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魔王、仕事してる?

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 クレイドと日本から戻って来てから二週間。
 こちらに戻ると私もすっけすけの状態から実体化した状態になるので、私も読んだことがないマンガを借りて一緒に読んで楽しんだのだが、クレイドのマンガへの熱量は凄まじく、最初に購入した三百冊を超えるマンガは、最初の一週間で読み終えてしまったようだ。恐ろしく速読だ。でも魔王の仕事というのをしている気配がないのだが大丈夫なのだろうか。

 読むマンガが無くなった途端に二度、「おうそうだ、コロコロを返さねばな」とキャリーカートを抱えて一人でいそいそと出掛けて行き、何故かまたコロコロを引いて戻って来た。返すんじゃなかったのか。当然ながらキャリーの中は新しいマンガが山積みである。どうやら宝石も改めて持っていたそうだが、弟には「こんなバカでかい宝石なんか貰ってもどこで盗んだと言われそうだし、そもそも処分に困るから止めてくれ」と突っ返されたそうだ。その代わりに、ホーウェン国の取材ということで色々と国の様子を聞かれてメモされていると言う。新たな小説の題材にでもするのだろうか。

 私は読むのにじっくり時間をかけるタイプなので、最初に持ち帰ったマンガもまだ全部読み終わってはいない。それにしてもいきなりこんなに大量に本が増えてしまって、どこにしまうのだろうか、と少々呆れていると、気がついたら客間をつぶしてマンガ専用の読書室が二つも出来ていた。
 城で働いているゴブリンさんたちが壁一面に本棚を取り付け、ゆったり読めるようにふかふかのソファーとお茶を置けるサイドテーブルまで設置してくれて、読書好きな自分としても快適この上ない。人間がダメになる。
 だが、まだ一つの読書室の本棚の三分の一も埋まっていないが、まだまだ購入する気だろうか。いくら私の預金を相続するとは言っても、弟が少々可哀想だなあ、と思っていたら、クレイドが弟から手紙を預かって来てくれた。

『姉ちゃんへ

 いやー、聞けば聞くほど面白いんだよホーウェン国!
 魔王も東西南北で四人いるんだってさ。すげーよね。……でも、魔王といっても、破壊の限りを尽くすとか、勇者と戦うみたいなラノベファンタジー的な要素は全然ないみたいなんだけどね。何か、役所の偉い人みたいな感じ? その辺はちょっとがっかりかな。まあ姉ちゃんが安全に生きられるんなら、まあいいかとは思うけどさ。
 クレイドって、あんなちっちゃいのにもう千年以上生きてるらしいよ。成長遅いのかな? でも大人になったらめちゃくちゃイケメンになりそうだよね彼(笑)
 それで、どうせなら毎回姉ちゃん連れて来てくれりゃいいのにって言ったら、「亡くなったばかりの人間で、リリコが初めてホーウェン国に来たこちらの世界の人間だから、状況が今後どう変化するか分からない。何か自分の魔力でカバー出来ない状態になって、浄化されてしまったり悪霊みたいなものになっても困るし、ホーウェン国で体が安定して簡単には消えない状態になってからの方がいい」って言われて、それもそうかなと思って。でも手紙は渡してくれるって言うから文通みたいな感じで手紙のやりとりはしようよ。落ち着いたらまた会いに来てね!

 追伸:クレイドがマンガを爆買いする件で気にしてると思ったんで一応伝えておくと、俺も姉ちゃんに万が一のことがあった際にと思って、姉ちゃん預金作ってたんだよ(二百万以上はあるよ!)。いやー俺も姉思いだよねえ。だけど姉ちゃんとも死んでから無事に再会出来たし、お礼でこれぜーんぶ使っても問題ないから。あと姉ちゃんの遺産も、特に使う予定はないから貯金しとくつもりだし、安心してくれ。それとさ、今後の印税も貰うんだから、姉ちゃんも欲しいもんとかあったらクレイドに手紙渡してくれればいいからな。そっちなら生身の人間で過ごせるんでしょ? お菓子とか筆記用具とか、いつでも買っとくから。あ、でも電気はないみたいなんでPCとかは無理そうだよね。そんじゃまたね!   トール』

 こちらのクレイドはそりゃあ大人のイケメンだぞ弟よ。目つきはやたら険しいけども。だが読んでいて、どうしてクレイドがあれから日本に連れて行ってくれないのかと思っていた理由が判明して良かった。本来死んでいるはずの私が、ホーウェン国では普通に眠って食事をして生きている状態なのだ。そんなに深刻には考えていなかったが、言われてみれば、日本に戻るたびに本来の死者としての在り方に軌道修正されてもおかしくはない。
 本当ならさっさとあの世にでも行けばいいのだろうが、私も平均寿命よりかなり早く死んだので未練はあるし、すっけすけの存在ではあっても弟に会えるしで、出来れば暫くはこの生活を維持したい気持ちはあるのだ。
 ここはクレイドの考えに従って、当分はホーウェン国で大人しく生活をしていた方が良さそうだ。それにしても魔王と言うのに優しい人である。

 私はのんびりとそんなことを思い、欲しいものねえ……と思いながら、弟の返事の文面を考えるのだった。



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