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二回目
2.目には目を
しおりを挟む出産に関して一部センシティブな内容と思われる文章がございます。
出産を甘く見た末路です。
気になる方は高速スクロールしてください。
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マクルドはただ単純に、時を戻せばリリミアとやり直せると思っていた。
全てが無かった事にはならなかったが、必死に許しを乞えば優しいリリミアは許してくれるはずだと。
ランスロットが一線を越えたと言っても、メイが妊娠したと聞いた時、子どもはエクスだと確信を持っていた。
どこからそんな自信が湧いてくるのか不思議だが、マクルドはエクスを含めてリリミアと四人で家族をするつもりでいたのだ。
だが彼女は以前と行動を変えた。
彼から見て、記憶がある風でも無い。
とはいえ、リリミアが学園に入学してから約二年の今、二年間でリリミアを優先させた事は一度も無い。
記憶があっても無くても、リリミアが裏切った婚約者に対して婚約解消を願い出ても不思議ではないのに、マクルドはリリミアは自分を愛しているからなどと根拠も無い自信に満ちていた。
だがそれは幻。
確かに以前のリリミアならばマクルドを信じていた。本当に愛していたから。
だからこそ結婚できたし、マキナを授かった。
メイとエクスを引き入れ、離縁を申し出ても絶対に離縁したそうでも無かった事はマクルドも感じていた。
傲慢で自己中心的な彼は自分の都合良く考え解釈し、リリミアの気持ちなど無視して甘えきり、最悪の結果を招いたのだ。
今回もうまくいくと思っていた。
最悪の結果を招いても何ら学習していない。
だが既に、この頃からリリミアの気持ちは離れつつあるとマクルドはここに来てようやく気付いたのだった。
「リリミア、すまない。きみにした事は不誠実で身勝手だったと思う。
だが俺はきみとの婚約を解消したくない」
マクルドはリリミアに頭を下げた。
今更下げたところで許して貰えるとは思わないが、だからといって下げない理由も無い。
しばらく頭を下げ続け、やがてリリミアの方が口を開いた。
「では、私も貴方と同じ事をする事をお許し頂けますか?」
「同じ……事とは……?」
マクルドは嫌な予感がした。
「私も、貴方と同じように愛人を作ります。
そうですね。二年間、貴方がメイ様としてきたような事を致します。
それをお許し頂けるならばこのまま結婚しても構いません」
その言葉の内容は絶対に看過できるものではなかった。
マクルドの口がワナワナと震える。
だが彼には反対できる理由も無い。
二年間――巻き戻り前を含めると実質十年以上、彼は妻よりも愛人を優先させていた。
魅了されていたとはいえ、リリミアにとって蔑ろにされた事実は変わらない。
その事に罪悪感もあるから、マクルドは反対できない。
胸が焼け付くような感覚を堪え、声を震わせながらマクルドは冷たくなった指先を曲げ膝を握り締めた。
「……分かった。……リリミアの好きにしていい。だから、婚約は解消しないで……」
彼女からの愛情を受けるだけだったマクルドは、彼女の愛情が他に行くなど考えた事も無かった。
マクルドとリリミア、そしてエクスとマキナ。
四人で仲良く暮らせると思っていた幻想は早々に打ち砕かれたのだった。
帰りの馬車の中、マクルドはぼんやりと考えていた。
『ありがとうございます、マクルド様。
常々思っていましたが、女性ばかりが貞淑を求められるのは不公平だと感じてましたの。
貴方の懐が大きな方で良かったですわ』
リリミアは輝くような笑みを浮かべて喜んだ。
これで心痛も減るからすぐに帰って来るだろうと思ったが、一年間は領地にいると言う。
『マクルド様が先に入学された間、私は手紙のみで過ごしてきました。
婚約者としての交流も二年間で三回程でしたでしょうか。ですから、マクルド様も一年間は手紙のみで過ごしましょう。
交流は致しませんがよろしいですね? 手紙の返事もいりませんよね。
私も貴方様から色々言われず好きに過ごしたいのです』
リリミアはマクルドにされた二年間をマクルドにも体験しろと言うのだ。
これもまた、彼は反対できなかった。
自分が二年間魅了されたとはいえメイに現を抜かし、リリミアを遠ざけたのだ。
肉体関係にまで発展していた彼はリリミアに何も言えない。
『好きに過ごすって、愛人と……?
それって純潔も捧げるつもり……?』
『マクルド様と同じように過ごしますわ』
否定されなかった事に絶望した。
時戻り前のリリミアは確かに純潔だった。
震えながら初夜を迎え、優しく抱いた事は朧気にだが覚えている。
マクルドに愛され、リリミアは重ねる毎に少しずつ女性として熟れていき、そうさせているのが自分だと、マクルドは仄かな征服感に酔いしれていたのも事実だ。
その身体が今回は他の男に穢されるかもしれないと、マクルドは気が気では無かった。
マクルドと同じように過ごす。
それはマクルド以外に純潔を捧げるということ。
王族ではない為純潔主義ではないが、それでもマクルドは焼け付くような胸を押さえ何度も溜息を吐いた。
(メイと体を重ねたりしなければ)
マクルドにじんわりと後悔が滲む。
それでもマクルドはリリミアを手放せなかった。
マキナとの約束の為でもあるが、リリミアを幸せにしなければならないという自分の中の使命感の為でもあった。
リリミアに愛人ができても。
愛人に純潔を捧げても。
先に裏切ったマクルドが反対できる理由は無い。
リリミアと結婚しマキナを再び授かる為にも、マクルドはリリミアの条件を呑まねばならなかった。
どんなに後悔しても、どんなに嫌だと思っても、リリミアが生きていればそれで良いと思い込んだ。
全ては自分がしてきた事を返されるだけ。
リリミアが耐えた二年間をたった一年間耐えるだけ。
マクルドはリリミアの気持ちを嫌というほど思い知らねばならぬのだ。
それからリリミアはきっちり一年間王都にはもどらなかった。
何度も手紙を送ったが返事は無い。
返事が無いと不安が増した。
(こんな気持ちを二年間も……)
リリミアを信じたい。
だが自分と同じように過ごすと言っていた事がマクルドに焦燥を植え付ける。
さすがに淑女として誇り高い彼女が結婚前に婚約者以外に純潔を捧げたりしないと思いたい。
リリミアは貞淑で控えめで慎ましやかな女性だった。
優しく、弱った人を放っておけない面倒見の良さもあった。
裏切られてもなお、マクルドを愛していた慈悲深い女性なのだ。
マクルドはリリミアを信じたい。
リリミアとの絆を信じたかった。
メイはその間、男児を出産した。
親子鑑定はやはりマクルドの子だった。
早めに魔術師団に相談しランスロットの主導で対処に動いていたが、男たちの予想外にメイは出産に耐え切れず亡くなってしまった。
前回は四人の男たちが代わる代わる訪れちやほやしていた為メイは衣食住合わせて充実していた。
だが今回は訪れる事無く出産に臨まねばならなかった。
公爵家からの支援も勿論無い。
悪阻に耐え、日に日に迫り出してくるお腹を醜いと言い、憔悴していったメイは食欲が衰えて痩せていった。
そうすれば男たちが放っておかないだろうと目論んで、ギリギリ死なない程度に調節していたのだ。
それでも世話役の使用人以外は誰も訪れなかったし、孤独に過ごした結果出産に耐え切れなかったらしい。
出産を甘く見た結果だから実に浅はかである。
男たちは魔塔に幽閉されていた。
少しでもメイに感情を持って行かれると助けてしまう為メイの処刑まで魔塔から一歩も出られなかったのだ。
メイを処刑する事。
子はランスロット以外の子の可能性もあるからと見逃されたが、魅了の使い手のメイの処刑は決まっていた。
一人でも手助けすれば廃嫡の上国外追放とする。
魔塔に入る事は、国王から言い渡された、男たちが廃嫡されない為の条件でもあった。
まさか一歩も出られないと思わなかったメイを愛していた一人の男はランスロットに恨みを募らせた。
だが生まれた子どもがやはりマクルドの子と知ると、深い絶望に包まれ、結局彼はメイの愛は得られないと更なる絶望に晒された。
そしてメイの死を知ると再び時を戻したいと願うようになった。
だが時戻りの魔女は気まぐれなのか姿を現さない。
彼は会えた時、メイに出逢った頃まで戻り今度こそ独り占めしたいと思い――父親の言う女性と結婚し、妻を愛そうと決めた。
妻への愛を捧げる為に。
メイの死後、遺体は魔塔で研究の為に使用された後処分された。
子どもは孤児院に入れられた。
リリミアの事で頭がいっぱいのマクルドに、メイや子どもの事を考える余裕は無かった。
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