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エクストリームドライブ【5】(終)
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「ちょっと!何ノックもせずにひとの部屋に入って来てるのよ!」
扉を開いて中に入った途端にいきなりの罵声である。
「………あ、ですよね」
私は言いかけてはたと気づく。
(いや、地下115階に美少女の部屋があるとか分かるかい。ひとん家なら分かるようにしとけし)
「貴方は、だれ」
「あなた誰はこっちのセリフでしょうが!」
あー、綾波モードは短いセンテンスしか喋れない。家に帰ったら別のにしよう。話すのが大変だわ。
………ていうか解除してもいいのかしら。
なんか戦う状況っぽくなくて気が抜けるんだけども。
扉の先は、何故か上流貴族の寝室みたいなとこでした。
先ほどからベッドに座りこちらを呆れた顔して見つめていたのは、銀色の長い髪をゆるく三つ編みにした、中学生くらいに見えるどえらい美少女だった。
「ちょっとどっから入ってきたのよ?………やだ護衛を倒してきたの?五人はいたはずだけど……」
なんか害意はなさげなので、変身を解除する。
「えーと、その、エクストリームドライブの114階層から落とし穴に落ちまして、でウロウロして現在に至るなうです」
「至るなうって………え?本当にエクストリームドライブから?
最下層にリンクさせてた筈だけど二人程度のパーティーの冒険者がこれるもの?
………ん?ちょっと待って。兄様が言ってた、隣国から呼んだ黒髪の元冒険者の料理人ってまさか………」
誰だよ兄さんて。
「はあ、まあそんな感じで」
「それに2人じゃなく5人です」
背後の扉から、
ぽん ぽん ぽん ぽん
という鼓の音が小さく聞こえて、
「ハルカーーどこだーーー?!」
というプルちゃんの呼び掛ける声が聞こえてきた。
ようやく合流出来そうだわ。
でもあの演出用の鼓の音は隠密行動には向かないなぁ、どこにいるのかすぐ分かるのは助かるけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇぇ、変わったパーティーね」
「大きなお世話だ。誰だこのガキは」
「さぁ?………えーと、どちら様でしょう?」
プルちゃんにはぽんぽんうるさいので変身を解除してもらった。クロちゃんもさっきからフォッフォッうるさくて話が出来ないから解除。
トラちゃんはメイド姿なのでそのままでも家と変わらないので、解除は不要である。
「不法侵入された方が名乗るのおかしくない?………まあいいわ、私はマチルダ。兄様は皇帝陛下よ、会ったでしょ?」
えーと。
「え?………あの食虫花もとい毒蛾もといエロハラもとい超独創的なファッションセンスの皇帝さまの妹さま?」
「………まああのセンスは私もどうかと思うけど私には優しくていい兄なのよ。
でもその前の形容詞はよく分からないのだけれど、どう考えてもいい表現ではないわよね?」
「受け取りかた次第ですね。………まま、そんな些細なことは置いといて、姫様姫様、ティータイムといきませんか?」
私は、アイテムボックスからポットに入れてある熱々のロイヤルミルクティーとティーカップをいそいそ取り出した。
「こちらのテーブルをお借りしても?」
「………まぁいいけど」
「姫様は、スイーツはお好きですか?」
私が聞くと、彼女の眉間に皺が寄る。
「あの固い甘いだけのクッキーのことかしら?冗談でしょ」
あー、この国基準のスイーツね。
あれは乙女の食べ物ではないよなー。
「いえいえ、私がリンダーベルの町でパティスリーとレストランやってまして。
なかなか人気がある商品なので如何ですか?」
取り出したのは、ミルフィーユとフランボワーズである。
「この国のスイーツも頂きましたが、あれはダメです。
不敬と言われるかも知れませんが、控え目に申し上げても作った料理人は三流以下、ゴミです。あんなもん食べさせようとした時点で袋叩きに遇っても文句は言えないレベルの代物です」
[……お嬢、食べ物に関しては容赦ないよな]
「他のことはかなり許容範囲ゆるゆるだけどな」
「俺様は早く食えればそれでいいんだが」
『私は食べられないので関係ないですが、こだわりがあるからこそ美味しいものが作れるのでは?』
「まぁ基本美味しいモノ食べてればご機嫌だからな。そのために奴隷レベルで朝から晩まで働いてる気もするが。
あのただ美味いものを食べるために出来る限りの努力は惜しまないと言う姿勢は素晴らしい、………ような気がしないでもない」
「クライン、お前なー」
「あまり無理をしてほしくはないじゃないか」
なんかゴニョゴニョ言ってるクライン達もさっさと座らせ、部屋着のようなのでベッドのそばにあったルームガウンを姫様に渡す。
「なかなか美味しいですよ、自分で言うのもなんですけど。この国のスイーツと比べて頂ければと思います」
ガウンを受け取り羽織った姫様は、
「………しっ、試食よ試食!仕方ないわねまったく」
とテーブルのそばの椅子に腰かけた。
ロイヤルミルクティーを注ぎ入れ、どちらが食べたいか尋ねる。
「……その、赤いのがいいわ。なんだかフルーツの香りがするし」
フランボワーズを皿に乗せると、笑顔で姫様の前に置いた。
「ささ、どうぞどうぞ。みんなも食べていいよー」
既に勝手に腰かけていたトラちゃん以外の面々は、思い思いのデザートを取り、トラちゃんにロイヤルミルクティーをカップに注いで貰いながら食べ出した。
それをチラチラと眺めながら、目の前のケーキを見つめる姫様を見ながら、ふと気づいた。
「あ、毒とか入ってるか心配ですか?私先に毒見しましょうか?」
「……いいわよ、何か貴方はそういう事にムダに食べ物を利用しなさそうだから」
何となく照れていると、
「ちょっと!誉めてないわよ?女として食べることに貪欲すぎるって言いたいのよ?ちっとも誉め言葉じゃないのよ?!」
と姫様に叱られた。
「………でも食べ物を大事にしてるって事じゃないですか?私には誉め言葉です」
ご飯大事、スイーツ大事。
大事なものを大切に出来ない人間なんて、私にはろくなもんじゃござんせんよ。
「………変わってる人ね貴方」
姫様は一口フランボワーズを口に入れた。
目を見開き、もう一切れフォークに刺して、更に口に入れる。
「………美味しい………」
私も腰を下ろしてミルクティーをすすりながら、
「気に入って頂いて何よりです」
と笑顔になり、自分のミルフィーユを口にする。
いやー、疲れた後の甘味はまた格別だわ。
「………ちょっと、そっちのも試食してあげるわよ」
姫様の皿を見ると既にフランボワーズは消えていた。
やはり育ちがいいと、一気に食べてると思わせない食べ方が可能なのか。
「あ、ミルフィーユもですか。今取りますね」
ミルフィーユも皿に載せた途端に一口分をフォークで口に運ぶ。
「………これも美味しいじゃない。サクサクした生地が間のクリームと食感も変わって楽しいわ!」
「姫様スイーツお好きなんじゃないですかーやだなー。さっきは渋いお顔されてたのに」
「だってうちの国のスイーツ、ってアレよ?あんなのスイーツじゃないでしょうが。これ食べて分かったわ、あのお菓子はカスね」
「まあ確かにフォローする気にもなりませんけどね。
………でも姫様、先日の晩餐会でお目にかかりませんでしたね」
ミルクティーを優雅に飲みながら、姫様は私を見た。
「少しね、風邪を引いてたものだから」
ああ、だからまだ夜にはだいぶ間があるのにベッドにいたのか。
「それは失礼しました!
病み上がりにスイーツなんか食べても大丈夫ですか?なんなら雑炊とか胃に優しいものでも作りますけど?」
「ゾースイ?いえ、もうほとんど元気なのよ。知らない人達に会うの緊張して疲れるから止めといただけよ」
私は、首を傾げる。
「姫様ちいとも緊張してる様子には見えませんが」
「貴方たち見てたら脱力したのよ。いつも国の偉いおじさんみたいな人ばかりだから普段は」
なるほど、政治的なアレですね。
「姫様には敵意がないと分かって頂ければまあよしとしたいです。脱力した経緯は気になりますが」
「そこは敢えて気にしないでちょうだい。マチルダでいいわよ、姫様とかくすぐったいし」
よく分からないが、マチルダ様は気を悪くはしてないようなので一安心である。
ここは王宮のマチルダ様の部屋とリンクしてるとのことで、転移魔法陣使わずにあの最下層から戻ってこられたので楽出来て良かった。
「それじゃ、私達はそろそろ。シュルツさんにもご報告しませんと」
「そうね。私も今夜は食事に行くから、それじゃあとでまた話しましょう」
エクストリームドライブの最下層と自室をくっつけてるのは内緒よ?と念押しされ、やって来た方とは逆の扉の方から出た私達は、本当に王宮の中だったのでちょっと驚いた。
あの姫………マチルダ様も転移魔法使えるのかな。
こちらの国は割りと魔法使う人いるのねぇ、と感心した。
しかし地下はやはり圧迫感があったのか、空が見えるだけで安心して疲れが出た。
「眠いしシュルツさんに挨拶したら少し休もうか」
私は目をこすりながら、みんなとシュルツさんの執務室へ向かうのであった。
扉を開いて中に入った途端にいきなりの罵声である。
「………あ、ですよね」
私は言いかけてはたと気づく。
(いや、地下115階に美少女の部屋があるとか分かるかい。ひとん家なら分かるようにしとけし)
「貴方は、だれ」
「あなた誰はこっちのセリフでしょうが!」
あー、綾波モードは短いセンテンスしか喋れない。家に帰ったら別のにしよう。話すのが大変だわ。
………ていうか解除してもいいのかしら。
なんか戦う状況っぽくなくて気が抜けるんだけども。
扉の先は、何故か上流貴族の寝室みたいなとこでした。
先ほどからベッドに座りこちらを呆れた顔して見つめていたのは、銀色の長い髪をゆるく三つ編みにした、中学生くらいに見えるどえらい美少女だった。
「ちょっとどっから入ってきたのよ?………やだ護衛を倒してきたの?五人はいたはずだけど……」
なんか害意はなさげなので、変身を解除する。
「えーと、その、エクストリームドライブの114階層から落とし穴に落ちまして、でウロウロして現在に至るなうです」
「至るなうって………え?本当にエクストリームドライブから?
最下層にリンクさせてた筈だけど二人程度のパーティーの冒険者がこれるもの?
………ん?ちょっと待って。兄様が言ってた、隣国から呼んだ黒髪の元冒険者の料理人ってまさか………」
誰だよ兄さんて。
「はあ、まあそんな感じで」
「それに2人じゃなく5人です」
背後の扉から、
ぽん ぽん ぽん ぽん
という鼓の音が小さく聞こえて、
「ハルカーーどこだーーー?!」
というプルちゃんの呼び掛ける声が聞こえてきた。
ようやく合流出来そうだわ。
でもあの演出用の鼓の音は隠密行動には向かないなぁ、どこにいるのかすぐ分かるのは助かるけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇぇ、変わったパーティーね」
「大きなお世話だ。誰だこのガキは」
「さぁ?………えーと、どちら様でしょう?」
プルちゃんにはぽんぽんうるさいので変身を解除してもらった。クロちゃんもさっきからフォッフォッうるさくて話が出来ないから解除。
トラちゃんはメイド姿なのでそのままでも家と変わらないので、解除は不要である。
「不法侵入された方が名乗るのおかしくない?………まあいいわ、私はマチルダ。兄様は皇帝陛下よ、会ったでしょ?」
えーと。
「え?………あの食虫花もとい毒蛾もといエロハラもとい超独創的なファッションセンスの皇帝さまの妹さま?」
「………まああのセンスは私もどうかと思うけど私には優しくていい兄なのよ。
でもその前の形容詞はよく分からないのだけれど、どう考えてもいい表現ではないわよね?」
「受け取りかた次第ですね。………まま、そんな些細なことは置いといて、姫様姫様、ティータイムといきませんか?」
私は、アイテムボックスからポットに入れてある熱々のロイヤルミルクティーとティーカップをいそいそ取り出した。
「こちらのテーブルをお借りしても?」
「………まぁいいけど」
「姫様は、スイーツはお好きですか?」
私が聞くと、彼女の眉間に皺が寄る。
「あの固い甘いだけのクッキーのことかしら?冗談でしょ」
あー、この国基準のスイーツね。
あれは乙女の食べ物ではないよなー。
「いえいえ、私がリンダーベルの町でパティスリーとレストランやってまして。
なかなか人気がある商品なので如何ですか?」
取り出したのは、ミルフィーユとフランボワーズである。
「この国のスイーツも頂きましたが、あれはダメです。
不敬と言われるかも知れませんが、控え目に申し上げても作った料理人は三流以下、ゴミです。あんなもん食べさせようとした時点で袋叩きに遇っても文句は言えないレベルの代物です」
[……お嬢、食べ物に関しては容赦ないよな]
「他のことはかなり許容範囲ゆるゆるだけどな」
「俺様は早く食えればそれでいいんだが」
『私は食べられないので関係ないですが、こだわりがあるからこそ美味しいものが作れるのでは?』
「まぁ基本美味しいモノ食べてればご機嫌だからな。そのために奴隷レベルで朝から晩まで働いてる気もするが。
あのただ美味いものを食べるために出来る限りの努力は惜しまないと言う姿勢は素晴らしい、………ような気がしないでもない」
「クライン、お前なー」
「あまり無理をしてほしくはないじゃないか」
なんかゴニョゴニョ言ってるクライン達もさっさと座らせ、部屋着のようなのでベッドのそばにあったルームガウンを姫様に渡す。
「なかなか美味しいですよ、自分で言うのもなんですけど。この国のスイーツと比べて頂ければと思います」
ガウンを受け取り羽織った姫様は、
「………しっ、試食よ試食!仕方ないわねまったく」
とテーブルのそばの椅子に腰かけた。
ロイヤルミルクティーを注ぎ入れ、どちらが食べたいか尋ねる。
「……その、赤いのがいいわ。なんだかフルーツの香りがするし」
フランボワーズを皿に乗せると、笑顔で姫様の前に置いた。
「ささ、どうぞどうぞ。みんなも食べていいよー」
既に勝手に腰かけていたトラちゃん以外の面々は、思い思いのデザートを取り、トラちゃんにロイヤルミルクティーをカップに注いで貰いながら食べ出した。
それをチラチラと眺めながら、目の前のケーキを見つめる姫様を見ながら、ふと気づいた。
「あ、毒とか入ってるか心配ですか?私先に毒見しましょうか?」
「……いいわよ、何か貴方はそういう事にムダに食べ物を利用しなさそうだから」
何となく照れていると、
「ちょっと!誉めてないわよ?女として食べることに貪欲すぎるって言いたいのよ?ちっとも誉め言葉じゃないのよ?!」
と姫様に叱られた。
「………でも食べ物を大事にしてるって事じゃないですか?私には誉め言葉です」
ご飯大事、スイーツ大事。
大事なものを大切に出来ない人間なんて、私にはろくなもんじゃござんせんよ。
「………変わってる人ね貴方」
姫様は一口フランボワーズを口に入れた。
目を見開き、もう一切れフォークに刺して、更に口に入れる。
「………美味しい………」
私も腰を下ろしてミルクティーをすすりながら、
「気に入って頂いて何よりです」
と笑顔になり、自分のミルフィーユを口にする。
いやー、疲れた後の甘味はまた格別だわ。
「………ちょっと、そっちのも試食してあげるわよ」
姫様の皿を見ると既にフランボワーズは消えていた。
やはり育ちがいいと、一気に食べてると思わせない食べ方が可能なのか。
「あ、ミルフィーユもですか。今取りますね」
ミルフィーユも皿に載せた途端に一口分をフォークで口に運ぶ。
「………これも美味しいじゃない。サクサクした生地が間のクリームと食感も変わって楽しいわ!」
「姫様スイーツお好きなんじゃないですかーやだなー。さっきは渋いお顔されてたのに」
「だってうちの国のスイーツ、ってアレよ?あんなのスイーツじゃないでしょうが。これ食べて分かったわ、あのお菓子はカスね」
「まあ確かにフォローする気にもなりませんけどね。
………でも姫様、先日の晩餐会でお目にかかりませんでしたね」
ミルクティーを優雅に飲みながら、姫様は私を見た。
「少しね、風邪を引いてたものだから」
ああ、だからまだ夜にはだいぶ間があるのにベッドにいたのか。
「それは失礼しました!
病み上がりにスイーツなんか食べても大丈夫ですか?なんなら雑炊とか胃に優しいものでも作りますけど?」
「ゾースイ?いえ、もうほとんど元気なのよ。知らない人達に会うの緊張して疲れるから止めといただけよ」
私は、首を傾げる。
「姫様ちいとも緊張してる様子には見えませんが」
「貴方たち見てたら脱力したのよ。いつも国の偉いおじさんみたいな人ばかりだから普段は」
なるほど、政治的なアレですね。
「姫様には敵意がないと分かって頂ければまあよしとしたいです。脱力した経緯は気になりますが」
「そこは敢えて気にしないでちょうだい。マチルダでいいわよ、姫様とかくすぐったいし」
よく分からないが、マチルダ様は気を悪くはしてないようなので一安心である。
ここは王宮のマチルダ様の部屋とリンクしてるとのことで、転移魔法陣使わずにあの最下層から戻ってこられたので楽出来て良かった。
「それじゃ、私達はそろそろ。シュルツさんにもご報告しませんと」
「そうね。私も今夜は食事に行くから、それじゃあとでまた話しましょう」
エクストリームドライブの最下層と自室をくっつけてるのは内緒よ?と念押しされ、やって来た方とは逆の扉の方から出た私達は、本当に王宮の中だったのでちょっと驚いた。
あの姫………マチルダ様も転移魔法使えるのかな。
こちらの国は割りと魔法使う人いるのねぇ、と感心した。
しかし地下はやはり圧迫感があったのか、空が見えるだけで安心して疲れが出た。
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私は目をこすりながら、みんなとシュルツさんの執務室へ向かうのであった。
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