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反省
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久しぶりに現れたと思ったらまたさっぱり現れなくなった正延さんだったが、メンタル強者である坂本さんは懲りずにマメにぱんどらにやって来ては、せっせとマスターにアピールをしている。
「どうですか坂東さん、そろそろ将来に備えて?」
「まだ私二十七歳なんで、三十前半ぐらいまでは全然オッケーですから。ポコポコいけますんで」
「彼氏からは愛を、私からは子供を、という本来ならば成り立たない二つの幸せゲットのチャンスがほら目の前に」
己がゲス思考であるというカミングアウトを済ませたからなのか、言動に迷いがなくなって来ている。マスターはと言えば、自分がオネエ偽装しているにも関わらず、ものともしない坂本さんに少々タジタジである。毎回突っぱねているうちに丁寧口調もどんどん雑になって来ていた。
ただマスターが言うには、今までメンヘラ系女子の接触ばかりだったので、直接言い返せるのはストレスが少なくて良いらしい。
「何がそろそろ将来に備えて、よ。どこの保険の営業レディーかってのよ。子供は求めてないって言ってるじゃないのよ」
「ポコポコいけるうちに、見合いでも何でもして結婚したい男前ゲットしなさいよ。いつまでも若くてチヤホヤされると思ったら大間違いよ」
「だから悪いけど、あなたに心配されなくても今十分幸せなんだってば」
そして、一応近くにいる女性である私に対して、直接的に嫌がらせでもしてくるのでは、と若干不安があったのだが、ど平凡な私はライバルにもならないらしい。むしろ私を何とか改良させようとアドバイスが増えた。
「あのね円谷さん、接客業でメイクにも気を遣わない女子ってどうよ」
「いえ、リキッドファンデーションとリップぐらいはしてますよ」
「色もついてないリップってね、中学生じゃないのよ? 今はまだ若いからいいけど、女は年を取れば取るほど小汚くなるのよ。男は味があるとか言われるけど、女は劣化したって言われるんだから。少しでも売り手市場の時にいい男捕まえないと条件落ちる一方なのよ?」
「……はあ。ですが、化粧品の香料とか駄目でして。肌がかぶれやすいもので、無香料の自然派ものしか使えませんし」
そんな話をしていたらある日、坂本さんが私にポンと紙袋をくれた。
「ほらこれ。ピンク系の色付いてるけど敏感肌用なの。何種類か色があるわ。試供品だから試してみなさい。せめて今後はデートの時ぐらいは女子力上げなさいよ。まあいつになるのか分からないけど」
「ありがとうございます。坂本さん、意外に優しいんですね」
「私を悪魔か何かだと思ってたの? 己の欲望に正直なだけで、ごく真っ当な常識ある社会人よ。自分の売りを最大限に有効活用しているけれど。円谷さんは顔は可もなく不可もなくだけど、味があるし、発言聞いてると、芯が一本通ってる感じの人だから、私は嫌いじゃないわよ」
思ったより好印象で驚きである。
しかし、最近よく話をする機会が増えたせいで、ますます先日の嫌がらせが坂本さんの手口には思えなくなってしまった。これはもう疑問を晴らすしかないだろう、と私はマスターに内緒で相談があると坂本さんに伝え、大して時間は取らせないと日曜日に武蔵野公園に来て貰った。
「円谷さん何? どうしたの?」
薄いグリーン系のワンピースで現れた坂本さんは、休みでもヘアメイクは怠らないらしく、周囲の男性がチラチラと見るほど綺麗だった。
「あの、マスターには絶対口外しないで欲しいんですが……」
私は先日自分が遭った嫌がらせ行為について説明し、最初は坂本さんじゃないかと疑っていたが、どうも違うような気がして来たので確認したかったのだと告げた。
坂本さんは話を聞くと、呆気にとられたような顔をして私を見た。
「──私が坂東さんの近くで働いているからって理由で、円谷さんに嫌がらせして何か得になる? それで坂東さんの子種貰えるとか結婚出来るなら頑張ってもいいけど、そうでなければ時間の無駄じゃないの。むしろ嫌われるまであるじゃない? それに私は昔ハムスター飼ってたこともあるし、そんな残酷なこと出来ないわ」
「まあそうじゃないかなと思ってました。坂本さん見てると、そんなねちっこいタイプには見えなかったんですけど、なあなあにしておきたくもなかったもので。本当にすみませんでした」
私は謝罪した。これで一つ疑問が片付いたが、結局誰があれをやったのかはまだ分からないままである。
「いや、そんなことはいいんだけど、円谷さんの方が大変よ、気味が悪いじゃない。そんなことあって、よく毎日アパートに帰れるわね」
「ああ、まあ以前は割とあったので慣れてますから」
「……あなた、座敷童みたいなお子様な見た目の割に、結構すごい人生送ってるのね。何か闇でも抱えてるの?」
「おかっぱ頭を座敷童に例えるの止めて頂けますか」
「ボブって言わない時点で座敷童なのよ。別に不細工だって言ってる訳じゃないわよ? お洒落心が皆無なのが勿体ないと思ってはいるけど」
この人はある程度馴染んでくると大変歯に衣を着せぬ言動をするようになったのだが、遠回しに言われるよりも私にとっては大変気持ちがいい性格に感じられる。ちょっと親友の桜に似た感じで話がしやすい。
私は、実家の血筋について簡単に説明し、不気味がられて中高生時代はよくいじめられていたから、と伝えた。勿論ぱんどらのジバティーさんの話などは内緒である。
「──なるほどねえ。よく分からないけど、霊能力者とかそういう感じなのかしら?」
「まあ近いですね。偽物と本物がいますけど」
「あなたのおばあ様は本物なのね? あなたも見えてしまう位だから」
「……珍しいですね。こういう話すると大抵眉唾だと思われますが。信じるんですか私の話?」
「え? だって私に嘘ついて、あなたに何のメリットがあるのよ? それに、短い付き合いだけど、円谷さん馬鹿正直だし、性格も歪んでないのは分かるわよ。私、美人だけどバカじゃないのよ?」
「国立大学を出ておられますもんね。ただ美人だと自分で発言するのはいかがなものかとは思いますが」
「事実じゃないの。美容も頑張ってるし、日々の努力の積み重ねだわよ。老化までの期間限定だけど──まあそれはともかく、初めて会うわそんな人。私の背後とかに誰かいたりしないでしょうね?」
「いえ、見えませんよ。ただ、先日一緒にお会いした男性の方には居ましたけどね、生霊が」
「……て、伊沢さんのこと? うわあ居そうだわ、あの人ナルシストだもの。大体ねえ、腹立ったんだけどあの男、ひろみと付き合ってるの隠して私に告白して来たのよ? この間ひろみから聞いて驚いたわ」
「あ、ご存じなかったんですか?」
「当たり前でしょ。私が二股なんて許せる女だと思う? 何かひろみが私を見る目がおかしいなと思って問い詰めたらそんな話で、速攻であの男とも別れたわ。友達の男を取る女だと思われたのも最悪だし。誤解も解けてひろみと仲直り出来たのは良かったけど、あれは人生の汚点だわ」
「仲直り出来たのなら良かったです」
確かに不貞行為を許す人ではなさそうだし、坂本さんはひろみさんと性質も似ている。友人になるのも頷ける似た者タイプだ。
「いえだから私の話はいいのよ。円谷さん、ああもう面倒だわ、小春ちゃんでいい? あなたちょっと自分に雑過ぎるわ。そんな嫌がらせ、いつエスカレートするか分からないじゃないのよ。誰がやったとかも分からないんでしょう?」
「まあでも坂本さんでなかったのは分かったので」
「他に一億以上の容疑者がいるってことじゃないの。ダメよそんな怖いことに慣れてちゃ。あなたか弱い女性なんだから。証拠写真とか撮った?」
「いえ、そこまでは。片付けるのが先だと思ったので」
「怪文書は残ってるの?」
「ああ、それはありますけど」
「まだマシか。でもその程度じゃ多分警察には相手にされないわね。それからは何かあった?」
「それから……腐敗した異臭の漂うナスとキュウリがポストに入ってました。それぐらいですね。消臭スプレーをかなり使いました」
「それぐらいって……あなたねえ」
はあー、と大きくため息をついた坂本さんが、私の手を取ってそのまま駅へ向かって歩き出した。
「ほら行くわよ」
「え? どこへですか」
「防犯グッズ買いに行くのよ。どうせ何も持ってないんでしょ。お金なかったらある時払いの無利子で貸してあげるわよ」
「いやでもそんな大げさな」
「バカでしょ小春ちゃん。あなた目当てのストーカーだって可能性もあるのよ? 今はその程度の被害だけだからそんなこと言ってられるけどね、実際に刃物持って襲われたり、性的な被害に遭って後悔しても遅いのよ。死んだらあの世で定職探すの? 死んだらおしまいなのよ? その辺の幽霊があなたそろそろ刺されますよとか教えてくれる訳?」
そう言われて、確かにそうだと背筋が冷えた。私のストーカーがいるとはとても思えないが、マスターの近くにいる女なんて消えろ! とメンヘラ女子が思ってもおかしくないのだ。
学生時代の嫌がらせと似たようなものだと考えていたが、話はそんな甘いものではないかも知れない。
私はずんずん先導する彼女にお礼を言った。
「坂本さん、気遣って頂きありがとうございます」
「あなたが能天気過ぎるのよ。身近な友人が犯罪や事故で、なんて考えただけでゾッとするわ。ひろみの時も心臓ひゅってなったのに」
「話してみるまで、チヤホヤされてるのに慣れたいけ好かない美人だと思ってましたけど、本当にいい人だったので、誤解してたことも反省します。本当にすみません」
「あら、チヤホヤされるのは慣れてるし、美人だと言うのも間違ってないじゃない。概ね合ってるから気にしないわ。それにしても小春ちゃん、あなた本当に馬鹿正直ね」
「坂本さんほどではないです」
「真理子でいいわよ」
笑いながら私を引っぱって歩く坂本さんは本当に楽しそうで、この人思った以上に懐が広い、と思わざるを得なかった。
「どうですか坂東さん、そろそろ将来に備えて?」
「まだ私二十七歳なんで、三十前半ぐらいまでは全然オッケーですから。ポコポコいけますんで」
「彼氏からは愛を、私からは子供を、という本来ならば成り立たない二つの幸せゲットのチャンスがほら目の前に」
己がゲス思考であるというカミングアウトを済ませたからなのか、言動に迷いがなくなって来ている。マスターはと言えば、自分がオネエ偽装しているにも関わらず、ものともしない坂本さんに少々タジタジである。毎回突っぱねているうちに丁寧口調もどんどん雑になって来ていた。
ただマスターが言うには、今までメンヘラ系女子の接触ばかりだったので、直接言い返せるのはストレスが少なくて良いらしい。
「何がそろそろ将来に備えて、よ。どこの保険の営業レディーかってのよ。子供は求めてないって言ってるじゃないのよ」
「ポコポコいけるうちに、見合いでも何でもして結婚したい男前ゲットしなさいよ。いつまでも若くてチヤホヤされると思ったら大間違いよ」
「だから悪いけど、あなたに心配されなくても今十分幸せなんだってば」
そして、一応近くにいる女性である私に対して、直接的に嫌がらせでもしてくるのでは、と若干不安があったのだが、ど平凡な私はライバルにもならないらしい。むしろ私を何とか改良させようとアドバイスが増えた。
「あのね円谷さん、接客業でメイクにも気を遣わない女子ってどうよ」
「いえ、リキッドファンデーションとリップぐらいはしてますよ」
「色もついてないリップってね、中学生じゃないのよ? 今はまだ若いからいいけど、女は年を取れば取るほど小汚くなるのよ。男は味があるとか言われるけど、女は劣化したって言われるんだから。少しでも売り手市場の時にいい男捕まえないと条件落ちる一方なのよ?」
「……はあ。ですが、化粧品の香料とか駄目でして。肌がかぶれやすいもので、無香料の自然派ものしか使えませんし」
そんな話をしていたらある日、坂本さんが私にポンと紙袋をくれた。
「ほらこれ。ピンク系の色付いてるけど敏感肌用なの。何種類か色があるわ。試供品だから試してみなさい。せめて今後はデートの時ぐらいは女子力上げなさいよ。まあいつになるのか分からないけど」
「ありがとうございます。坂本さん、意外に優しいんですね」
「私を悪魔か何かだと思ってたの? 己の欲望に正直なだけで、ごく真っ当な常識ある社会人よ。自分の売りを最大限に有効活用しているけれど。円谷さんは顔は可もなく不可もなくだけど、味があるし、発言聞いてると、芯が一本通ってる感じの人だから、私は嫌いじゃないわよ」
思ったより好印象で驚きである。
しかし、最近よく話をする機会が増えたせいで、ますます先日の嫌がらせが坂本さんの手口には思えなくなってしまった。これはもう疑問を晴らすしかないだろう、と私はマスターに内緒で相談があると坂本さんに伝え、大して時間は取らせないと日曜日に武蔵野公園に来て貰った。
「円谷さん何? どうしたの?」
薄いグリーン系のワンピースで現れた坂本さんは、休みでもヘアメイクは怠らないらしく、周囲の男性がチラチラと見るほど綺麗だった。
「あの、マスターには絶対口外しないで欲しいんですが……」
私は先日自分が遭った嫌がらせ行為について説明し、最初は坂本さんじゃないかと疑っていたが、どうも違うような気がして来たので確認したかったのだと告げた。
坂本さんは話を聞くと、呆気にとられたような顔をして私を見た。
「──私が坂東さんの近くで働いているからって理由で、円谷さんに嫌がらせして何か得になる? それで坂東さんの子種貰えるとか結婚出来るなら頑張ってもいいけど、そうでなければ時間の無駄じゃないの。むしろ嫌われるまであるじゃない? それに私は昔ハムスター飼ってたこともあるし、そんな残酷なこと出来ないわ」
「まあそうじゃないかなと思ってました。坂本さん見てると、そんなねちっこいタイプには見えなかったんですけど、なあなあにしておきたくもなかったもので。本当にすみませんでした」
私は謝罪した。これで一つ疑問が片付いたが、結局誰があれをやったのかはまだ分からないままである。
「いや、そんなことはいいんだけど、円谷さんの方が大変よ、気味が悪いじゃない。そんなことあって、よく毎日アパートに帰れるわね」
「ああ、まあ以前は割とあったので慣れてますから」
「……あなた、座敷童みたいなお子様な見た目の割に、結構すごい人生送ってるのね。何か闇でも抱えてるの?」
「おかっぱ頭を座敷童に例えるの止めて頂けますか」
「ボブって言わない時点で座敷童なのよ。別に不細工だって言ってる訳じゃないわよ? お洒落心が皆無なのが勿体ないと思ってはいるけど」
この人はある程度馴染んでくると大変歯に衣を着せぬ言動をするようになったのだが、遠回しに言われるよりも私にとっては大変気持ちがいい性格に感じられる。ちょっと親友の桜に似た感じで話がしやすい。
私は、実家の血筋について簡単に説明し、不気味がられて中高生時代はよくいじめられていたから、と伝えた。勿論ぱんどらのジバティーさんの話などは内緒である。
「──なるほどねえ。よく分からないけど、霊能力者とかそういう感じなのかしら?」
「まあ近いですね。偽物と本物がいますけど」
「あなたのおばあ様は本物なのね? あなたも見えてしまう位だから」
「……珍しいですね。こういう話すると大抵眉唾だと思われますが。信じるんですか私の話?」
「え? だって私に嘘ついて、あなたに何のメリットがあるのよ? それに、短い付き合いだけど、円谷さん馬鹿正直だし、性格も歪んでないのは分かるわよ。私、美人だけどバカじゃないのよ?」
「国立大学を出ておられますもんね。ただ美人だと自分で発言するのはいかがなものかとは思いますが」
「事実じゃないの。美容も頑張ってるし、日々の努力の積み重ねだわよ。老化までの期間限定だけど──まあそれはともかく、初めて会うわそんな人。私の背後とかに誰かいたりしないでしょうね?」
「いえ、見えませんよ。ただ、先日一緒にお会いした男性の方には居ましたけどね、生霊が」
「……て、伊沢さんのこと? うわあ居そうだわ、あの人ナルシストだもの。大体ねえ、腹立ったんだけどあの男、ひろみと付き合ってるの隠して私に告白して来たのよ? この間ひろみから聞いて驚いたわ」
「あ、ご存じなかったんですか?」
「当たり前でしょ。私が二股なんて許せる女だと思う? 何かひろみが私を見る目がおかしいなと思って問い詰めたらそんな話で、速攻であの男とも別れたわ。友達の男を取る女だと思われたのも最悪だし。誤解も解けてひろみと仲直り出来たのは良かったけど、あれは人生の汚点だわ」
「仲直り出来たのなら良かったです」
確かに不貞行為を許す人ではなさそうだし、坂本さんはひろみさんと性質も似ている。友人になるのも頷ける似た者タイプだ。
「いえだから私の話はいいのよ。円谷さん、ああもう面倒だわ、小春ちゃんでいい? あなたちょっと自分に雑過ぎるわ。そんな嫌がらせ、いつエスカレートするか分からないじゃないのよ。誰がやったとかも分からないんでしょう?」
「まあでも坂本さんでなかったのは分かったので」
「他に一億以上の容疑者がいるってことじゃないの。ダメよそんな怖いことに慣れてちゃ。あなたか弱い女性なんだから。証拠写真とか撮った?」
「いえ、そこまでは。片付けるのが先だと思ったので」
「怪文書は残ってるの?」
「ああ、それはありますけど」
「まだマシか。でもその程度じゃ多分警察には相手にされないわね。それからは何かあった?」
「それから……腐敗した異臭の漂うナスとキュウリがポストに入ってました。それぐらいですね。消臭スプレーをかなり使いました」
「それぐらいって……あなたねえ」
はあー、と大きくため息をついた坂本さんが、私の手を取ってそのまま駅へ向かって歩き出した。
「ほら行くわよ」
「え? どこへですか」
「防犯グッズ買いに行くのよ。どうせ何も持ってないんでしょ。お金なかったらある時払いの無利子で貸してあげるわよ」
「いやでもそんな大げさな」
「バカでしょ小春ちゃん。あなた目当てのストーカーだって可能性もあるのよ? 今はその程度の被害だけだからそんなこと言ってられるけどね、実際に刃物持って襲われたり、性的な被害に遭って後悔しても遅いのよ。死んだらあの世で定職探すの? 死んだらおしまいなのよ? その辺の幽霊があなたそろそろ刺されますよとか教えてくれる訳?」
そう言われて、確かにそうだと背筋が冷えた。私のストーカーがいるとはとても思えないが、マスターの近くにいる女なんて消えろ! とメンヘラ女子が思ってもおかしくないのだ。
学生時代の嫌がらせと似たようなものだと考えていたが、話はそんな甘いものではないかも知れない。
私はずんずん先導する彼女にお礼を言った。
「坂本さん、気遣って頂きありがとうございます」
「あなたが能天気過ぎるのよ。身近な友人が犯罪や事故で、なんて考えただけでゾッとするわ。ひろみの時も心臓ひゅってなったのに」
「話してみるまで、チヤホヤされてるのに慣れたいけ好かない美人だと思ってましたけど、本当にいい人だったので、誤解してたことも反省します。本当にすみません」
「あら、チヤホヤされるのは慣れてるし、美人だと言うのも間違ってないじゃない。概ね合ってるから気にしないわ。それにしても小春ちゃん、あなた本当に馬鹿正直ね」
「坂本さんほどではないです」
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