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カイルの場合。【3】

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【マデリーン視点】
 
 
「……まあ、何て事かしらあのヘタレ……」
 
「リーシャ様、血は水よりも濃いと申します」
 
「ヘタレの子はヘタレという事ね。
 私も反省しなくては。──よし、反省終了。来世では明るく社交的な引きこもらない腐女子になるわ」
 
「反省はやっ。それも社交的なのに結局腐女子。
 社交的になる意味皆無ですわね。
 ですがリーシャ様、すぐ来世に丸投げするのは止めませんか。まだ人生長いですし、これから社交界に一際輝く魅惑の貴腐人として……」
 
「イヤねルーシー、私を舐めて貰ったら困るわ。
 人生通じてこの30年以上、引き込もってなかったのは釣りとダークへのアタックのみというヒッキーに、そんなサクセスストーリーなんてないわよ。
 ヒッキーはモグラと一緒よ。たまに穴を掘り間違えて太陽を浴びる程度のうっかりレベルでしか外界には出ないし、暗がりと妄想を好むの」
 
「その年を重ねても衰え知らずの美貌と、文才、画才、料理、有り余る才能がなければ清々しい程のクズ宣言ですわね。
 ……ですからもういい大人の女性なんですから誉められた位で鳥肌立てるのは止めて頂けますか」
 
 
 
 お風呂から出て私が客室で髪の毛を乾かしていると、ルーシーとリーシャおば様がお茶とチョコレートを持って現れた。
 
 まだ先程の小説以外にも、売れっ子のリーシャおば様は忙しいようで、マンガの下描きをしなくてはならないそうだ。
 
 私が眠る前に女子トークをするの! とお風呂で宣言していたが、本当に来てくれて嬉しかった。
 
 
 
 母は、女王制度の我が国のトップであるため、私は物心ついてから殆ど父としか遊んだ記憶がない。
 
 勿論、忙しいので仕方がないのは理解しているのだが、やはり母と娘でする恋愛話などにも憧れていたし、相談なんかもしたいと思っていたりもしたのだ。
 
 父は大好きだが、男性だものね。
 
 12歳の時にたまたまリーシャおば様やシャインベックファミリーと知己を得て、カイルと出会って、私の生活は驚くほど広がりを見せた。
 
 リーシャおば様もいつまでも綺麗なのに気取らなくて穏やかな性格だし、一緒にいると2人目の母のような気持ちになりつい甘えてしまう。
 
 だから、ついポロっとこぼれてしまったのだ、最近の悩みが。
 
 
 
「マデリーンの国では20歳が成人とは言えもう19。こちらではとうに成人だし、19と言えば私がカイルを生んだ年だわ。
 ……まあ何ていうの? そのー、閨的な話はともかくね、キス位は普通にしてるとばかり思ってたのよ私は」
 
「左様でございますね。手を繋いだのも数えるほどってどこのお子さまでしょうか?
 マデリーン様はリーシャ様のように『キス出来るもんならしてみろよ』と旦那様に言われて『よし来た』と奪いに行くような破廉恥な女性ではございませんし、カイル様も19の男性ならばもっとこう、少し位は攻めてもいいのでは」
 
「リーシャおば様そんな積極的な事を!?」
 
「ルーシー、ちょっとマデリーンの前で黒歴史の暴露は止めてちょうだい。
 違うのよマデリーン、ウチのダークは顔にコンプレックスがあって私に対してすごく引いてたからね、私がグイグイ行くしかなかったと言うかね……」
 
 顔を赤らめながら弁解をしているリーシャおば様はとても可愛らしい。
 
 でも、私が傾国の美貌と言われるリーシャおば様のようにグイグイ行くのは無理だ。
 
 顔にも自信がなくて恥ずかしいし、男性のように剣の鍛練や護衛術の訓練をしたり、ズボン姿で足を広げて釣りをするような女らしさの欠片もない人間がそんな事をしたら、カイルはドン引きするのではないかと思う。
 
「婚約したのは、王族だからとか、昔馴染みで断れなかったとか、私に女性らしさが足りずにとてもそんな気にならないとか、何だか悪い想像にばかり気持ちが働いてしまって……」
 
 カイルはいつも紳士的にエスコートしてくれるし、楽しそうにしてくれているが、友だちの延長みたいな感じなのではないだろうか。
 
 半年で結婚するのにこのままでいいのかと私が悶々としている事を告げると、リーシャおば様は楽しそうに笑った。
 
「その心配は無用よ。カイルはね、初めて会った頃からずっとマデリーンの事ばかり話していたし、その後も今に至るまで他の女性にふらふらした事もないわ。
 ウチの子供たちは浮気性じゃないから安心して」
 
「そう、ですか……」
 
 では、私に女としての色気とか魅力が足りないのか。
 
「カイルは一番ダークに中身が似てるというか、生真面目な子だからねえ。式を終えるまではいかがわしい事はいけないと思ってるんじゃないのかしら。
 何しろ次期女王陛下だもの」
 
「あー、それはありそうでございますねえ。王配としてのケジメみたいな」
 
 そんなのいいのに。
 カイルは目鼻立ちも整っているし、誰にでも優しいからモテるのだ。アナが、
 
「ラブレターを胸の谷間に挟んで渡そうとしたバカもいたのよう。色仕掛けとかあのカイル兄様に効くわけないじゃないねー、アホらしい」
 
 と言っていた位だし(婚約するより前の事だが、ちゃんと好きな人がいると速攻で断ったらしい)、私としては離れたところにいる分、気が気じゃないのだ。
 
 唇へのキス1つした事がない婚約者は、普通なのだろうかと。
 
「大丈夫よマデリーン。いざとなればカイルを押し倒して唇ぐらい奪いに行きなさい。私が許すわ。
 女性にそんな心配させるなんて男として情けないわ」
 
「お、押し倒す?」
 
 思わず大きな声が出てしまった。
 
 すると、扉の外からノックの音とダークおじ様の声がした。
 
「あー、済まない。少々不穏な会話が耳に入ったもので。マデリーン、もしかしてリーシャが無茶ぶりをしてるんじゃないか?」
 
「あらダーク? 入って入って」
 
 お風呂から上がったばかりのようで、タオルを首にかけた状態のダークおじ様がそっと扉が開けて覗き込んできた。
 入っては来ない。
 
 しかし相変わらず無駄のない筋肉がついた上半身だわ。カイルもそうだが惚れ惚れする。
 
「未婚の女性の部屋に入るのは宜しくないからな」
 
 入口で上半身だけ出したダークおじ様は、リーシャおば様に向かって、
 
「リーシャの攻め方は特殊だから、他の女性と同じだと思うなよ?」
 
 とたしなめた。
 
「でも、ダークは捕まったわよ?」
 
「俺だけでなく100人いたら100人が捕まる」
 
「ダークにしかアタックするつもりなかったもの。そんな例え話に意味はないわよ。押してダメならもっと押せってルーシーが」
 
「──リーシャ様、私をしれっと巻き込むのは止めて頂けますか?
 どれだけ止めても無駄だと思ったから協力したまででございますからね?」
 
「……マデリーン、押し倒すのは時と場合にした方がいいらしいわ。私、ダークにしか特攻経験がないから経験値が100か0なのよね」
 
「マデリーン、リーシャの言うのはあくまでも参考程度にしなさい。ほんっとーに何をするか分からないタイプだったから。今も割とそうだが」
 
「……旦那様の扱いが少しひどいわ」
 
「全部引っくるめて愛してるけどな」
 
 マデリーンは来たばかりなんだから早く寝かせてあげなさい、と言ってダークおじ様は消えていった。
 
「ウチの旦那様、最高に懐が広いわね。ねえ今の台詞聞いた? くうううっ流石私の不動のナンバー1だわ!」
 
 身悶えするリーシャおば様に、ルーシーが
 
「はいはい、リーシャ様のナンバーワンはともかく、月刊誌のナンバーワン作家もそろそろ仕事に戻りましょう。マデリーン様、ごゆっくりお休み下さいませ」
 
「ありがとう。リーシャおば様、話を聞いてくれてありがとうございました。おば様と話しただけで少し気が楽になったわ」
 
「ごめんなさいね、お役に立てなくて。
 でもね、押し倒すのは有効だと私は──」
 
「そろそろ脇パン入りますわよリーシャ様」
 
「仕事ダイスキー。働くのダイスキー」
 
 またね、とおば様たちも部屋を出ていった。
 
 
 
 ……押し倒す、ねえ。
 ちょっと私には敷居が高いわ。
 
 
 
 
 
 
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