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武道会【前編】

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 ハルカがクラインに泣きついてから、早2週間。

 あれよあれよで武道会当日である。





 店も営業しつつ、ハルカは仕事の後にクラインから『只者じゃない感』を漂わせる佇まいだの、『一筋縄ではいかないベテラン冒険者風』な鋭い眼差しだの、『無駄のないように見える動き方』だのをスパルタで学んだ。

 表面上は『けっこうデキる風冒険者』に仕上がった。

 そしてネット通販で、地元のタブから強そうに見える冒険者の衣装を購入。

 とどめには孫悟空の使ってた如意棒みたいな細長い棒(伸びない)に、精霊さんズがありとあらゆる属性の防御魔法と身体能力向上魔法をぶちこんでくれた。
 その上、相手の武器に当たれば弾き返し、人に当たれば地味に2メートルほど吹っ飛ぶ。

 防御や身体能力向上はペンダントもあるのだが、うっかり魔石の部分を押してしまうと綾●レイに変身してしまうので、今回は使わないことにしたためだ。


「………ねえこれ本当に目立たないの?何か棒の周囲がレインボーに輝いて見えるんだけども………」

 ハルカは胡散臭げに棒を眺める。

「ハルカは魔力が高いから見えるだけ。他の魔力高くない人には普通の棒」
「そーよそーよ、大丈夫♪」
「だからアップルパイちょーだい」

 精霊さんズから催促が入りました。

 でも、この如意棒的なものがあれば、酷いケガもしないだろうし、A級冒険者としての体裁を取りつつも上手いこと負ける方向に持っていける筈だ。

 精霊さんズには感謝を込め、アップルパイにバニラアイスまでつけてあげた。



ーーーーーーーーーーーーーーー

 ミリアンには登録作業についてきてもらった。

 王宮の出場者受付窓口には、かなりの人が登録に来ていた。
 ハルカは36番。総数128人でのトーナメント形式になるそうだ。

 つうと、ひいふうみい、と。6回勝ってしまうと決勝に進んでしまう。

 3回戦位で負けるなら元A級冒険者的にはくじ運が悪かったとか言い訳が出来るわよ、とミリアンはハルカに助言してくれた。

「どうせ勝ってけばS級冒険者が出てくるんだから、そこで負けるようにすりゃ大丈夫大丈夫♪さっさと帰ってティータイムにしましょ」

「そうよね?大丈夫よねぇ?」

 変に心配して損したわね、とハルカ達は笑顔でこそこそ小声で耳打ちしていたのだが。
 



 ちっとも大丈夫じゃなかった。




 初戦は相手が中学生位の男の子で、明らかに新人冒険者。当然負けられる訳がないので勝たせて頂いた。

 ハルカ的には2回戦でもS級が来れば負ける気満々だったのだが、元B級冒険者というジー様が出てきた辺りから雲行きが怪しくなってきた。

 勝手に打ち込んで来て、防御のつもりで守ったら2メートルほど吹っ飛んでしまい、受け身が取れずぎっくり腰を発症し担架で運ばれていき勝利してしまった。


 よし今度こそ、と思ったら3回戦は元A級冒険者ではあったが、うん十年前なんだという市場の顔見知りの肉屋のおばちゃんである。
 むしろ勝てない方がおかしい。

「ハルカちゃんやっぱ強いねえ。流石に最近まで現役だもんね」

 と笑顔で言われて複雑な思いで見送る。


「あ!大丈夫よ、次はS級冒険者だから、今度こそ負けられるわよ!」

「ホントに?そろそろ後がないんだけど」

「前にパーティー組んだ人だから間違いないわ。結構強いのよぉあの人」


 よっしゃ、負けるでぇぇ、と気合いを入れ直す。

 のだが。

 4回戦の相手は店の常連客だった。それも毎日のように訪れるコアな常連客である。

 頼んでもいないのにそこそこ剣を当てて戦ってる風を装い、手が痺れて剣を取り落とした体で『………参りました』とお辞儀をした。

 待て私何もしてないじゃないか。

 握手をして別れる際に、その冒険者の兄ちゃんは、

「………今度行った時に唐揚げサービスしてくれ」

 と周りに気づかれないよう親指を立てた。
 確かに唐揚げ定食ばかり頼んでたが、そんな下らない理由で負けたのか。
 こちらは勝ちたくないと言うのに変な気遣いしやがって。
 アホやコイツ。誰がサービスするか当分出禁にしてやる。
 ハルカはクラインに特訓されたニヒルな目をしながらすたすたと闘技場を出た。


 思いもよらず勝ち進んでしまい、準々決勝まできてしまったハルカが、控え室の隅で膝を抱えて「どうすんのよ………もう常連客いないでしょうね………」とぶつぶつ言い出してるところに、観客としてのんびり観戦していたテンとプルがやって来た。

「おい、いい加減負けないとヤバいだろ?ハルカ」

「………あと2回勝つと決勝………」

 テンまで心配そうに呟く。

 ミリアンが、

「まさか常連客の接待までは予想外だもの」

 と呆れた顔でコーヒーを出してきた。
 トラがポットに入れて持たせてくれたヤツなので、入れたと言っても単にマグカップに注いだだけだ。

「………ああ、そういや居たなあのお客さん!」

「………唐揚げ定食の人………」


「………なにがなんでも次は負けないとダメなのよ!」

 膝を抱えていたハルカが立ち上がった。


「次は大丈夫だろ。あのゴリラだぞ?」



 準々決勝、現役S級冒険者。身長2メートルはあろうかと言うガチムチのハンマー使いである。

 常連客ではない。あんなデカイのは見た覚えがない。


 よーし、ハルカガンバって負けるぞー、おー、と控え室にあるまじき掛け声をかけ、円陣を組む4人であった。




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