上 下
7 / 40

魔王、仕事してる?

しおりを挟む
 クレイドと日本から戻って来てから二週間。
 こちらに戻ると私もすっけすけの状態から実体化した状態になるので、私も読んだことがないマンガを借りて一緒に読んで楽しんだのだが、クレイドのマンガへの熱量は凄まじく、最初に購入した三百冊を超えるマンガは、最初の一週間で読み終えてしまったようだ。恐ろしく速読だ。でも魔王の仕事というのをしている気配がないのだが大丈夫なのだろうか。

 読むマンガが無くなった途端に二度、「おうそうだ、コロコロを返さねばな」とキャリーカートを抱えて一人でいそいそと出掛けて行き、何故かまたコロコロを引いて戻って来た。返すんじゃなかったのか。当然ながらキャリーの中は新しいマンガが山積みである。どうやら宝石も改めて持っていたそうだが、弟には「こんなバカでかい宝石なんか貰ってもどこで盗んだと言われそうだし、そもそも処分に困るから止めてくれ」と突っ返されたそうだ。その代わりに、ホーウェン国の取材ということで色々と国の様子を聞かれてメモされていると言う。新たな小説の題材にでもするのだろうか。

 私は読むのにじっくり時間をかけるタイプなので、最初に持ち帰ったマンガもまだ全部読み終わってはいない。それにしてもいきなりこんなに大量に本が増えてしまって、どこにしまうのだろうか、と少々呆れていると、気がついたら客間をつぶしてマンガ専用の読書室が二つも出来ていた。
 城で働いているゴブリンさんたちが壁一面に本棚を取り付け、ゆったり読めるようにふかふかのソファーとお茶を置けるサイドテーブルまで設置してくれて、読書好きな自分としても快適この上ない。人間がダメになる。
 だが、まだ一つの読書室の本棚の三分の一も埋まっていないが、まだまだ購入する気だろうか。いくら私の預金を相続するとは言っても、弟が少々可哀想だなあ、と思っていたら、クレイドが弟から手紙を預かって来てくれた。

『姉ちゃんへ

 いやー、聞けば聞くほど面白いんだよホーウェン国!
 魔王も東西南北で四人いるんだってさ。すげーよね。……でも、魔王といっても、破壊の限りを尽くすとか、勇者と戦うみたいなラノベファンタジー的な要素は全然ないみたいなんだけどね。何か、役所の偉い人みたいな感じ? その辺はちょっとがっかりかな。まあ姉ちゃんが安全に生きられるんなら、まあいいかとは思うけどさ。
 クレイドって、あんなちっちゃいのにもう千年以上生きてるらしいよ。成長遅いのかな? でも大人になったらめちゃくちゃイケメンになりそうだよね彼(笑)
 それで、どうせなら毎回姉ちゃん連れて来てくれりゃいいのにって言ったら、「亡くなったばかりの人間で、リリコが初めてホーウェン国に来たこちらの世界の人間だから、状況が今後どう変化するか分からない。何か自分の魔力でカバー出来ない状態になって、浄化されてしまったり悪霊みたいなものになっても困るし、ホーウェン国で体が安定して簡単には消えない状態になってからの方がいい」って言われて、それもそうかなと思って。でも手紙は渡してくれるって言うから文通みたいな感じで手紙のやりとりはしようよ。落ち着いたらまた会いに来てね!

 追伸:クレイドがマンガを爆買いする件で気にしてると思ったんで一応伝えておくと、俺も姉ちゃんに万が一のことがあった際にと思って、姉ちゃん預金作ってたんだよ(二百万以上はあるよ!)。いやー俺も姉思いだよねえ。だけど姉ちゃんとも死んでから無事に再会出来たし、お礼でこれぜーんぶ使っても問題ないから。あと姉ちゃんの遺産も、特に使う予定はないから貯金しとくつもりだし、安心してくれ。それとさ、今後の印税も貰うんだから、姉ちゃんも欲しいもんとかあったらクレイドに手紙渡してくれればいいからな。そっちなら生身の人間で過ごせるんでしょ? お菓子とか筆記用具とか、いつでも買っとくから。あ、でも電気はないみたいなんでPCとかは無理そうだよね。そんじゃまたね!   トール』

 こちらのクレイドはそりゃあ大人のイケメンだぞ弟よ。目つきはやたら険しいけども。だが読んでいて、どうしてクレイドがあれから日本に連れて行ってくれないのかと思っていた理由が判明して良かった。本来死んでいるはずの私が、ホーウェン国では普通に眠って食事をして生きている状態なのだ。そんなに深刻には考えていなかったが、言われてみれば、日本に戻るたびに本来の死者としての在り方に軌道修正されてもおかしくはない。
 本当ならさっさとあの世にでも行けばいいのだろうが、私も平均寿命よりかなり早く死んだので未練はあるし、すっけすけの存在ではあっても弟に会えるしで、出来れば暫くはこの生活を維持したい気持ちはあるのだ。
 ここはクレイドの考えに従って、当分はホーウェン国で大人しく生活をしていた方が良さそうだ。それにしても魔王と言うのに優しい人である。

 私はのんびりとそんなことを思い、欲しいものねえ……と思いながら、弟の返事の文面を考えるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠
恋愛
男の趣味が悪いことで有名な家に生まれたアデル。祖母も母も例に漏れず、一般的に屑と呼ばれる男性と結婚している。お陰でアデルは、自分も同じように屑と結婚してしまうのではないかと心配していた。 アデルの婚約者は、第三王子のトーマス。少し頼りないところはあるものの、優しくて可愛らしい婚約者にアデルはいつも癒やされている。だが、年回りの近い隣国の王女が近くにいることで、婚約を解消すべきなのではないかと考え始め……。 ヒーローのことが可愛くて仕方がないヒロインと、ヒロインのことが大好きな重すぎる年下ヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:266115)をお借りしております。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈 
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される

未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」 目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。 冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。 だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし! 大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。 断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。 しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。 乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!

処理中です...