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花嫁修業?その前に…

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「それで、とある行者によって改心したおぬしは、人々を助けるようになり、神として奉られるようになったそうじゃのう?神格化したのだから、見守るだけで良いのではないのか?」

『ひ、ひいきの者についてる様な輩に言われたくないわっ、そうか、うぬが居たからワレの力がおさえられたのか』

 あぁ…久志は納得した。何重にも掛けた結界を全て解いたわけではなく、もしもの時のことを考え一つ結界を残してはいるが、古くから居る竜神をおさえるには少々心もとないものだった。それなのに、竜神様が大人しいのがなんとも不気味だったのだが、神部についてきた綾姫様も力を貸しくださっていたのだなぁ…

「ふん、甘いな。おぬしなど、妾の力がなくとも、良人だけでも封じられる。思い上がるな、おぬしが暴れまわっていた時とは違い、今は、対抗できる者が居るのだぞ」

 はぁ…やはり、神部くん最強なんですかね?

『うっ、……ど、どうせワレなど、蚯蚓みみず蛞蝓ナメクジにも劣ると言いたいのだな…やはり、ワレなどいない方が…いない方がよいのだな…』

「「「……」」」

「そこまでハッキリとは言わぬが、おぬしがいても、そこの充とやらの為になるとは思えんな。山から見守るのがちょうど良いではないか」

「「え?」」

 あっ、バカ…

 綾姫様が上手く誘導して、山に引きこもらせようとしたが、それを聞き何故か、充と梓が驚きの声をあげる。
 山に追い返せると思っていた神部が顔をしかめた。

「ん?おぬし達、この邪竜に何か用事があるのか?」

「え?いえ、折角、カッコいいのに勿体ないなぁ……なんて、思ったりして…」

「梓や、おぬしには。保阪がおるではないか、浮気など感心せぬなぁ」

「浮気はしませんよ。ただ、芸能人と同じ感覚で、たまに見てみたいという感じ?」

「よく分からんことを言う?充とやらはなんだ?やはり、こやつの事が気に入ったのか?」

「え?いえ、その…」

「なんだ?男子たるものハッキリせい!」

「綾姫様、綾姫様、最近ではそういう言い回しはいけないことになっているんですよ」

「ん?何がじゃ?」

「男らしいとか、女らしいとか、男だからとか、女だからと、決めつけて発言や行動、服装なんかを制限する言い回しです」

「ん?何やら難しいのう?身体の作りが違うのだから、役割分担や違いを持たせて良いのではないか?」

「いえ、身体と心が違う者がいるので、そういった者達にも配慮が必要なのです」

「ふーん、よくわからぬが、おぬし達もその内、好いた相手に合わせて姿を変えられるようになるのかのう?」

「イヤイヤ、流石にそんな進化はしないと思いますが、男だからと強制はしない方がいいですね」

「ふん、ほんに、人間とは、いろいろな制限を設けることが好きだのう。すると、充の意見は聞けんのだな」

「え、いえ、それは…」

「なんじゃ。梓も気になっておるではないか」

「まぁ、そこは、男女は関係ないと思います。ね、基ちゃん」

「まぁ。充くんの意見が一番重要だから、聞いておかないといけないとは思うかな」

「はぁ…難儀じゃのう?で、充とやら、おぬしは、この邪竜を近くに置きたいのか?」

「え、いえ、そういうわけではなく…なんとなく…兄に似ているので…」

『!、そうであろう。充が一番慕っておるのは長兄の正樹なのだ。だから、ワレは、この姿を選んだのだ。充には必要なのだ』

 何やら、落ち込んでいた竜神が復活し、わめきだした。

「ふん、兄っ子かぁ、まぁ、わからぬ訳ではないが…邪竜や、おぬし充のために何が出来るというのだ?側に居りたいというなら、為にならねば居れんぞ」

 綾姫様自体、二人の兄と三人の姉に可愛がられてきたので、充の気持ちも分からなくはない。

『……!りょ、料理を作ろうではないか、家を出て、多喜の料理が食べられなくて難儀しておったからな!』

「多喜とは?」

『充の祖母だ。充の家は、男は外、女は中と仕事を分けておったのだ。だから、充は殆ど料理をしたことがなく、多喜の料理を恋しがっておるのだ。そうであろう?』

「勝手に決めつけるな。だいたい、そんなこと、初めから分かっていることだろ、それで、一人住まいするか?」

「あっ…」

「ん?何、充君?」

「そのう、山とは違いスーパーとか、コンビニとか、弁当屋なんてものもあるから、料理が出来なくても大丈夫だと思ったんです。いや、それに、どうしてもと言うわけではないんです…ただ、たまに、祖母の料理が食べたくなるときがあって…」

「この休みは実家に帰ってたんだよね?」

「はい…そこで、初めて自覚したというか…」

「ああ、お祖母さんの作る料理が一番好きなのね」

「…はい」

「成る程、それでお前は、充くんの胃袋を掴みにいこうと思った訳か…アザと過ぎるが、悪くはないのか?で、お前は、どれぐらい料理が出来るんだ?」

『まったく、出来ん!』

 スパコーン

「出来んのに言ったんか!このボケぇ」

『したことがないのだ当たり前だろ!しかし、多喜の味付けは覚えておる!充の好きな料理も把握しておるぞ。素材の組み合わせや香りなんかの好みもな。多喜以外の料理でも、ワレなら再現できるぞ。食べ物以外の好きなものも、ワレは知っておる!』

「「……」」

 うん『見守る』って、何となく良い言葉感じだったけど、この竜神にとっては『ストーカー行為』なのだと、皆が気づいた。

「既に、犯罪なんじゃないか?」
「いや、観てるだけで手は出してないから、実証は無理だと思う」
「正志くんが、傷をおったんだから、障害にはなるんじゃないか?」
「雷を落とせる人間なんていませんよ。こちらが、偽証で訴えられかねません」
「チッ、止めずに手を出した瞬間を狙って、退治してしまえばよかったか?」
「いやいや、充くんにトラウマを植え付ける行為ですから、止めて正解です。それに、隣の山の氏神さまですよ。退治なんてしたら、大事に発展してしまいますから止めてください」
「ならどうします?」
「料理修業として、ここで預かりましょう。そして、機嫌とりに、充くんには、時々ここに来てもらうということでどうでしょうか?」
「上手くいくかねぇ」
「神部くん!」
「はぁ?結局、俺にやらせるんですか?」
「対等に話せる方がいいでしょうからね。あまり、下手に出ていては、後々大変な事になりそうなのでお願いします」
「社長ぉ~、なんか色々注意してたのに、ここで逃げるんですね。酷くないですか?どうなっても知りませんよ」

 神部に久志、保坂、飯田が頭を付き合わせ、ヒソヒソと話し込み方針を決めた。
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