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ルーシーの天敵【4】
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【ルーシー視点】
リーシャ様に、
「相手も真剣なのだから、ちゃんと向き合ってデートでもしてから断るぐらいの誠意を見せなさい」
と至極まっとうな事を言われてしまった私は、仕方なくグエン・ロイズ様に手紙を書いた。
『ご都合のいい日があれば、ゆったりお茶でも頂きながらお話出来れば幸いでございます』
というシンプルなもので、敢えてデートという言葉は使わなかった。2度目があるかも不明だからだ。
2、3日で届いたとして、返事を貰うまでまあ1週間程度だろうかと思って、その後の仕事の調整をしていると、3日後、旦那様がお帰りになった際に、
「グエン・ロイズから預かって来た」
と手紙を渡された。
夜、風呂を出て自室に戻ってから開封すると、やたらと綺麗な文字で、
【とても嬉しい。良かったらお茶だけでなく昼食も一緒にしたい。◯◯日か◯◯日ならどちらがいいだろうか?
手紙を出すとこちらに届くまで時間がかかるので、返事はシャインベック指揮官に渡して下さい。快諾頂きました。】
などと書いてあった。
上司である旦那様を伝書鳩代わりにするとは、とグエン・ロイズ様の図々しさに驚いたが、まあ断るなら早い方が良いだろうと早めの日程を書いて、旦那様にお渡しした。
◇ ◇ ◇
毎日なんだかんだと忙しく動き回っていたら、あっという間にグエン・ロイズ様とのデートもどきの日になってしまった。
「さて、……」
屋敷に迎えに来るグエン・ロイズ様を待ちながら、私はクローゼットを眺めながら途方にくれていた。
デートというのは何を着ればいいのだろうか。
リーシャ様の服を選ぶのは簡単なのだ。
あの方は世の全ての殿方を虜にする美貌が備わっているので、何を着ても似合うし、着こなしてしまう。
私はと言えば、ど平凡な見た目である。服も動きやすい事を前提に購入するので、華やかさの欠片もない。
しかしいくらお断りするためのデートとは言え、失礼のないようにしないとシャインベック家の名にキズが付く。
悩んだ末に、濃紺のフレヤースカートと白いブラウスにグレイのハーフコート、という考えたわりには地味な装いになった。
まあいい。元が地味なのだから丁度いい。
軽くファンデーションをはたいて、ピンクベージュの口紅を塗る。
目元の二重を強調させたくないのでアイシャドウはしない。
鏡を見ると、いつもと代わり映えしない気がするが、変に気合いを入れていると思われても困る。
よし、と立ち上がると、私を呼ぶリーシャ様の声が聞こえた。グエン・ロイズ様が来られたようだ。
軽く深呼吸すると、私は部屋を後にした。
「ルーシーさん、お早うございます!いい天気で良かったですね」
居間のソファーで、リーシャ様と旦那様とコーヒーを飲みながら話をしていたグエン・ロイズ様が、私を見て満面の笑みで立ち上がった。
取っつきやすいイケメンと言ったところだろうか。常に笑顔である。感情表現が豊かな御方なのだろう。童顔なので笑うと更に若く見える。
170近い私とそう身長は変わらないので、小柄な方ではないかと思うが、流石に騎士団でおられるだけあって、ラフな茶系のジャケットに隠れた胸板や二の腕の厚みが日頃の鍛練を感じさせる。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「全然。早く今日が来ないかとずっと楽しみにしてました。──シャインベック指揮官、奥様、それではルーシーさんと出掛けて来ます。なるべく早くお送りしますので」
「別に構わんぞ。ルーシーは今日は休みだからゆっくり楽しんで来てくれ」
「そうよルーシー。たまには気分をリフレッシュしないとね。行ってらっしゃい」
リーシャ様が微笑むと、いつ見てもため息が出るほど光輝き麗しいが、グエン・ロイズ様は何の感慨も湧かないようだ。男性として少しおかしいのではないかと思う。
ロイズ伯爵家の馬車で町に向かう。
「ルーシーさん鳥は好き?ローストチキンとクロワッサンが美味い店があるんだけどそこでいいかな」
「はい。チキンは好きです」
「そう。良かった!」
ニコニコと私を見ながら楽しそうにしているグエン・ロイズ様を見ていると、誰にでも好感を持たれそうなタイプなのに、どうして私のような平凡で年上の女とデートをしたがるのか、未だに疑問であった。
戦い方が綺麗だったので惚れました、とか仰っておられたが、そんなところで女に惚れるのは通常あり得ない。
何か本当は別の目的があるんじゃないか。
私と付き合う事でリーシャ様の情報をつかみ、あわよくばモノにしようと考えているのでは、とも考えたが、それにしてはあの全く興味ないという態度は腑に落ちない。それに騎士団にいるのに上司の妻を寝取ろうとするような人にも見えないのだ。
旦那様の弱味を握って出世したい、といった権力思考も見受けられない。
町に着くまでの30分足らずに色々と想定をしてみたが、全く読めない。
たびたび話しかけられて答えている内に、まあ今日でもうお会いすることもないだろうし、どうでもいいか、と考えるのを止めた。
…………見目麗しい殿方と一緒にいて、気持ちが浮き立たない訳ではないが、私はシャインベック家の方々をお護りするだけで精一杯なのだ。
リーシャ様に、
「相手も真剣なのだから、ちゃんと向き合ってデートでもしてから断るぐらいの誠意を見せなさい」
と至極まっとうな事を言われてしまった私は、仕方なくグエン・ロイズ様に手紙を書いた。
『ご都合のいい日があれば、ゆったりお茶でも頂きながらお話出来れば幸いでございます』
というシンプルなもので、敢えてデートという言葉は使わなかった。2度目があるかも不明だからだ。
2、3日で届いたとして、返事を貰うまでまあ1週間程度だろうかと思って、その後の仕事の調整をしていると、3日後、旦那様がお帰りになった際に、
「グエン・ロイズから預かって来た」
と手紙を渡された。
夜、風呂を出て自室に戻ってから開封すると、やたらと綺麗な文字で、
【とても嬉しい。良かったらお茶だけでなく昼食も一緒にしたい。◯◯日か◯◯日ならどちらがいいだろうか?
手紙を出すとこちらに届くまで時間がかかるので、返事はシャインベック指揮官に渡して下さい。快諾頂きました。】
などと書いてあった。
上司である旦那様を伝書鳩代わりにするとは、とグエン・ロイズ様の図々しさに驚いたが、まあ断るなら早い方が良いだろうと早めの日程を書いて、旦那様にお渡しした。
◇ ◇ ◇
毎日なんだかんだと忙しく動き回っていたら、あっという間にグエン・ロイズ様とのデートもどきの日になってしまった。
「さて、……」
屋敷に迎えに来るグエン・ロイズ様を待ちながら、私はクローゼットを眺めながら途方にくれていた。
デートというのは何を着ればいいのだろうか。
リーシャ様の服を選ぶのは簡単なのだ。
あの方は世の全ての殿方を虜にする美貌が備わっているので、何を着ても似合うし、着こなしてしまう。
私はと言えば、ど平凡な見た目である。服も動きやすい事を前提に購入するので、華やかさの欠片もない。
しかしいくらお断りするためのデートとは言え、失礼のないようにしないとシャインベック家の名にキズが付く。
悩んだ末に、濃紺のフレヤースカートと白いブラウスにグレイのハーフコート、という考えたわりには地味な装いになった。
まあいい。元が地味なのだから丁度いい。
軽くファンデーションをはたいて、ピンクベージュの口紅を塗る。
目元の二重を強調させたくないのでアイシャドウはしない。
鏡を見ると、いつもと代わり映えしない気がするが、変に気合いを入れていると思われても困る。
よし、と立ち上がると、私を呼ぶリーシャ様の声が聞こえた。グエン・ロイズ様が来られたようだ。
軽く深呼吸すると、私は部屋を後にした。
「ルーシーさん、お早うございます!いい天気で良かったですね」
居間のソファーで、リーシャ様と旦那様とコーヒーを飲みながら話をしていたグエン・ロイズ様が、私を見て満面の笑みで立ち上がった。
取っつきやすいイケメンと言ったところだろうか。常に笑顔である。感情表現が豊かな御方なのだろう。童顔なので笑うと更に若く見える。
170近い私とそう身長は変わらないので、小柄な方ではないかと思うが、流石に騎士団でおられるだけあって、ラフな茶系のジャケットに隠れた胸板や二の腕の厚みが日頃の鍛練を感じさせる。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「全然。早く今日が来ないかとずっと楽しみにしてました。──シャインベック指揮官、奥様、それではルーシーさんと出掛けて来ます。なるべく早くお送りしますので」
「別に構わんぞ。ルーシーは今日は休みだからゆっくり楽しんで来てくれ」
「そうよルーシー。たまには気分をリフレッシュしないとね。行ってらっしゃい」
リーシャ様が微笑むと、いつ見てもため息が出るほど光輝き麗しいが、グエン・ロイズ様は何の感慨も湧かないようだ。男性として少しおかしいのではないかと思う。
ロイズ伯爵家の馬車で町に向かう。
「ルーシーさん鳥は好き?ローストチキンとクロワッサンが美味い店があるんだけどそこでいいかな」
「はい。チキンは好きです」
「そう。良かった!」
ニコニコと私を見ながら楽しそうにしているグエン・ロイズ様を見ていると、誰にでも好感を持たれそうなタイプなのに、どうして私のような平凡で年上の女とデートをしたがるのか、未だに疑問であった。
戦い方が綺麗だったので惚れました、とか仰っておられたが、そんなところで女に惚れるのは通常あり得ない。
何か本当は別の目的があるんじゃないか。
私と付き合う事でリーシャ様の情報をつかみ、あわよくばモノにしようと考えているのでは、とも考えたが、それにしてはあの全く興味ないという態度は腑に落ちない。それに騎士団にいるのに上司の妻を寝取ろうとするような人にも見えないのだ。
旦那様の弱味を握って出世したい、といった権力思考も見受けられない。
町に着くまでの30分足らずに色々と想定をしてみたが、全く読めない。
たびたび話しかけられて答えている内に、まあ今日でもうお会いすることもないだろうし、どうでもいいか、と考えるのを止めた。
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