異世界恋愛短編集

辺野夏子

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 事の発端は。

 壮大な勘違い、その場にいた全員の勘違いであった。

 彼らは、自殺志願者の女性が私だと勘違いしたらしい。


「茶色い髪で、三つ編みが二つで、紺色のローブで、リアと名乗る回復術士の20歳ぐらいの死んだ目をした女っつったらオメーだろ!」

 重戦士のリープは思いっきりキレてきた。これだから、ガサツな男は困る。この年頃の女の子が、2年も同じ服、髪型でいるわけないのに。

「てか、逃げんなら先に言えよ!いや俺も『再会まで隠しておいた方がロマンチック~』って黙ってたのが悪いんだけどね!?俺がめちゃくちゃ怒られたんだけど!?」

「ごめんて……」

 弓使いのジャスティンも私にキレてきた。流石に彼には申し訳ないと思っている。


「すみません、お騒がせして本当にすみませんっ」

「いえほんと、こちらこそすみませんでした……人違いで……」

 レオは件の女性と古竜に平謝りしていた。

 女性はフィリアさんと言うそうだ。確かに、特徴だけ羅列すれば2年前の私とほぼ同じなのだが、顔は全然違っていた。ちょっとでも見ればわかりそうなものだけど、隠れていたのだから仕方がない。

「我は戻るぞ。やっと番を手に入れたのだ。まあ、久方ぶりの運動にもなったし、良いだろう」

 エンシェントドラゴンさんは、番の気配を感じてこの周辺をうろうろしていたらしい。

 あんまり初対面の人に根掘り葉掘り聞くのは私の流儀に反するので、深くは聞かなかったけど、要約すると諸般の事情で行き場がなく、人生に絶望して山に入ったフィリアさんこそが、古竜の「番」で、そこに運悪く追いかけてきたレオたちが「私がやられる」と思って仕掛けたらしい。

 竜の方は当然番を奪われたくなくて激怒、フィリアさんはレオたちが素材狙いの冒険者だと思って物陰で熱烈応援。

 そんな感じだ。こんな勘違いで戦闘していては、命がいくらあっても足りない。


「人の土地は襲わない」という証明のために、竜の鱗を一枚もらった。非常に親切な人……ではない。竜だけど。

 男子達が大盛り上がりだったので、もっと鱗をくれた。人間をはるかに越えた器のデカさだ。素晴らしい。

 当たり前だけど、売ればとてつもないお金になるらしい。

「家でも買うか」
「どこに住むかも決まってないのに?」
「そこを決めるのがまず、お楽しみだろ」

 レオはまるで、離れていた期間が嘘のように笑った。
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