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第1章

第150話《大親友のシマちゃんでもほっぺにちゅーはNGだった巧斗さん》

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「なるほどねぇ、大手事務所の社長にもプライドがあるし、ただコネだけでひなちゃんを事務所に入れるわけにはいかないってことか~。まあ、たかだか大学のオメコンで優勝するだけでいいなんて、充分緩いけどね。」

シマちゃんは感心したように言って、再びオムライスにスプーンを差し込んだ。
俺もその意見に納得しつつ、ふと疑問が浮かんだ。


「でも、それなら、もしひなちゃんが優勝できなかったらその時はどうするつもりなんだろう?シマちゃんが優勝して、ひなちゃんが2位だったらシマちゃんだけが事務所入りって事になるよね?」

俺が問いかけると、シマちゃんはスプーンを口に運ぶ動きを止め、ニヤリと笑って俺を見つめた。この表情は明らかに悪い事を企んでいる時の顔だ。

「やだなぁ、すずめちゃん、ひなちゃんが最初から自分が優勝を逃すだなんて1mmたりとも想像してるわけないでしょ♪ だからこそ、あの自信満々の顔が崩れる瞬間を思いっきり楽しめるってわけよ♡」
「……!!」


無邪気な顔でウインクしながら邪悪な事を言い出すシマちゃんに、俺は口元を抑えた。

自分が社長にお願いしてまでこぎつけた優勝賞品を結局手に入れられず、よりにもよって因縁がある相手にその座をかすめ取られたらと思うと…中々に残酷だ。
そして、シマちゃんの事なので負けて呆然とするひなに追い打ちをかけるつもりだろう。

もし俺がひなの立場だったらと考えると心底ゾッとする。



_____だが、俺からしてみれば、これ以上にスッキリする事は無い。

そこまで思い至った所で俺は思わずシマちゃんの手をがっしりと両手で掴む。


「シマちゃん…!俺、なんでも協力するから遠慮なく言ってね…!!心から応援してる!」
「す、すずめちゃん…!!ありがとう!僕、君ならこの気持ちを分かってくれるって信じてた…!だいすき!」

そうしていつもの流れでシマちゃんが俺の隣にくっついてきておふざけで俺の頬にちゅーをしようとしたところで、巧斗さんが俺をスッと抱き寄せてきた。


「全く…二人とも早く食べないとせっかくのオムライスが冷めてしまいますよ?」

巧斗さんがやれやれと言ったような口ぶりで、柔らかい笑みを浮かべならオムライスを食べるように促す。

(あ、そうだった!…って、どちらかというと巧斗さんのが全然食べてなくないか…??)

俺とシマちゃんはおしゃべりしながらでもオムライスを食べていたので半分くらい減っているが、それに対して巧斗さんはまだスプーンすら汚れていない。



「いやいやいや、オムライスと無言の格闘を繰り広げてた鷲ノ宮さんが言う?それ~?!絶っ対すずめちゃんへのほっぺにちゅーがNGだっただけだよね??な~にが《自由と意志を尊重するタイプですから》じゃーい!!」

巧斗さんの渾身のボケに、いつもは小悪魔で余裕のあるシマちゃんが、一瞬宇宙猫顔になった後、超キレッキレのツッコミ役になってしまっている。


「ふふ、冗談ですよ。さ、すずめ。ミスターコンの準備もありますし、早い所昼食を済ませましょうね。」
「あ、うん!そうだよね。」

シマちゃんとの話に夢中になりすぎてつい頭から抜けていたが、この後ミスターコンの事前準備があることを考えたらそうモタモタもしてられない。

巧斗さんの言う事も最もだと思いなおした俺は目の前のオムライスに再度手を付ける。


「ふええ、すずめちゃん~。絶対冗談じゃないよぉ。さっき明らかに僕の事を虫を見る目で見てたよこの人~!」


シマちゃんは泣きまねをしながら俺にひしと抱き着いてくる。
まるでコントみたいなやり取りだ。



「気のせいですよ?《大親友》ですずめの大切な存在である江永さんをそんな目で見る訳ないでしょう?虫だと思っていたらそもそも指一本触れさせていませんよ。」
「大親友…大切な存在…。ふふん。まぁねぇ♪分かってくれていればいいのだよ♬」


大親友というワードに一気に上機嫌になったシマちゃんがころころと喉を鳴らして笑う。

正直ここまで好意を寄せられればこちらとしてもすごく嬉しいし、俺だけじゃなく大親友のシマちゃんの為にもコンテストの準備を頑張ろうと気が引き締まる。


(巧斗さんもシマちゃんじゃなかったら俺に指一本触れさせないって、多分総一郎との事もあって色々と俺の身の回りを警戒してくれてるんだろうな…。)


出会ったばかりの筈の俺をこうして見守ってくれている巧斗さんにも、いつかちゃんと恩返ししたいところだ。
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