28 / 63
5
しおりを挟む
航海はつつがなく進む。
する事は何にもない。私はお客さんなわけだから、当然だけど。夜に眠れない事も増えたので、甲板を散歩することにした。
月が出ている。星を探したけれど、どれが「アトリア」なのか分からなかった。まだ南下が足りないのかもしれない。
月が綺麗だ。私は一人だ。これから先、私がのたれ死んだって、誰もその事を知らない。
「愛人に、なっとけば、よかったー」
無性に悲しくなって、甲板で泣いた。見張りの人がすっ飛んできて、厳重に注意されて、そのあとずっと誰かしらに監視されていた。
失恋の痛手で、身投げしそうな女の子に見えるらしい。しないっつの。
それから一年ちょっと、私はその辺をフラフラして、なんとなく南の国へやってきた。
別にレオに会いにきたわけではない。ただ、元気でいるかなと思ったのだ。
この国で、レオの事を調べることができなかった。冷静に考えなくても、多分偽名だったのだと思う。代わりに、「お相手」だったはずの王子様が、何処かへ行ってしまったらしいことを聞くことができた。
私のせいでどうにかなってしまったのかと思ったが、どうやら彼は自由人だったようで、私が逃げたことがわかるとこれ幸いと、別に探すわけでもなくまた市井に戻ってしまったのだそうだ。
それを聞いてとてもスッキリしたので、私はもうちょっと、南へ行くことにした。
さようなら、顔も知らない運命の人、レオナルド様。私の分までどうかお幸せに。
南には鉱山があると言うので、そこまで行こうと思っている。一人で野営をする。訓練の甲斐あって、私は結界を張ることができるので不安はない。
でも、一人は淋しい。
旅の仲間がいないとか、そんな話じゃない。魂が孤独なのだ。家族はいなくて、帰るところもなくて。運の悪さにするのは簡単だが、結局は全て私の選択の結果だ。
しょーもない。ひねくれ者は、損をする。
夜空を眺める。ゴチャゴチャして、どれがどの星座なんだかさっぱりわからない。
「『アトリア』の場所、聞いておけば良かった」
レオはとても目が良かったし、星座にも詳しかった。
いまさら、一人で調べるつもりもない。でも、いつかアトリアを見つけたら。そうしたら、星の導きってやつでそこに住もうかなと思っている。
途中で魔物に襲われて停滞していた商隊と合流した。私は卑屈でどうしようもないやつだが、人にはできるだけ親切にしようと思うぐらいの社会性はある。感謝されるのはやはり嬉しい。
そうしてやっと、目的地に到着した。
いろんな鉱石や宝石がたくさん取れるところで、ガラはあんまり良くないが、危ないところなので治癒術士の需要はとてもありそうだと思ったのだ。
しかし、街はとても閑散としていた。なんでも、ドラゴンが出るというのだ。ドラゴンはドラゴンでも、いわゆるトカゲみたいなやつじゃなくて。
本当の上位種、ガチのエンシェントドラゴンがうろつき始めたのだと言う。
まだ被害は出ていないが、話を聞きつけた自殺志願者が入山したり、まあ色々あったようで。もちろん、私に何かできるわけでもないので、簡単にこなせそうな依頼、怪我人の治療とか、そのへんだけ受けてさっさと逃げようかな。
そう思った時。
「S級冒険者の人が、即決で山に入ってくれましたから、もうすぐ何とかなると思うんですが」
S級冒険者って言ったって、レオと愉快な仲間たちに毛が生えたぐらい──ろくに調べもせずにドラゴンに挑むとなると、級が同じなだけで、ひよっこかもしれない。
「あー、死んだな、そいつら」と思いながらも、私にはどうしてあげることもできない。せめて名前ぐらいは覚えておいてやろうと、ギルドにある台帳をめくる。
ジャスティン。
リープ。
その名前を見て、冷や汗がどっと出てくる。瞳をほんのちょっとずらして、次の名前を見ると「グリム」とか言う知らない人だったのでほっとした。
レオ。
1番最後に、見慣れた字で書いてあった。
する事は何にもない。私はお客さんなわけだから、当然だけど。夜に眠れない事も増えたので、甲板を散歩することにした。
月が出ている。星を探したけれど、どれが「アトリア」なのか分からなかった。まだ南下が足りないのかもしれない。
月が綺麗だ。私は一人だ。これから先、私がのたれ死んだって、誰もその事を知らない。
「愛人に、なっとけば、よかったー」
無性に悲しくなって、甲板で泣いた。見張りの人がすっ飛んできて、厳重に注意されて、そのあとずっと誰かしらに監視されていた。
失恋の痛手で、身投げしそうな女の子に見えるらしい。しないっつの。
それから一年ちょっと、私はその辺をフラフラして、なんとなく南の国へやってきた。
別にレオに会いにきたわけではない。ただ、元気でいるかなと思ったのだ。
この国で、レオの事を調べることができなかった。冷静に考えなくても、多分偽名だったのだと思う。代わりに、「お相手」だったはずの王子様が、何処かへ行ってしまったらしいことを聞くことができた。
私のせいでどうにかなってしまったのかと思ったが、どうやら彼は自由人だったようで、私が逃げたことがわかるとこれ幸いと、別に探すわけでもなくまた市井に戻ってしまったのだそうだ。
それを聞いてとてもスッキリしたので、私はもうちょっと、南へ行くことにした。
さようなら、顔も知らない運命の人、レオナルド様。私の分までどうかお幸せに。
南には鉱山があると言うので、そこまで行こうと思っている。一人で野営をする。訓練の甲斐あって、私は結界を張ることができるので不安はない。
でも、一人は淋しい。
旅の仲間がいないとか、そんな話じゃない。魂が孤独なのだ。家族はいなくて、帰るところもなくて。運の悪さにするのは簡単だが、結局は全て私の選択の結果だ。
しょーもない。ひねくれ者は、損をする。
夜空を眺める。ゴチャゴチャして、どれがどの星座なんだかさっぱりわからない。
「『アトリア』の場所、聞いておけば良かった」
レオはとても目が良かったし、星座にも詳しかった。
いまさら、一人で調べるつもりもない。でも、いつかアトリアを見つけたら。そうしたら、星の導きってやつでそこに住もうかなと思っている。
途中で魔物に襲われて停滞していた商隊と合流した。私は卑屈でどうしようもないやつだが、人にはできるだけ親切にしようと思うぐらいの社会性はある。感謝されるのはやはり嬉しい。
そうしてやっと、目的地に到着した。
いろんな鉱石や宝石がたくさん取れるところで、ガラはあんまり良くないが、危ないところなので治癒術士の需要はとてもありそうだと思ったのだ。
しかし、街はとても閑散としていた。なんでも、ドラゴンが出るというのだ。ドラゴンはドラゴンでも、いわゆるトカゲみたいなやつじゃなくて。
本当の上位種、ガチのエンシェントドラゴンがうろつき始めたのだと言う。
まだ被害は出ていないが、話を聞きつけた自殺志願者が入山したり、まあ色々あったようで。もちろん、私に何かできるわけでもないので、簡単にこなせそうな依頼、怪我人の治療とか、そのへんだけ受けてさっさと逃げようかな。
そう思った時。
「S級冒険者の人が、即決で山に入ってくれましたから、もうすぐ何とかなると思うんですが」
S級冒険者って言ったって、レオと愉快な仲間たちに毛が生えたぐらい──ろくに調べもせずにドラゴンに挑むとなると、級が同じなだけで、ひよっこかもしれない。
「あー、死んだな、そいつら」と思いながらも、私にはどうしてあげることもできない。せめて名前ぐらいは覚えておいてやろうと、ギルドにある台帳をめくる。
ジャスティン。
リープ。
その名前を見て、冷や汗がどっと出てくる。瞳をほんのちょっとずらして、次の名前を見ると「グリム」とか言う知らない人だったのでほっとした。
レオ。
1番最後に、見慣れた字で書いてあった。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
アリア
桜庭かなめ
恋愛
10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。
それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。
様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。
※完結しました!(2020.9.24)
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる