上 下
6 / 30

カイルの場合。【6】初夜前編

しおりを挟む
「……はい、誓います」
 
 
 俺が緊張しながら答えると、参列客からわあっという歓声と拍手が沸き上がった。
 
 
 
 とうとう待ちに待った俺とマデリーンの結婚式の当日である。
 
 
 父や母、弟たちやルーシーたちが一緒になって満面の笑みで拍手をしている。
 いや、母は拍手をしながらだーだー泣いていた。
 
「カイルがお婿に行くー、寂しいわあー」
 
「ほらリーシャ、せっかくのガーランド国の女神が普通の美人になっちゃうからチーンってしなさい」
 
 父が後ろを向かせて世話を焼いている。
 相変わらず母の美貌は40間近でも衰えてないようで、
 
「あそこのレディはどこの方だ?」
 
「……え? 花婿の母? いやいや馬鹿言うなよ、精々姉さんだろ。あんな若い母親いる訳ない」
 
「あれが噂のガーランド国の女神か……聞きしに勝るな」
 
「それじゃ、あの眩しいくらい女神に瓜二つの美貌の双子は娘なのか? 急いで息子の釣書を用意せねば!
 家族付き合いも大切にしたい!」
 
「ふざけるなよ、我が家の方が格が上だ! ウチの次男の嫁にする!」
 
 などとザワザワしているせいで、父のご機嫌がどんどん急降下している。
 申し訳ないですが、位で言えばジークライン王子とレイモンド王子の方がぶっちぎりで上です。
 すみませんね、もう嫁ぎ先決まってるもので。
 
 だーだー泣きながらもその辺の空気を読むのは得意な母なので、
 
「ダークぅ、せっかくの晴れの日に眉間にシワ寄せたらダメなんだからねー。とんでもないイケメンが普通のイケメンになるじゃないのよう」
 
 ときゅっきゅっと手でシワを伸ばしている。
 そして母が何より一番と憚らない父は、すぐコロコロと転がされてご機嫌が治るのだ。本当に自分の両親とはいえ、未だに仲が良くて当てられる。
 
 
 ルーシーはルーシーで、グエンおじさんにカバンを持たせてズームカメラを構え、俺たちに向けパシャパシャと忙しくフラッシュを光らせて撮りまくっている。
 
 いつも通りの家族の光景に、ピリついていた神経が収まって来て、ちょっと笑ってしまった。
 
「カイル、お披露目も済んだし、早く着替えてパーティー会場に移動しましょう。母様も父様もカイルと話をしたがってるわ。勿論リーシャおば様たちとも」
 
 マデリーンのウェディングドレスはかなり裾が長いレースになっていて、見た目はいいが歩きにくくてしょうがないらしい。
 
「とても綺麗なのに勿体ないね。……でも俺の奥さんは何を着てても可愛いからいいか」
 
 はい、と腕を絡ませて控え室へ向かう。
 
「やあね、カイルったらもう! イケメンに言われるとお世辞にしかならないわよ」
 
 顔を赤くしてペシ、と叩くマデリーンも可愛い。
 本当に自分の妻になったのかと未だに信じられない。
 
 これから10年後か20年後か分からないが、ヒルダ女王陛下が退位されてマデリーンが女王陛下に即位した時に、彼女の力になれるよう王配としての勉強も頑張らねば。
 
 
 
 
 □■□■□■□■□■□■
 
 
 
「よおし、明日はカイルとマデリーンの成婚記念で、タイを釣りに行くぞー!
 デカいのが来る予感がする!」
 
 すっかりワインでいい感じに出来上がったフレデリック王配……義父上が、父と母を捕まえて離さない。 
 
 親しい人たちだけで大広間で立食パーティーで行っているので、みんな気兼ねせずに過ごしているが、王配がアロハというのはどうなのかとも思う。
 
 しかも季節は春にはまだ少し早いのだ。みんな長袖である。マデリーンが言うには、
 
「もとから父様は暑がりだったんだけれど、ゲイルロードでアロハ買ってから着やすさにすっかりハマってしまって、畏まった席以外は殆どアレよ」
 
 と苦笑していた。まあぷにっとしたふくよかな体型と陽気な丸顔に似合っているけれど。
 
 
「しかし、この間私が釣ったタイを超えられるサイズはまだ出ておりませんでしょう?」
 
 父がミヌーエワインを飲みながらニヤリと笑った。
 
「あらダーク、3ヶ月も前の釣果を未だに誇るなんて大人げないわあ。まあどちらにせよ私が釣り上げた大物のヒラメほどではないけれど」
 
 ふふふふっ、と母が含み笑いをしながらたしなめているが、釣りになると負けん気が顔を出すようで、母も充分大人げない。
 
 ルーシーは義母であるヒルダ女王陛下に捕まり、
 
「だっておかしいだろう? あそこで何でノッティンガー侯爵がマルコを貶めるような真似をするんだ? 好きで好きで仕方ないという状態だったのに」
 
「そこが深みのあるところでございますわヒルダ女王陛下。次の巻ではその理由が明らかになるのです。
 ただ、ここで言ってしまってはせっかくの楽しみが半減してしまいますわ。
 読み直すと伏線があるのがお分かりかと」
 
「なんと! 気を持たせるではないかルーシー。
 最近では、リーシャの本がすっかり眠る前のお楽しみになっているというのに、ああ気になる……読み返すしかあるまい」
 
「読めば読むほど味わいがあるのがリーシャ様の作品です。他の作家様ではここまでのクオリティは中々……」
 
「そうよなあ。私も幾つか別の作家のものも送って貰ったが、やはりリーシャのが一番面白い」
 
「来月新刊が出ますので、ヒルダ女王陛下には発売前にお届け出来るよう手配は済んでおりますわ」
 
「いつも済まぬな。だがもうヒルダで良いと言うておろう? 私の薄い本の先生ではないか。
 リーシャのメイドは恐ろしく気が回ると我が王宮でも評判だぞ? いっそカイルと一緒に来て王宮で働かぬか?」
 
「とんでもございませんわ。女王陛下をお名前で呼ぶなど息子にも示しが付きませんのでお許し下さいませ。
 ちなみにリーシャ様のお側を離れる予定はございませんので宜しくお願い申し上げます」
 
「むー、残念な事よのう」
 
 
 
 ──何だかすっかり同好の士のような関係になっている。グエンおじさんはグレアムがおねむになったので一足早くホテルに引き上げていた。
 
 
 
 のどかな空気もそろそろお開きといったところで、マデリーンがメイドに連れられて下がる。
 
 俺も挨拶をして下がらせて貰う。
 
 
 
 何と言っても今夜は初夜なのである。
 
 酔っ払いたちの相手をしている場合ではないのだ。
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ女子と笑わない王子様

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
 目立たず静かに生きていきたいのに何故かトラブルに巻き込まれやすい古川瞳子(ふるかわとうこ)(十八歳)。巻き込まれたくなければ逃げればいいのだが、本来のお人好しの性格ゆえかつい断りそびれて協力する羽目になる。だがそのトラブルキャッチャーな自分の命運は、大学に入った夏に遊びに来た海で、溺れていた野良猫を助けようとしてあえなく尽きてしまう。  気がつけば助けたその黒猫と一緒に知らない山の中。  しかも猫はこちらにやって来たことが原因なのか、私とだけ思念で会話まで出来るようになっていた。まさか小説なんかで死んだら転生したり転移するって噂の異世界ですか?  トウコは死に損じゃねえかと助けた猫に同情されつつも、どんな世界か不明だけどどちらにせよ暮らして行かねばならないと気を取り直す。どうせ一緒に転生したのだから一緒に生きていこう、と黒猫に【ナイト】という名前をつけ、山を下りることに。  この国の人に出会うことで、ここはあの世ではなく異世界だと知り、自分が異世界からの『迷い人』と呼ばれていることを知る。  王宮に呼ばれ出向くと、国王直々にこの国の同い年の王子が、幼い頃から感情表現をしない子になってしまったので、よその国の人間でも誰でも、彼を変化させられないかどんな僅かな可能性でも良いから試しているので協力して欲しいとのこと。  私にも協力しろと言われても王族との接し方なんて分からない。  王族に関わるとろくなことにならないと小説でも書いてあったのにいきなりですか。  異世界でもトラブルに巻き込まれるなんて涙が出そうだが、衣食住は提供され、ナイトも一緒に暮らしていいと言う好条件だ。給料もちゃんと出すし、三年働いてくれたら辞める時にはまとまったお金も出してくれると言うので渋々受けることにした。本来なら日本で死んだまま、どこかで転生するまで彷徨っていたかも知れないのだし、ここでの人生はおまけのようなものである。  もし王子に変化がなくても責任を押し付けないと念書を取って、トウコは日常生活の家庭教師兼話し相手として王宮で働くことになる。  大抵の人が想像するような金髪に青い瞳の気が遠くなるほどの美形、ジュリアン王子だったが、確かに何を言っても無表情、言われたことは出来るし頭も良いのだが、何かをしたいとかこれが食べたいなどの己の欲もないらしい。 (これはいけない。彼に世の中は楽しいや美味しいが沢山あると教えなければ!)  かくしてジュリアンの表情筋を復活させるトウコの戦いが幕を上げる。  フェードイン・フェードアウトがチートな転生女子と、全く笑みを見せない考えの読めない王子とのじれじれするラブコメ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

処理中です...