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結婚式まであと少々。

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 ボスマダーイ(とついでに大量の果物も)を仕留めて戻ってきたハルカ達は、また日常に戻ったが、ハルカは結婚式前と言うことでほぼレストランやパティスリーで接客をする事はなく、ケルヴィンと新しい調味料の研究を手伝ったり、家でスイーツの在庫を増やしたり、新しい店のバイトさん達の研修をサポートしたり、披露宴の送り状の返事をもらったりしてのほほんと暮らしていたのであるが。


「むむむ………」


 あれよあれよと言う感じで10日後には結婚式が迫っていた。

 結構あったようで短い準備期間であったが、ハルカはウェディングドレスとお色直しの濃紺のラメがキラキラついたドレスの試着をした程度で、後は黙々と料理のメニューの試行錯誤である。

 これは花嫁の行動として如何なものなのかと思わないでもないのだが、必要とされていると喜んで頑張ってしまう性格だし、むしろ何もするな、エステやマナーを学べと言われているより数倍ハルカにとって楽しいことだった。


 披露宴はメニューも決まったし、呼んだ人数が分かっているので料理の量なども予想がつくのだが、町の人々に振る舞う料理の方は予測が付きにくい。

 クラインは王族だが、上の二人と違い殆ど公式なイベントには出席していなかった事もあり、顔を知っている人もほぼいなかった。
 そんなところでの今回の結婚話で、町の人にもレストランで働いている事が知られるようになり、顔立ちも王様、王妃様譲りで整っており、庶民でも貴族でも分け隔てせず対応をすることで人気が急上昇したようで、レストランでもやたらと声をかけられるようになったと言っていた。

 ハルカと結婚することで落籍して公爵になるとは言え、お祝いをしたいと思ってくれる方々もかなりいるのではないかと想像すると、どんだけ作ればいいのやら見当もつかない。それに、結婚式一つに大袈裟な事も正直したくない。そこからの生活が大事なのだ。


(何千人って規模なのかなあ………もうコンサートですがな)


 もういっそ、でっかい鍋で大量の煮物を作って芋煮会にして誤魔化そうかと思ったが、まあ余り結婚式にはふさわしくはなさそうなのはハルカも理解している。

 いや、別に和風な料理を作るのはいいのだが、圧倒的に華やかさが足りない。


 しかしハルカは根が地味で凡人なのである。


 こ洒落た器に盛られたカラフルな色合いをしたソースの料理より、シンプルな器に盛られた黒白茶色黄土色といったアースカラーが多い日本食(和食限定ではなく日本で食べていた食事全般の事である)をこよなく愛し、また得意とする人間にはなかなか難しい問題なのである。
 

 離れの厨房でうんうん悩んでいると、呼んでもいないのに精霊さんズ達がオヤツを貰いにやって来た。

 牧場で質のいいバターや牛乳が沢山採れたので、考え事ついでにバニラアイスとバタークッキーを山のように作っていたので、我慢できなくなったらしい。

「どうしたのハルカ」
「またどっかのお肉か魚のお腹に飲まれたくなった?」
「でも肉も魚も沢山あるでしょ?」

 バタークッキーをアイスにちょいちょいと付けて、美味しそうにはむはむしながら精霊さんズが呑気に尋ねた。

「そうしょっちゅう飲まれてたまるかーい。大体飲まれたくなった事など一度もないのだよ君達」

 などと話しつつ、今の悩みを打ち明けた。

「いいんじゃないの?和風とかで」

「いやでも地味じゃない?」

「んー、食べ物の色合いは地味でも美味しいならいいんじゃないの?
 それに華やかさが欲しいなら、花びらを上から私たちが撒いたり、キャンディを1つずつ包んだものをばらまくとか料理以外のところで華やかさを出せばいいじゃない」
「祝う気持ちがあればいいと思うの」

「あー、なるほどね。料理以外か、そうかそういう手があったわ!」

 料理だけで華やかきらびやかを出さなくていいのだ。ムードが華やかならば。
 ハルカは目からウロコが落ちたような気分だった。

 こちらにはないやり方だっていいのだ。
 しかし、今思いついた考えには人手がかなり必要だ。


 仕事から戻ったクラインとファミリーに相談し、快諾された翌日。

 ハルカは朝から商店街や市場を回り協力を取り付け、国王様のところへ菓子折り持参で許可をもらいに行き、帰りがけにピーターさんのところに更なる仕事の依頼をすると言う働きをした。
 そして自分も色々こなさなければならない仕事がある。

 少々息切れしそうになっているハルカに、プルから

「ハルカはどうしてそういつも寸前になってから動くんだよ。早くから動いてれば楽だろうに」

 と呆れられたが、

「追い込まれないとダメなのよ私は。………そういや夏休みの宿題はギリギリになってからやるタイプだったの思い出したわ」

 と返し、それを聞いたクラインが密かに夜遅くプルの部屋に訪れ、

「………俺との結婚は追い込まれたものなのだろうか。やはり王族だから断りきれなくて結婚を承諾したとか………」

 とウジウジしているのをプルが宥めるのに疲れ、最後に「あー鬱陶しいわっ!」と叫び、「ひどいじゃないかお義父さん!」と返され「お義父さんと呼ぶなーっ!!」と蹴り飛ばし、トラが穏やかに止めに入るというのがルーティンになり、ファミリーも景色の一つとして淡々と受け入れるようになった時には、もう結婚式は2日後となっていた。




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