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咲夜の恋路
.
しおりを挟む「おはよ」
「…はよ」
だる、と思いつつすずしい電車から暑い駅外へ出ると咲夜が声をかけてきた。
暑いのに待っててくれたのかな。
「ここ、暑かったでしょ…そこの待合場で待ってれば行ったのに…」
「いいの。俺が1番に蓮迎えたかったから」
「行こっか」と歩き出した咲夜の姿を見て俯く。
かっこいいなぁ。
本当にかっこいいし、笑った顔は犬みたいで可愛いし。
道行く女の子が咲夜を見る度に思う「俺の彼氏かっこいいでしょ」って。
「蓮、模試の自信ある?」
「んー…ぼちぼち」
「流石」
2年の二学期に突入してしまった。
ぼんやり進学のことを考える時がたまにある。
成績もこのまま行けばある程度の所まではいけると言われてはいるが、それ即ち今以上にオメガの少ない場に行くということだ。
家に負担もかけたくないし、奨学金のことも考えるともう少し成績伸ばしたいし…というより、そもそも自分は将来どうしたいのかもよく分からない。
「将来、安定な仕事って何かな…」
「え?…そうだなー…医者?とか医療系…とか教員とか」
「…そか」
「蓮悩んでるの?」
「まあね。…やっぱ手に職かなて、俺オメガだし安定した職の方が安心する」
「確かに」
「ま、ゆっくり考えればいいよ。蓮は俺より賢いし、選択肢も広いよ」と咲夜が頭を撫でてくれる。その手に何度安心させられただろうか。
その手を取って頬に擦り付ける。
暑いけどいいもんね、なーんて
「ちょ、俺手汗凄いよ」
恥ずかしそうにそう言う咲夜は乱暴に手は外そうとしない。
俺が怪我したら嫌だから、とか言うんだろうけどそういうとこが可愛い。
「いいよ…俺、咲夜の手汗好き」
「もう…変態チックなこと言わないの」
笑っていると周りを確認して彼が頬にキスしてくれた。
「これで我慢ね」
「ん」
自分らの高校はオメガが少ない。
だからか、どのオメガやアルファが誰と付き合っているとかは大体知れている。
勿論、俺と咲夜が付き合っているのも皆知っていたし違和感もなかったらしい。
好都合っちゃ好都合だけど。
たまに他のオメガの子と交流する時もある。相手がいる子はまあいいとして、いない子は嫌いじゃないけど一応警戒はしてる。
俺が他のオメガから咲夜を守らないと、という心意気である。
「あ、ゆきパイセン~…」
校門をくぐったところで前方に見慣れた後ろ姿を見つける。
自然に咲夜が鞄を持って送り出してくれたのでその後ろ姿に駆け寄った。
「わっ…蓮君、おはよ。びっくりしたな、もう」
ふふ、と優しげに笑うゆき先輩。ゆき先輩は柔らかい人でお姉さんって感じ。
すごくいい匂いのする。
ゆき先輩はオメガだけどいい匂いっていうのは、フェロモンとかじゃなくて安心する柔軟剤のいい匂いって感じ。
表現するならママ。
安心するからよく甘えに行ってるけど、咲夜もこれは知っていて「姉妹みたいだな」と言われる。
「ゆき先輩…今日いつもと違う匂い」
すん、と先輩の制服の匂いを嗅ぐと「バレたか」と頭を優しく撫でられる。
「お泊まりだったから、いつもと違うんだよ」
ふふ、と笑う先輩は「色っぽい」。
「わー、先輩エッチだ…」
「蓮君人のこと言えないでしょ。咲夜君の匂いプンプンの時よくあるよ」
つん、とおでこをつつかれる。
ゆき先輩は優しくてオトナ、彼氏がいるらしいけど誰かは分からない。
学校のマドンナでもあるけど、相手の情報は謎に包まれてるとか。
無理に詮索する気もないしな、と飴を貰って咲夜の元に戻った。
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