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「あー、極楽、極楽」
あくびをして、芝生の上にごろりと寝転がる。私は本当に幸せものだ。
ケット・シーに生まれ変われて本当によかったと思う。
私の前世は日本人だった。名前は美也子。今の名前もミヤコ。死因は夜中コンビニに行こうとしてトラックにはねられた。打ちどころが悪かったらしい。まあそれは今更構わない。
とにかく今世はケット・シーと呼ばれる猫型の妖精に生まれ変わったのだった。全身黒で毛が短くて、前足だけが白い。ぱっと見はどう見てもネコだ。
住んでいる村は妖精郷と呼ばれている場所で、人間の世界とは隔絶されている。つまり、珍しい生き物を狙う密猟者なんていないし、そもそもケット・シーは魔法が使えるのでなんの心配もない。
ワーキングプアで、趣味がインターネットとゲームしかなかった前世に比べると、この生活はラッキーにも程があるので、私は感謝の気持ちをこめて毎日里の泉にお祈りをしている。
村の中心部にある泉の前に立ち、前足を擦り合わせて祈る。ケット・シーは無宗教だ。そのため、私は里のみんなから若干変なやつだと思われている。でも基本の性格が全員猫なので気にされていないけど。
ナムナム……私は恨んでおりませんので、私をはねたトラックの人、どうかお元気で……願わくば「あれっ? 今人を轢いたはずじゃ?」みたいな急に消えちゃったタイプの異世界転生でお願いしたい。
「よし、祈るの終わったからもう一回昼寝するか」
もう一度あくびをして、両親のいるハンモックまで戻る。この常春の里は水も食料も豊富で、花は咲き乱れる楽園なのだ。つまりは誰も働いていない。
緑色のハンモックの上から、ハチワレ顔のお母さんが顔をのぞかせた。
「ミヤコ、今日もお祈りかい」
「うん」
この世界に転生してかれこれ数年は経ち、私はケット・シーとしては大人なのだが、それとこれとはあんまり関係ないのだ。だって猫だもの。
「最近、泉に干渉している魔術師がいるらしい。お前も引きずり込まれないように気をつけるんだよ」
「わかってる」
ハンモックに飛び乗り、尻尾をぐるりと体にそわせる。
人間界から来るには、魔の森の泉とこちらの泉を魔力で繋がなくてはいけない。そのためには王宮にある神器の鏡が必要で。まあ、宮廷魔術師のクラウスあたりが研究していてもおかしくない……って、なんでそんなこと知ってるんだっけ?
そうそう、ケット・シーの里には伝説の杖があって……。あ、だめだ眠い。
「はっ!」
次に目が覚めると、すっかり夕暮れになっていた。ハンモックを飛び降りて藁の家に戻る。妙に頭がスッキリしている。
「……見覚えがある」
藁を三角に束ねた小屋。里の真ん中にある大きな木。何故か若干和風の名前のケット・シーたち。
私の前世は日本人で。それは覚えていて。
でも忘れていたこともある。私はこの風景に見覚えがあった。
ここは私がプレイしていたRPGゲームの隠れ里だ。ゲーム後半に行ける、ストーリー上は行っても行かなくてもクリアできる所。
「マジかよ……」
私はゲームの世界に転生してしまったらしい。でもまあいいか。別に里が燃えるとか、そういう設定があるわけじゃないし。
あくびをして、芝生の上にごろりと寝転がる。私は本当に幸せものだ。
ケット・シーに生まれ変われて本当によかったと思う。
私の前世は日本人だった。名前は美也子。今の名前もミヤコ。死因は夜中コンビニに行こうとしてトラックにはねられた。打ちどころが悪かったらしい。まあそれは今更構わない。
とにかく今世はケット・シーと呼ばれる猫型の妖精に生まれ変わったのだった。全身黒で毛が短くて、前足だけが白い。ぱっと見はどう見てもネコだ。
住んでいる村は妖精郷と呼ばれている場所で、人間の世界とは隔絶されている。つまり、珍しい生き物を狙う密猟者なんていないし、そもそもケット・シーは魔法が使えるのでなんの心配もない。
ワーキングプアで、趣味がインターネットとゲームしかなかった前世に比べると、この生活はラッキーにも程があるので、私は感謝の気持ちをこめて毎日里の泉にお祈りをしている。
村の中心部にある泉の前に立ち、前足を擦り合わせて祈る。ケット・シーは無宗教だ。そのため、私は里のみんなから若干変なやつだと思われている。でも基本の性格が全員猫なので気にされていないけど。
ナムナム……私は恨んでおりませんので、私をはねたトラックの人、どうかお元気で……願わくば「あれっ? 今人を轢いたはずじゃ?」みたいな急に消えちゃったタイプの異世界転生でお願いしたい。
「よし、祈るの終わったからもう一回昼寝するか」
もう一度あくびをして、両親のいるハンモックまで戻る。この常春の里は水も食料も豊富で、花は咲き乱れる楽園なのだ。つまりは誰も働いていない。
緑色のハンモックの上から、ハチワレ顔のお母さんが顔をのぞかせた。
「ミヤコ、今日もお祈りかい」
「うん」
この世界に転生してかれこれ数年は経ち、私はケット・シーとしては大人なのだが、それとこれとはあんまり関係ないのだ。だって猫だもの。
「最近、泉に干渉している魔術師がいるらしい。お前も引きずり込まれないように気をつけるんだよ」
「わかってる」
ハンモックに飛び乗り、尻尾をぐるりと体にそわせる。
人間界から来るには、魔の森の泉とこちらの泉を魔力で繋がなくてはいけない。そのためには王宮にある神器の鏡が必要で。まあ、宮廷魔術師のクラウスあたりが研究していてもおかしくない……って、なんでそんなこと知ってるんだっけ?
そうそう、ケット・シーの里には伝説の杖があって……。あ、だめだ眠い。
「はっ!」
次に目が覚めると、すっかり夕暮れになっていた。ハンモックを飛び降りて藁の家に戻る。妙に頭がスッキリしている。
「……見覚えがある」
藁を三角に束ねた小屋。里の真ん中にある大きな木。何故か若干和風の名前のケット・シーたち。
私の前世は日本人で。それは覚えていて。
でも忘れていたこともある。私はこの風景に見覚えがあった。
ここは私がプレイしていたRPGゲームの隠れ里だ。ゲーム後半に行ける、ストーリー上は行っても行かなくてもクリアできる所。
「マジかよ……」
私はゲームの世界に転生してしまったらしい。でもまあいいか。別に里が燃えるとか、そういう設定があるわけじゃないし。
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