57 / 144
連載
武道会【前編】
しおりを挟む
ハルカがクラインに泣きついてから、早2週間。
あれよあれよで武道会当日である。
店も営業しつつ、ハルカは仕事の後にクラインから『只者じゃない感』を漂わせる佇まいだの、『一筋縄ではいかないベテラン冒険者風』な鋭い眼差しだの、『無駄のないように見える動き方』だのをスパルタで学んだ。
表面上は『けっこうデキる風冒険者』に仕上がった。
そしてネット通販で、地元のタブから強そうに見える冒険者の衣装を購入。
とどめには孫悟空の使ってた如意棒みたいな細長い棒(伸びない)に、精霊さんズがありとあらゆる属性の防御魔法と身体能力向上魔法をぶちこんでくれた。
その上、相手の武器に当たれば弾き返し、人に当たれば地味に2メートルほど吹っ飛ぶ。
防御や身体能力向上はペンダントもあるのだが、うっかり魔石の部分を押してしまうと綾●レイに変身してしまうので、今回は使わないことにしたためだ。
「………ねえこれ本当に目立たないの?何か棒の周囲がレインボーに輝いて見えるんだけども………」
ハルカは胡散臭げに棒を眺める。
「ハルカは魔力が高いから見えるだけ。他の魔力高くない人には普通の棒」
「そーよそーよ、大丈夫♪」
「だからアップルパイちょーだい」
精霊さんズから催促が入りました。
でも、この如意棒的なものがあれば、酷いケガもしないだろうし、A級冒険者としての体裁を取りつつも上手いこと負ける方向に持っていける筈だ。
精霊さんズには感謝を込め、アップルパイにバニラアイスまでつけてあげた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ミリアンには登録作業についてきてもらった。
王宮の出場者受付窓口には、かなりの人が登録に来ていた。
ハルカは36番。総数128人でのトーナメント形式になるそうだ。
つうと、ひいふうみい、と。6回勝ってしまうと決勝に進んでしまう。
3回戦位で負けるなら元A級冒険者的にはくじ運が悪かったとか言い訳が出来るわよ、とミリアンはハルカに助言してくれた。
「どうせ勝ってけばS級冒険者が出てくるんだから、そこで負けるようにすりゃ大丈夫大丈夫♪さっさと帰ってティータイムにしましょ」
「そうよね?大丈夫よねぇ?」
変に心配して損したわね、とハルカ達は笑顔でこそこそ小声で耳打ちしていたのだが。
ちっとも大丈夫じゃなかった。
初戦は相手が中学生位の男の子で、明らかに新人冒険者。当然負けられる訳がないので勝たせて頂いた。
ハルカ的には2回戦でもS級が来れば負ける気満々だったのだが、元B級冒険者というジー様が出てきた辺りから雲行きが怪しくなってきた。
勝手に打ち込んで来て、防御のつもりで守ったら2メートルほど吹っ飛んでしまい、受け身が取れずぎっくり腰を発症し担架で運ばれていき勝利してしまった。
よし今度こそ、と思ったら3回戦は元A級冒険者ではあったが、うん十年前なんだという市場の顔見知りの肉屋のおばちゃんである。
むしろ勝てない方がおかしい。
「ハルカちゃんやっぱ強いねえ。流石に最近まで現役だもんね」
と笑顔で言われて複雑な思いで見送る。
「あ!大丈夫よ、次はS級冒険者だから、今度こそ負けられるわよ!」
「ホントに?そろそろ後がないんだけど」
「前にパーティー組んだ人だから間違いないわ。結構強いのよぉあの人」
よっしゃ、負けるでぇぇ、と気合いを入れ直す。
のだが。
4回戦の相手は店の常連客だった。それも毎日のように訪れるコアな常連客である。
頼んでもいないのにそこそこ剣を当てて戦ってる風を装い、手が痺れて剣を取り落とした体で『………参りました』とお辞儀をした。
待て私何もしてないじゃないか。
握手をして別れる際に、その冒険者の兄ちゃんは、
「………今度行った時に唐揚げサービスしてくれ」
と周りに気づかれないよう親指を立てた。
確かに唐揚げ定食ばかり頼んでたが、そんな下らない理由で負けたのか。
こちらは勝ちたくないと言うのに変な気遣いしやがって。
アホやコイツ。誰がサービスするか当分出禁にしてやる。
ハルカはクラインに特訓されたニヒルな目をしながらすたすたと闘技場を出た。
思いもよらず勝ち進んでしまい、準々決勝まできてしまったハルカが、控え室の隅で膝を抱えて「どうすんのよ………もう常連客いないでしょうね………」とぶつぶつ言い出してるところに、観客としてのんびり観戦していたテンとプルがやって来た。
「おい、いい加減負けないとヤバいだろ?ハルカ」
「………あと2回勝つと決勝………」
テンまで心配そうに呟く。
ミリアンが、
「まさか常連客の接待までは予想外だもの」
と呆れた顔でコーヒーを出してきた。
トラがポットに入れて持たせてくれたヤツなので、入れたと言っても単にマグカップに注いだだけだ。
「………ああ、そういや居たなあのお客さん!」
「………唐揚げ定食の人………」
「………なにがなんでも次は負けないとダメなのよ!」
膝を抱えていたハルカが立ち上がった。
「次は大丈夫だろ。あのゴリラだぞ?」
準々決勝、現役S級冒険者。身長2メートルはあろうかと言うガチムチのハンマー使いである。
常連客ではない。あんなデカイのは見た覚えがない。
よーし、ハルカガンバって負けるぞー、おー、と控え室にあるまじき掛け声をかけ、円陣を組む4人であった。
あれよあれよで武道会当日である。
店も営業しつつ、ハルカは仕事の後にクラインから『只者じゃない感』を漂わせる佇まいだの、『一筋縄ではいかないベテラン冒険者風』な鋭い眼差しだの、『無駄のないように見える動き方』だのをスパルタで学んだ。
表面上は『けっこうデキる風冒険者』に仕上がった。
そしてネット通販で、地元のタブから強そうに見える冒険者の衣装を購入。
とどめには孫悟空の使ってた如意棒みたいな細長い棒(伸びない)に、精霊さんズがありとあらゆる属性の防御魔法と身体能力向上魔法をぶちこんでくれた。
その上、相手の武器に当たれば弾き返し、人に当たれば地味に2メートルほど吹っ飛ぶ。
防御や身体能力向上はペンダントもあるのだが、うっかり魔石の部分を押してしまうと綾●レイに変身してしまうので、今回は使わないことにしたためだ。
「………ねえこれ本当に目立たないの?何か棒の周囲がレインボーに輝いて見えるんだけども………」
ハルカは胡散臭げに棒を眺める。
「ハルカは魔力が高いから見えるだけ。他の魔力高くない人には普通の棒」
「そーよそーよ、大丈夫♪」
「だからアップルパイちょーだい」
精霊さんズから催促が入りました。
でも、この如意棒的なものがあれば、酷いケガもしないだろうし、A級冒険者としての体裁を取りつつも上手いこと負ける方向に持っていける筈だ。
精霊さんズには感謝を込め、アップルパイにバニラアイスまでつけてあげた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ミリアンには登録作業についてきてもらった。
王宮の出場者受付窓口には、かなりの人が登録に来ていた。
ハルカは36番。総数128人でのトーナメント形式になるそうだ。
つうと、ひいふうみい、と。6回勝ってしまうと決勝に進んでしまう。
3回戦位で負けるなら元A級冒険者的にはくじ運が悪かったとか言い訳が出来るわよ、とミリアンはハルカに助言してくれた。
「どうせ勝ってけばS級冒険者が出てくるんだから、そこで負けるようにすりゃ大丈夫大丈夫♪さっさと帰ってティータイムにしましょ」
「そうよね?大丈夫よねぇ?」
変に心配して損したわね、とハルカ達は笑顔でこそこそ小声で耳打ちしていたのだが。
ちっとも大丈夫じゃなかった。
初戦は相手が中学生位の男の子で、明らかに新人冒険者。当然負けられる訳がないので勝たせて頂いた。
ハルカ的には2回戦でもS級が来れば負ける気満々だったのだが、元B級冒険者というジー様が出てきた辺りから雲行きが怪しくなってきた。
勝手に打ち込んで来て、防御のつもりで守ったら2メートルほど吹っ飛んでしまい、受け身が取れずぎっくり腰を発症し担架で運ばれていき勝利してしまった。
よし今度こそ、と思ったら3回戦は元A級冒険者ではあったが、うん十年前なんだという市場の顔見知りの肉屋のおばちゃんである。
むしろ勝てない方がおかしい。
「ハルカちゃんやっぱ強いねえ。流石に最近まで現役だもんね」
と笑顔で言われて複雑な思いで見送る。
「あ!大丈夫よ、次はS級冒険者だから、今度こそ負けられるわよ!」
「ホントに?そろそろ後がないんだけど」
「前にパーティー組んだ人だから間違いないわ。結構強いのよぉあの人」
よっしゃ、負けるでぇぇ、と気合いを入れ直す。
のだが。
4回戦の相手は店の常連客だった。それも毎日のように訪れるコアな常連客である。
頼んでもいないのにそこそこ剣を当てて戦ってる風を装い、手が痺れて剣を取り落とした体で『………参りました』とお辞儀をした。
待て私何もしてないじゃないか。
握手をして別れる際に、その冒険者の兄ちゃんは、
「………今度行った時に唐揚げサービスしてくれ」
と周りに気づかれないよう親指を立てた。
確かに唐揚げ定食ばかり頼んでたが、そんな下らない理由で負けたのか。
こちらは勝ちたくないと言うのに変な気遣いしやがって。
アホやコイツ。誰がサービスするか当分出禁にしてやる。
ハルカはクラインに特訓されたニヒルな目をしながらすたすたと闘技場を出た。
思いもよらず勝ち進んでしまい、準々決勝まできてしまったハルカが、控え室の隅で膝を抱えて「どうすんのよ………もう常連客いないでしょうね………」とぶつぶつ言い出してるところに、観客としてのんびり観戦していたテンとプルがやって来た。
「おい、いい加減負けないとヤバいだろ?ハルカ」
「………あと2回勝つと決勝………」
テンまで心配そうに呟く。
ミリアンが、
「まさか常連客の接待までは予想外だもの」
と呆れた顔でコーヒーを出してきた。
トラがポットに入れて持たせてくれたヤツなので、入れたと言っても単にマグカップに注いだだけだ。
「………ああ、そういや居たなあのお客さん!」
「………唐揚げ定食の人………」
「………なにがなんでも次は負けないとダメなのよ!」
膝を抱えていたハルカが立ち上がった。
「次は大丈夫だろ。あのゴリラだぞ?」
準々決勝、現役S級冒険者。身長2メートルはあろうかと言うガチムチのハンマー使いである。
常連客ではない。あんなデカイのは見た覚えがない。
よーし、ハルカガンバって負けるぞー、おー、と控え室にあるまじき掛け声をかけ、円陣を組む4人であった。
14
お気に入りに追加
6,103
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~
だるま
ファンタジー
ニューヨークの超お嬢様学校に通うマリは日本人とアメリカ人のハーフ。
うっとおしい婚約者との縁をきるため、アニオタ執事のセバスちゃんと異世界に渡ったら、キャンプカーマスタースキルと錬金術スキルをゲット!でもフライパンと銃器があったら上等!
勇者だぁ!? そんなん知るか! 追放だ!
小説家になろうでも連載中です~
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?
長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。
その衝撃で前世を思い出す。
社畜で過労死した日本人女性だった。
果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。
父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。
正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。
家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。