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俊の話
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しおりを挟む「…俊さん、起きてください」
煩わしいアラームの音と、控えめな声色が意識を夢から引き上げる。
ぼんやり目を開けると1週間前は無機質だった白い天井に一期の少し焦った顔が目に入る。
「おー…一期、おはよう」
呑気に起き上がり彼の頭をぽん、と撫でると「遅刻しますよ」と時計を指さしてくる。
確かに時計は通常の起床時間を15分ほど過ぎていた。朝の15分というのは貴重だ。
ベッドから降りると若干急ぎ足で洗面所へ向かい顔を洗い、軽く髪を整える。
先程からリビングからいい匂いがする。
数日前から本格的に家政夫として動いてくれている一期だが、朝起きたり帰宅してから美味しい温かいご飯があるのが嬉しくて仕方なかった。
洗濯物もされていて、お風呂も用意されている。
まだ数日しか経っていないが至れり尽くせりのこの生活にズブズブと沼っていきそうだ。
「今日はパンケーキ?」
「はい。…美味しそうだったから。甘いのも好きだって聞いたし」
気に入ってくれたか?とこちらを伺うように焼きたてのパンケーキをはちみつやジャムを添えて出してくれる。
彼は料理にハマったのか、買い与えたレシピ本を読みふけり、買ってあげた携帯でレシピを探したりしている。
そのせいか彼のご飯は美味しい。元々、バイト先の1つで飲食店があったらしく、料理はできるらしい。
「美味…!」
「ありがとうございます。」
「これ、お弁当…」と丁寧に包まれたお弁当袋を差し出してくれる。
毎日昼はコンビニか外食、もはやゼリーや健康食品なんかで過ごす日もあったので感動だ。
会社の社員達が「彼女が出来たのか」と次々に聞いてきたが、素直に「少年を拾って家政夫をしてもらっている」とは言えずに「家政夫を雇った」とはぐらかした。
「じゃ、行ってくるから。…留守番気をつけて」
「はい。…ぃ、行ってらっしゃい」
慣れなさそうに送り出してくれた彼の頭を撫でて家を出る。
なんだか心が軽い。一期には癒されるというか、なんというか。
マイナスイオンでも出ているのだろうか。
彼はゆっくり寝ているからか、心労が和らいでいるのか、よく食べているからなのか。心做しか頬の痩けや体の骨浮きがマシになってきている。
肌や髪のツヤも良くなって、顔色も表情も良い。
そうなってくるとやはり、予想通り彼は顔が良い。手足が長くスタイルも良い。これからが楽しみだ。
なんだかスキップしてしまいたくなる。
おじさんが恥ずかしいな、なんてロビーのコンツェルジュに挨拶をされて我に返った。
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