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そうだ、フランのとこへ行こう。

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「リーシャ様、お元気がないようですわね」


 王宮から戻って数日。

 気分が上がらず溜め息ばかりついていた私にルーシーが声をかけてきた。

 うちのコロボックル達は遊び疲れたのかお昼寝タイムである。

「んー、元気、元気ねぇ………その辺に落ちてなかったかしら。捨てた覚えはないのだけれど」

 運んできたミルクティーを私の前に置きながら、ルーシーは首を振った。

「わたくしが拾っていたら強制的に水で流し込んで飲ませますけれど、生憎と落ちていたのは『ダイエット』だけでございました」

「あー、あれね。 ………いえ、諦めた訳じゃないのよ?でもほら、アレってゾンビみたいにどんなに土中深く埋めても蘇ってくるじゃない?何かしらねあの女性に対するネバーマインドなしぶとさは。
 だからそれは燃えるゴミで出しておいていいわ。またの復活を待ちましょう」

「かしこまりました。
 ………ところで、やはり元気がないのは例の王族倍々プッシュジャンピングチャンスでございますか?」

「関わりたくないのに勝手に倍々にチャンスを増やさないで貰えるかしらね。
 主を労らないと貴女の飼い殺しチャンスも倍々プッシュにするわよ。
 ………ちょっと何嬉しそうな顔してるのよ。飼い殺しよ飼い殺し。解ってるの?一生縛りつけられるんだから………だから『一筆下さい』じゃないわよ落ち着きなさい。
 しかしまぁなんで王族がうちみたいな一子爵に絡んでくるのかしらねぇ」

「いい加減にご自身の奇跡の美貌と、お子様方の天使のような愛らしさと美しさのせいだと認めてしまわれた方が楽でございますよ」

「それだけは死んでも認めないわ。
 スタンダード最高。
 ただの何処にでもいる平凡な釣り好きのヒッキーの薄い本作家兼マンガ家の子爵夫人だというのに、どんどん私の狭いパーソナルエリアが勝手に広がって行くのよ?勘弁して欲しいわ。
 ………なんだか言葉にするとあまり平凡な子爵夫人ではなかったわね」

「左様でございますね。スタンダードな子爵夫人に全力で謝って頂きたいです」

「謝らないわよ。私という前例があるんだもの。何処かにはいるハズなのよ、何重にも猫を被った大物が。
 私もそろそろ猫が擦りきれてボロボロだから、出先で被る猫を新調しなくてはと思いつつ………いえ、私の事はどうでもいいのよ。
 子供たちがどんどん青田買いされて行きそうな不穏な気配が漂う中で、母親として私はいま一体何が出来るのか、とそういう真面目な事を考えている訳なのよ」

「それで何かいい案でも?」

「それがなぁんにも」

「じゃ、お休みしていたのと同じでございますね。お子様達も当分は起きないでしょうから、そろそろ原稿の方へ戻りましょうかリーシャ様」

「酷いわルーシー、私の真剣な悩みを休憩呼ばわりなんて!この仕事どころではないアンニュイな感じが分からないかしら」

「あいにくと。ですが最悪いろいろぶん投げて逃げ出す時にもお金は大切でございます」

「………そうね。先立つものは必要よね。母としてまずお金を稼ぎましょう」

 私は立ち上がる。

「だけど、先日結構お金が貯まったから私に財務をやれとか言ってなかったかしら?何か足りないの?」

「え?………………そうっ!そうなのです!
 やはり逃亡となるとお子様も旦那様も一緒ですから、かなりまとまった金額が必要ですし、先日は税金の事を計算に入れておりませんでしたもので………」

「ああ、税金は大変よね。稼げば稼ぐほど大金がなくなるシステムみたいだものね。
 前世でも同人誌が売れ過ぎて家を購入したはいいけど、翌年どばーっと税金が来て払えずに家を手放した、なんて洒落にならない人の話もあったわ」

「全くでございますわね。では来年支払う税金代を稼ぎましょう。
 ところでわたくし最近髪の艶ベタが上手くなったと思われませんか?」

「そうね。でもベタと枠線と消しゴムかけるのしか出来ないようでは、サリーのチーフアシの座は譲れないわよ。もっと上を目指しなさい上を」

 私は図書室へ向かいながらルーシーに注文をつけてからかった。



 私が落ち込み出すと、察してすぐに気分を変えようとしてくれるルーシーには本当に頭が上がらない。



 そう言えば、友人のフランも侯爵家に婿入りしてくれた旦那様と仲良くやっているようだけど、もしもフランが同じ状況に立った時にはどうするか、何か良いアドバイスでも貰えるかも知れない。なんたって上流貴族だもの。

 手紙のやり取りぐらいでここ数ヵ月会ってないし、愚痴りがてら顔でも見に行こうかしら。そうねそうしましょ。リアーナの顔も見たいし。

 もしかしたら問題が解決する糸口になるかも知れない、と私は気持ちが高揚するのを感じるのだった。



 
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