったのだ。
許すまじ架空の話のアホ高位貴族どもめぇ!!
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