上 下
33 / 51

のどかなハイキング

しおりを挟む
 ケヴィンと直属の騎士団の皆さんも物々しくならないよう人数を絞って総勢六名。ジュリアン王子とニーナ姫、私、ナイト、そのお友だちを併せて九人プラス八匹の集団は、すぐ近くの山へハイキングに出掛けた。山と言っても、標高五百メートルほどの小さな山である。
 絞ったと言うわりには割に結構な大所帯だ。
 まあ家族連れが二組とか一緒にお出掛けすればこんな人数にはなると思うが、流石に猫は多いかも知れない。少なくとも町中ではとても目立つ。
 ナイトにそう告げると、

『まあこれだけ集まってたら目立つよなあ。んじゃ山の入り口に現地集合ってことで、町中ではちっと適当に散歩しながらついてきてもらうよ』

 周囲のお友だちにニャゴニャゴとナイトが言うと、了解といった感じで「にゃーお」と鳴いて皆が散って行った。申し訳ないのと迷子にならないのか心配だったが、

『トウコ、お前猫の嗅覚バカにしてんのか? 犬とたいして変わらんぞ。俺の匂いやトウコの匂いなんて遠くからでも分かるっつうの!』
「そっか。ごめんね」
『……でもまあ燻製の匂いの方が強いかもしんないけどな』

 食い意地が張っているということですかそうですか。
 どちらにせよちゃんとついて来られるなら一安心だ。ジュリアン王子もニーナ姫も最初は猫まみれでご満悦だったのが急にナイトだけになって寂しそうだったが、町を出て山に入る頃合流すると言ったらニーナ姫は笑顔が戻った。ジュリアン王子は口元だけ少し緩んでいるだけだったが、これでもかなりご機嫌な方ではないかと思う。
 案の定、彼は山に入る時に集まって来た猫たちを見て私に、

「……おやつはまだダメなのか?」

 とソワソワと小声で聞いて来たぐらいだ。

「ダメです。ランチの時に一緒です」
「そうか……」

 少し残念そうな顔をしたが、一緒に山道を多くの猫と歩いているだけでも楽しいらしく、ナイトと色々と話しながら足取りも軽く登っている。当然通訳は私だ。

「見て! 兄様、葉っぱが赤く色づいているのもあって素敵だわ!」
「ああ、そうだな」

 のんびりとした空気の中、周囲の自然の景色を見ながら歩くのは私にとっても良い気分転換だ。

『なあトウコ、ちっと疲れたから抱っこしてくれよ。あ、王子様かお姫様でもいいぞ』
「……と言ってますがどうしますか? 服が汚れてしまうと思いますが」
「構わない。私が抱っこする」
「ちょっと兄様、私だって別に汚れても良い服着てるんだから!」
「女性の服が汚れるよりは私の方が良いだろう」

 そういうと腰を下ろしてナイトを抱き上げた。
 ずるい、と文句を言うニーナ姫に、ナイトが連れの奴らも抱っこして欲しいらしいと言っていると伝えると、いそいそと近くの白に黒ぶちの子を抱き上げた。一番小さな子だったからより疲れていたのかも知れない。目が糸のように細くなって、ニーナ姫に撫でられゴロゴロと喉を鳴らしている。

「ほら、あなたたちも他の子たちを抱っこして上げてちょうだい。まだ頂上まで結構あるんでしょう?」

 ニーナ姫は護衛の騎士にそう告げると、抱き上げた黒ぶちの子を撫でながら歩き出した。
 ケヴィンもパフが家族に加わったため、猫への愛着も増したそうだ。

「ほら、来いよ」

 と一番おデブな猫を軽々と抱き上げ、それにつられて他の騎士たちも一匹ずつ抱き上げる。
 人が九人、猫は八匹。
 おい、私にはモフモフの温もりがないのはどういうことだ。
 ……まあジュリアン王子たちがご機嫌が良いのなら何よりだし、私は家で好きなだけモフらせてもらえるから良いかな。
 私は気持ちを切り替えて山頂へ向かった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

処理中です...