異世界人拾っちゃいました…

kaoru

文字の大きさ
上 下
9 / 149
異世界人拾っちゃいました…

メリロット

しおりを挟む
 街の大通りをぬけ、岩山の中央にある大門を潜る。
 役所と言っているが、一階部分は市場だ。裾野にまだ建物の無かったときの名残で、昔は住居だった空間も、今は、全て店となっている。
 そのまま、人の流れに沿って、市場内に行こうとするリョウを半ば抱き上げて、壁沿いの階段を上る。

「ああ…、なんか、メチャいい臭いしてるんだけど?お昼でしょ?食べてからにしようよぉ」

「ん?ああ、この街の名物、マトンの串焼きだな。店舗毎に秘伝のタレがあって、自分好みの味を探すのが、観光客の楽しみの一つになっているんだ」

「わっ、面白そう。僕もやりたい」

「ただし、自分が摂取出来る材料を使っているか、下調べが必要なんだ。店側も使用した材料全てを提示しないといけない決まりがある。破ると最悪営業権をとられる」

「……」

 大人しくなったリョウを抱え、役所区間の扉を潜る。扉を閉めると、一階の賑やかな音がピタリと聞こえなくなる。

 広く掘られた空間、入口すぐの所にソファーや書類を書く為の机なかが並んでいる。その向こうに長いカウンターがあり、その奥では、職員が三十名程、仕事をしている。
 俺は受付と表示された所に向かう。

「ディル?」

 突然かけられた声に反応して顔を向けると、ウィル族出身の役所職員がいた。

「メリロット、久しぶり元気だった?」

 メリロットは、長兄の幼馴染みで婚約者、成人の義で集落を出て、そのままこのシーズの役所に就職した。
 フルネームは、メリロット・ハバー・ウィル・ベリー、エルフ族の中でも珍しいストロベリーブロンドの血筋だ。
 その昔、ベリー家の祖先の美しい髪が気に入り、美の女神が舞い降り加護を与えたと言う。その為、ベリー家の人々は、容姿端麗と言われるエルフのなかでも、とびきりの美貌を誇る…その一族であるメリロットも、言伝えを肯定するような美貌の持ち主だ。

「元気よ。ディルも元気そうね。今日はどうしたの?長老様のお使い?」

「違うよ。成人の義で集落を出て来たんだ」

「あっ、あら、もう、そんな年なのね。まだ、まだ、子供だと思っていたのに。ふふふ、おめでとう。で、どうするの?ここに住む?」

 そう言って、人の頭を撫でてくる。今では、俺の方が背が高いのに、まだ、子供扱いだ。

「成人したんだから、子供扱いやめてよ。俺は、冒険者になるんだから」

「なによ、かわいくないわね。冒険者?リッジの影響ね。それなら、ギルドでしょ?ギルドはお隣よ」

「そうだけど、森でこの子を拾ったんだ。だから、その手続きを先に済ませようと思って」

 俺の横で、あんぐりと口を開け、メリロットを見上げているリョウを前に押し出し、自己紹介させる。
 メリロットの美貌のせいか、リョウは、顔を真っ赤にして、しどろもどろで、自分の名を名乗った。

「あら、かわいい。迷子?珍しいわね。あれ、人族?人族の冒険者や研究者の入国許可は出してないし、観光客は、五日後に予定してたハズだけど?」

 リョウの目線に合わせるように、膝を曲げたメリロットが、今度はリョウの頭を撫でながら、呟いてる。リョウは、耳まで真っ赤にして俯いたまま、固まってしまった。

「どうやら、転移者らしいんだ。元居た国は、ニホンだって、言ってる」

「え?ウソ!この大陸は、転移門が開き難いのに?この前発見されたのは…確か、五百年程前のハズよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

箱庭の異世界でスローライフ万歳!

文月 蓮
ファンタジー
神様が落としたコレクターズボックスの角に頭をぶつけて死んでしまった葉月は、生前プレイしていたサンドボックス型のゲームによく似た世界で、若返り、蘇った。 せっかくだから、農業やものづくりをとことん楽しんでやる。 異世界でスローライフを楽しむ主人公の、のんびり、まったりなお話。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね
恋愛
主人公の父は会社の諸事情で、短期間で有るはずの単身赴任生活を現在もしている。 休暇を取り僅かだが、本来の住まいに戻った時、単身赴任の父の元に『夏休み、遊びに行く!』と急に言い出す娘。 家族は何故かそれを止めずにその日がやって来てしまう。 短いけど、父と娘と過ごす2人の生活が始まる…… 恋愛小説ですが激しい要素はあまり無く、ほのぼの、まったり系が強いです……

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...