21 / 21
【…and if…】
ノースポールの花の奇跡
しおりを挟むこれは、お互いがほんの少しだけ勇気を出して向かい合っていたら、のお話。
【side E】
「これからよろしくね」
「う、うん、ヨロシク……」
私は今日、婚約者となる子爵家次男君に手を差し出した。
きゅっと結ばれた手は温かくて、優しい気持ちになれる気がする。
それから私たちは交流の為に週一度のお茶会をする事になった。
けれど、婚約者となった彼は次第に欠席するようになった。
だから私は彼の家に行く事にしたわ。
「こらー!お茶会サボるってどういう了見かしら!?」
「うわぁっ!」
ばたんっと彼の部屋の扉を開けて、つかつかと乗り込む。
彼は机で勉強しているみたい。女の子と遊んでるわけじゃないのは良かったわ。
でも私は怒っているのよ。
「婚約者として交流しましょうってお約束、ちゃんと守りなさいよ」
「え…でも、僕勉強……」
「根を詰めて机にかじりついてもいい結果は出ないわ。休憩と気分転換は必要よ」
無理矢理にでも私は外に連れ出した。
子爵家の庭には沢山の花が咲いているから。
「お花はね、咲く時期が決まっているの。
今の時期しか見れないお花が沢山あるのよ」
私たちの間をさぁっと優しい風が通り抜ける。
その様に彼は目を細めた。
「……ホントだ。ちょっと前に見たときと変わってる」
「でしょ?机でのお勉強も大事だけど、こうして現地に行くのも大事なのよ。
数字とにらめっこしてても気付かない事に気付いたり、煮詰まった時は頭が晴れたりするわ」
そう言うと、彼はハッとしたように目を見開いた。
それからバツの悪そうな顔をして。
「……ありがとう、追い詰められてたのが何か晴れたみたい」
ぷいっとそっぽを向いたけど、耳は赤くなっていた。
そんな彼が愛おしい。
「ねえ、一人じゃダメな事も、二人だとできるかもしれないでしょ?
だから沢山話し合いましょう。
いっぱい話して、いっぱいケンカして、いっぱい、いっぱい話すの。
いい事も悪い事も、嫌な事も全部!」
「なるべくケンカはしたくないなぁ」
「私もよ。だから沢山話すの。嫌な事があったらすぐに言うの。お互いにね。
そして解決策を考える。そしたらきっと、一人で悩むより解決するのが早いと思うの」
「……でもかっこ悪くない?」
「悪くないわ。むしろ頼られて嬉しいわ。私を必要としてくれてる、って張り切っちゃう」
「……そっか」
そう言って、私の婚約者君はツキモノが落ちたみたいにスッキリした顔になった。
「僕ね」
彼は上を向く。
「僕、多分君に情けない姿いっぱい見せると思う。でも、カッコ悪くても、へこたれても、君がいるなら頑張ってみるよ。
……だから……その…」
顔を赤くして、何度も瞬きをして。
くるって私のほうを見た。
耳まで真っ赤だけど、真剣な顔をした彼にどきりとする。
「ぼ、僕と、結婚してくださいっ」
瞬間、二人を包むようにぶわっと風が舞った。
辺りに咲いた花びらたちが私達を祝福しているみたい。
「もちろんよ!ふふっ、もう、私たち婚約者なのよ」
面と向かって言われて、私までつられて顔が赤くなって。
恥ずかしくて下を向いた。
そしたら、彼が私の手を握ってきた。
「そうだけど、僕から言いたかったんだ」
繋いだ手が温かい。
心臓はトクトクと、いつもよりちょっと早いかもしれない。
でも、何だか心地良い。
だって、隣にいるのは、大好きな貴方。
ちらりと彼を盗み見る。
彼の顔は今にも湯気が出そうなくらい赤くなって、体はかちかちに固まっていた。
ちょっと心配になったけど、少し震える繋いだ手はぎゅっと握られていた。
~~~~~~
【side F】
あれから沢山話して、沢山ケンカして、沢山仲直りした。
僕はすぐ悩んでしまって、くよくよしていたけれど、彼女はいつも僕に寄り添って励ましてくれた。
ときには……いや、しょっちゅう彼女から叱られた。
でも、それでも僕を見捨てないでくれたんだ。
僕にはあまり目立った才能は無い。
どちらかと言えば欠点だらけの面倒くさい男だと思う。
兄さんにも散々言われた。
けど僕は僕を諦めなかった。
僕を選んでくれた彼女が色々言われない為に、強くなろうって決めたんだ。
おかげで粘り強さとかしつこさはピカイチになれたと思う。
彼女のお父様も僕が必死に喰らい付くから半ば呆れられながらも様々に指導して下さった。
正解に辿り着くまで何度もやり直して、成功を積み重ねたら段々自信もついてきた。
年頃になると彼女は誰よりも光輝いて眩しくなった。
彼女の周りは常に人であふれていて、異性からも大人気だ。
僕は彼女を男共から守る為に身体も鍛え始めた。
ある時隣国の視察団歓迎パーティーがあって。
王太子の側近だという方が彼女をずっと見ていたから気が気じゃなかった。
だから僕はずっと彼女の側にいて、手を繋いだり髪に口付けてみたり、思いきって腰を寄せてみたりした。ちょっと牽制してしまったんだ。
余裕が無さ過ぎて情けない。
でも彼女は顔を赤くして嬉しそうにはにかんでくれたから僕としても役得だった。
それ以来その方の姿は見ていない。
きっと彼女に惹かれていたのだろうけど、でも彼女だけは渡したくないんだ。
そんなこんなで、今日は僕たちの結婚式だ。
ずっとこの日を待ち詫ていた。
「きれいだよ。……すっごく、輝いてて。女神さまみたいだ」
「貴方も素敵よ。ふふっ、すっかり逞しくなっちゃったわね」
「君を守る為に強くなりたかったんだ。……似合わないかな?」
「いいえ、どんな貴方も愛しているわ」
その言葉に僕は舞い上がってしまって。
つい妻となる彼女をお姫様だっこしてしまった。
「きゃあ!」
「僕も愛しているよ」
そうして口付ける。
額に、頬に、くちびるに。
「も、もう、ちょっと!お化粧とれちゃうわよ!貴方に付いちゃうし!」
それでも抵抗らしい抵抗を見せない彼女が益々愛おしくなって。
僕は思い切り抱き締めた。
「ありがとう、僕を選んでくれて」
「…貴方も……ありがとう、……無茶言っちゃってごめんね。でも、たくさん頑張ってくれてありがとう」
再び彼女に口付ける。
嬉しくて幸せで、僕の頬に雫が伝った。
「もう、ホント、泣き虫さんね……フェリクスは」
「何でかな、すっごく幸せで、嬉しいんだ」
彼女は困ったように笑ってハンカチで僕の涙を拭った。
そうして僕の頬を持ち、彼女から口付けられようとした時。
「お前らいつまでイチャついてんだ!!式始まるぞ!?」
兄さんの怒声で我にかえってパッと離れた。
ある意味止めてくれて良かったかもしれない。
心臓はバクバクだ。
すると彼女は堪えきれないというように笑い出した。
瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
僕は深呼吸して息を整えた。
「じゃあ、行こうか、奥さん」
「む、奥さん、じゃなくて。ちゃんと名前を呼んで」
未だに気恥ずかしくて中々呼べないけれど。
ほんの少しの勇気を出す。
「行こう、エヴェリーナ」
手を差し出すと、エヴェリーナはそっと重ねてくれた。
「行きましょう、フェリクス」
そうして僕たちは、光の中へと歩き出した。
~~~~~~~~
完結後に彼の救済をもう少ししたくて書きました。
王太子編に組み込む予定でしたが雰囲気が変わる為こちらに掲載しました。
お目通し頂きありがとうございました。
486
お気に入りに追加
3,208
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる