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なるほどなるほど。

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(あー、………考えてみたら、ルーシーだけならともかく、ダークに見られる可能性をコロッと忘れてたわ………)

 私は、ドナドナされる馬車の中、頭を抱えたくなっていた。



「余りにも暇だから紐使って人形縛って遊んでた」

 と自分でも苦しい言い訳をし、

「私がこんな目に遇ってるのに、呑気な人形の顔見てると何だか腹立たしいわ」

 ともっと苦しい言い訳をして、賑やかな声がする辺りで窓からていっ、と放り投げた。

 ここがどこだか分からないが、民家のある辺りなら誰か拾って騎士団とかに届けてくれるんじゃないかなー、と思ったりしたからだ。単にゴミとして捨てられる可能性もあるけれど。
 ブレナンには改めて抱き枕的なぬいぐるみを買ってやらねば。

 ま、ジークラインだって幾らなんでも未来の義母(仮)を放置はしないだろうし、騎士団を使って探してくれている、と思いたい。


 ルーシーが見たら、絶対に私だって分かってくれるはず。ダークは………いえむしろ分からないでいてくれた方が有り難いのだけど。

 あの人、変に私を美化してるところあるからなぁ。

 腐女子はファッションではなく生き様なのだと何度も説明してるのに、「腐女子だろうと何だろうとリーシャは可愛い」とか全肯定だもの。優しいにも程がある。

 そんなにいいもんでもないのよ腐女子って。だって腐ってるんだもの。
 


 だがよくよく考えてみたら、いくら私の痕跡をルーシー達に知らせたかったからとは言え、亀甲縛りの熊を騎士団の人たちに見られるのは如何なものだろうか。


 いや見られてもいいが、それが私のモノであるというのがバレるのは大変宜しくない。

 傾国の美貌(他称)な淑女が、普段からぬいぐるみにあんな事をしていると思われると、ダークの妻としても外聞が悪すぎる。
 また事実なだけに質が悪い。


 うーん………最悪、犯人さんにやられた事にするか。
 こんな縛り方してやるぞと脅されたとか。

 よし、それでいこう。
 致し方ない。誘拐する方が悪いのだ。ちょっと冤罪の1つや2つ引き受けて頂いてもよろしかろう。

 何しろ私はびいせんの女神(他称)なのだ。
 ダークの為にも子供たちの為にも、せっかく勝手に上げて頂いている評判を地に落とす訳にはいかない。

 世間知らずのか弱い子爵夫人として普通に拐われた感を醸し出しとかないと。

「亀甲縛り?何ですのそれ?」

 とか言って首を傾げとけば大丈夫だろう。演技力は子供たちにも劣るが。



「………リーシャ、何を頷いてるの?」

 ヨハンとか呼ばれていた赤毛の兄さんが不思議そうに顔をぐっと近くへ寄せてきた。

「近い近い。いや別に何でもないですよ。
 子供たちはちゃんと寝たのかなーとか、メイドが連れ帰ってくれたかなーとかそんな事です。母ですから。
 旦那様が探してるかもなーとか。人妻ですから」

 しつこく母親、人妻アピールをするが、この人相変わらず全く気にする様子がない。

「まあ子供は平気じゃないかな。明るいとこで待ってたからちゃんと連れ帰ってくれたと思うよ。
 旦那さんはまー、探そうとしてもどこ探せばいいか分かんないもんねぇ。
 早めに諦めてくれるといいな」



 えっと、多分無理だと思います。

 あのオッサンは私がいないと生きていけないっていつも言ってるので、何年かかろうが見つけ出すまで諦めないと思うんで。
 剣を持ってない事を祈ってて下さい。
 阿修羅になると背筋凍ります。

 ルーシーは執筆もかかってるので、彼以上にしつこく捜索すると思います。
 きっと激おこです。主に私に。
 ナイフとロープ持ってない事を祈ってて下さい。



「………それにしてもお腹すいたわ………」


 私はポツリと呟いた。

 サーカスを見てから戻ってゲストハウスでのご飯を楽しみにしてたのになあ。
 拉致られたので、サーカス見る前にちょっとアイスティーを飲んだだけである。

「お腹すいた?そっか、だよねぇまだ晩ごはんも食べてないもんね。
 もうすぐ隠れ家に着くから、俺がなんか作るよ。結構上手なんだよこれでも」

「………お兄さん本職コックですか?」

「俺?スリとか空き巣とかかな。
 ………あ、でも小さくね、1人の負担は少しずつって感じ。
 急に沢山なくなったら大変な人もいるだろうから」

「そんな気を遣える位なら、何で最初から普通に働かないんですか?」

「ほら、こんだけ不細工だとまともに雇ってくれるとこって、中々ないんだよこの国では。
 それに俺たちは孤児だから身元保証人もいなくて信用されにくいし。
 ………初めの頃はちゃんとした仕事探そうとしたんだよ?でも上手く行かなかった」

「………ご事情は分かりますが、他の人のお金を盗む理由にはなりませんよ。みんな働いて得ているお金なんですから。
 私の旦那様も超不細工(他称)だとか言われてたので、実力主義の騎士団に入るべく鍛練しましたよ?今も努力の人ですけど。
 サーカスに入るとか、絵を描くとか、文章書くとか人前にあまり出ないで済む裏方の仕事とか、色々あるんじゃないですかね他の道は。
 大体、一生幸せにするとか言ってましたけど、盗んだお金で幸せにするつもりですか?」

「………ダメ?」

「養われるつもりはないですが、当たり前でしょう何を考えてるんですか!
 よくそれで養うとか言えますね。捕まったらおしまいですし、不安定極まりないじゃないですか」

「………コレしかなかったんだから仕方ないじゃないか!」

 ヨハンが声を荒げた。

「顔の良し悪しを楽する理由にしたらダメです。最初から生まれ持ってるモノに文句つけてもしょうがないでしょ。
 私なんか不特定多数の人と接するの苦手なのに、なまじ顔が……ほら、コレなせいで、華やかな世界に引きずり出されたり拐われたりする訳ですよ。
 ちっとも良くないんですよ?
 私の望む静かで平穏な生活が継続出来なくて、最近は心がヤサグレる事ばかりですし」

「………美人もそこまで行くと苦労するんだね」

 他称な、あくまでも他称。
 世間がそう思っても私は認めん。

「それなら尚更俺と穏やかで静かな生活送ればいいじゃん。直ぐは無理かもだけど、普通の仕事もちゃんと探すから。
 俺がリーシャを癒せるように頑張る!」

「だから呼び捨ては止めれ。
 私の旦那様と子供たちが居ないと癒されないです」

「俺と子供作ればいいじゃん。旦那と子供。万事解決っと」

「全然解決してないし」

「ーーあ、着いたみたいだよ」

 不毛な会話をしている間に馬車が止まった。

「さあ、僕らのマイホームだよ!
 グースとマリアも一緒に住んでるから新婚生活にはちょっとアレだけど、部屋は幾つもあるから」

「勝手に決めないで下さい。私のマイホームはガーランド国にありますから」

 降りたところは、暗くてよく分からないが、民家というには大きい建物の前だった。

「ここに住んでるんですか?」

「ここさ、男爵が一人で住んでたみたいなんだけどね。家族は他所に住んでるもんだから、本人が亡くなってからこの屋敷ほったらかしで放置されててさ。
 まあこの辺町から離れてて割りと不便だし。
 何年も前から空き家だったのを俺たちが借りてるんだ」

「家賃払って?」

「いや勝手に」

「不法占拠までしてるんかい」

 思わず小声でツッコミを入れてしまった。

「空き家の有効利用っしょ?家って人が住まないと傷むって言うし。掃除もしてるよ?メインで使ってるとこだけだけど」

 さあ、入って入って、と促されて入った屋敷は、確かに小綺麗に片付けられてはいたが、よそさまの家に無断で入ってる罪悪感が拭えない。

 ヨハンもだが、マリアという小柄な美人と、グースと言ってたゴツい精悍な感じのイケオジも、普通に家へ戻ってきたといった感じである。

「今ご飯作るからさ。パスタとか好き?」

「………まあ好きですけども」

「分かった!ちょっとだけ待っててね!」

 ヨハンが厨房に入って行くのをリビングで眺めながら、ふとマリアがヨハンを見ている事に気づいた。


 それは、恋する女の眼差しであった。





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