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別に、そこまで親切心に溢れた存在じゃないけれど。世界をよくしようなんて、思っているわけではないけれど。
もう一度言うけれど、リチャードは私の推しなのだ。
この世界はゲームの世界。でも、たくさん読んだ物語のように、悲劇を回避できるとしたら?
未来が変わってしまうと、そのひずみが不都合を産むのかもしれない。それでも、この先がわかっているのに不幸になるのを黙って見過ごすのは後味が悪い。
何かできるかどうかわからないけれど、助けてあげてもいいだろう。どうせクラウスとデュークは世界を救うわけだし、親切にして損はない。
私が頼み事にまんざらでもない態度を示したので、クラウスをはじめ、人間たちは非常に喜んだ。おお、ちやほやされるとやる気が出てきた。
ひとまず森の出口まで移動する。そこから先は転移魔法が使えるらしい。地元の里は最高だけれど、せっかく好きだったゲームに転生したのなら、観光するのも悪くない。
「我が国の第一王子リチャード殿下は神殿の禁を破り、その身に呪いを受けた。我々では解呪することができない。それで伝説の存在、ケット・シーに助力を求めるために宝物庫から無断で神具を拝借したってわけ」
歩きながら説明を聞く。なんか今とんでもないことを言ったような……まあ、ゲームでも勝手に宝箱開けたりするから今更か。
「その殿下ってのは悪い子なわけ? 禁を破っちゃうような?」
「違うと思っているよ。彼は僕じゃないからね」
クラウスの意味ありげな言葉。薄々王宮に渦巻く陰謀に気がついてはいるけれど、見てみぬふりをしていたのが彼と言うキャラクター。
「もうちょっと人生とか、国の行く末についてちゃんと考えたら?」
「自分なりに努力はしているよ」
「またまた」
クラウスは私に茶化されても、気を悪くした様子は見せなかった。その代わりに、少し目を伏せた。おお、これは何かシリアスな展開のフラグ……。
「彼は獣化の呪いにより、白銀の虎に姿を変えた。今は意思疎通が困難な状態になっている」
「……人を?」
「今は、まだ」
クラウスは静かに首を振った。
「ひとたび人間を手にかけてしまえば、彼はもう戻れないだろう。犯人を洗い出すこともできなくなる」
「戻れない……」
そう、彼は呪いを受け、人間の世界から拒絶された。そうして四天王に下り、主人公たちの前にたちはだかる。
無口で、魔王軍の仲間とつるむわけでもなく、とにかくリチャードは物悲しげなキャラクターだった。
歩きながら脳内にゲームの物悲しいBGMが流れて、私は久しぶりに泣いてしまった。ケット・シーとして生きているとつらい事って基本的にないのよね。
「あ、ああ、あああ~~」
「リチャード王子の身の上に同情してくださるなんて、本当に感受性の高い個体ですね」
あかん辛い泣いてしまう。やっぱり可哀想。超可哀想。この展開いらんわ。
クラウスが私の涙を採取しようとしてくるので、すっと涙が引っ込んだ。前足で顔をごしごしとこする。
しかし……助けるのはいいとして、ひとつ気になる設定がある。リチャードは作中の大体の場合において、名無しのはぐれケット・シーと一緒にいた。
『はぐれ』はグラフィックの一部として存在するだけで、名前はなく、性別も不明。攻撃してくるわけでもない。ただ、リチャードのそばにいて、彼が死んだ後もしばらくそのマップにとどまっている。
エンディングのスタッフロールに、そのケット・シーが一輪の白い花を咥えて、無縁仏のいる墓地に一匹、佇んで……。
国を追い出された後の彼の過去は明らかになっていない。どのような道筋をたどり、あのケット・シーは何だったのか。
もしかして、あの名無しのケット・シーは、墓地の前で祈るように手を合わせていたのは……私なのかもしれない。
もう一度言うけれど、リチャードは私の推しなのだ。
この世界はゲームの世界。でも、たくさん読んだ物語のように、悲劇を回避できるとしたら?
未来が変わってしまうと、そのひずみが不都合を産むのかもしれない。それでも、この先がわかっているのに不幸になるのを黙って見過ごすのは後味が悪い。
何かできるかどうかわからないけれど、助けてあげてもいいだろう。どうせクラウスとデュークは世界を救うわけだし、親切にして損はない。
私が頼み事にまんざらでもない態度を示したので、クラウスをはじめ、人間たちは非常に喜んだ。おお、ちやほやされるとやる気が出てきた。
ひとまず森の出口まで移動する。そこから先は転移魔法が使えるらしい。地元の里は最高だけれど、せっかく好きだったゲームに転生したのなら、観光するのも悪くない。
「我が国の第一王子リチャード殿下は神殿の禁を破り、その身に呪いを受けた。我々では解呪することができない。それで伝説の存在、ケット・シーに助力を求めるために宝物庫から無断で神具を拝借したってわけ」
歩きながら説明を聞く。なんか今とんでもないことを言ったような……まあ、ゲームでも勝手に宝箱開けたりするから今更か。
「その殿下ってのは悪い子なわけ? 禁を破っちゃうような?」
「違うと思っているよ。彼は僕じゃないからね」
クラウスの意味ありげな言葉。薄々王宮に渦巻く陰謀に気がついてはいるけれど、見てみぬふりをしていたのが彼と言うキャラクター。
「もうちょっと人生とか、国の行く末についてちゃんと考えたら?」
「自分なりに努力はしているよ」
「またまた」
クラウスは私に茶化されても、気を悪くした様子は見せなかった。その代わりに、少し目を伏せた。おお、これは何かシリアスな展開のフラグ……。
「彼は獣化の呪いにより、白銀の虎に姿を変えた。今は意思疎通が困難な状態になっている」
「……人を?」
「今は、まだ」
クラウスは静かに首を振った。
「ひとたび人間を手にかけてしまえば、彼はもう戻れないだろう。犯人を洗い出すこともできなくなる」
「戻れない……」
そう、彼は呪いを受け、人間の世界から拒絶された。そうして四天王に下り、主人公たちの前にたちはだかる。
無口で、魔王軍の仲間とつるむわけでもなく、とにかくリチャードは物悲しげなキャラクターだった。
歩きながら脳内にゲームの物悲しいBGMが流れて、私は久しぶりに泣いてしまった。ケット・シーとして生きているとつらい事って基本的にないのよね。
「あ、ああ、あああ~~」
「リチャード王子の身の上に同情してくださるなんて、本当に感受性の高い個体ですね」
あかん辛い泣いてしまう。やっぱり可哀想。超可哀想。この展開いらんわ。
クラウスが私の涙を採取しようとしてくるので、すっと涙が引っ込んだ。前足で顔をごしごしとこする。
しかし……助けるのはいいとして、ひとつ気になる設定がある。リチャードは作中の大体の場合において、名無しのはぐれケット・シーと一緒にいた。
『はぐれ』はグラフィックの一部として存在するだけで、名前はなく、性別も不明。攻撃してくるわけでもない。ただ、リチャードのそばにいて、彼が死んだ後もしばらくそのマップにとどまっている。
エンディングのスタッフロールに、そのケット・シーが一輪の白い花を咥えて、無縁仏のいる墓地に一匹、佇んで……。
国を追い出された後の彼の過去は明らかになっていない。どのような道筋をたどり、あのケット・シーは何だったのか。
もしかして、あの名無しのケット・シーは、墓地の前で祈るように手を合わせていたのは……私なのかもしれない。
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