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第1章

第125話《総一郎の心に重い一撃を放つ俳優のタクトさん》

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「うん、巧斗さんありがと…。俺もネズミが苦手だからそう言ってくれると心強いな…。」

巧斗さんが言う「どぶねずみ」が総一郎とひなを指していることは薄々察したが、ここは気づいていないふりをする方が賢明だろう。

とはいえ、俺の悪口を言っているあの二人に対してここまで怒ってくれるのは、正直嬉しい。

(テレビで見た時は完璧な雲の上の王子様αだと思っていたけど、巧斗さんって意外と人情深くて、情熱的な人なんだよな。)




そんなことを考えている間に、総一郎とひなはスマホを見終えて再び歩き始め、なんとこちらの方面の出店エリアに向かってきた。


(!マズい!俺、呑気にも傍観者やってたけど、あいつらがこっち方面に来るのは想定して無かった…!このままじゃ、総一郎に再び顔を合わせることになりかねない。)


もしこの状況でもう一回総一郎に会おうものなら、一体どんな面倒くさい事を言われることやら…と、咄嗟に辺りを見回して隠れる所を探そうとすると、巧斗さんが突然マスクを外し、高級な肌触りの良いコートと自分がかけていた帽子をさっと俺に被せてぎゅっと抱き寄せてくれた。



「わ!巧斗さん…?」
「大丈夫。こうしていれば絶対にバレませんから。後は俺に任せてください。」



巧斗さんがウインクをしながら腕の中に俺を包むと、彼の体温がじんわりと伝わってきて、緊張していた心が少し和らいでいくのを感じた。




そして、そうこうしている間にも、総一郎とひなの声が少しずつ近づいてくる。


(げ、やっぱりあいつら、俺たちの前を通るのか…)


奴らがアスファルトを踏む音が耳に響くたび、ドキッ!と心臓が跳ねるのを感じたが、何故だか俺の耳が当たっている巧斗さんの左胸の心臓も同じ位高鳴っていて、不思議に思いながらも殊更緊張感が増す。




とうとう総一郎とひながすぐそこまで来て、会話が更に明確に近くで耳に入ってきて、俺はぎゅっと目を瞑った。

(来た…!どうかバレませんように!)




『~でね?今度僕、今日貰うオメコンの優勝トロフィを見せに、海外にいるおじいちゃまの所に会いに行くんだ♪』
『へぇ、愛野会長にか?』
『うん♪…あ、そうだ!ラスベガス旅行とはまた別日でこっちにも一緒にいこーよ♫』

『…………。ひな、そのラスベガスの件なんだが、…………?……!!』



総一郎が丁度俺の目の前に来た時、会話と同時に足音がピタッと止まる。


「?総君?どうしたの?」
「いや…この男…鷲ノ宮とどこか似てるな、と思ってな…。」

「鷲ノ宮?誰それ?友達?」
「友達な訳あるか!あいつは俺のすずm…いや、私物を盗んだ泥棒なんだ!」



そう言いながら総一郎がギッ!とこちらを睨みつけると、その瞬間___。

おおよそあの巧斗さんから出たとは思えない柄の悪い声が、マスクを外した彼の形の良い口から発せられた。



「あ?誰だよアンタ?人の事じろじろと見てきやがって感じわりぃな。」



「!!……なんだ、人違いか…。」
「や、やだ、ちょっと総君、この人こわい…。絶対ヤンキーだよ…。」


(え!?今の巧斗さん?!)
 
あまりの別人っぷりに、思わずコートの中でこそっと巧斗さんを見上げてみると、色素の薄い髪にサングラスにメンチを切っている口元が確かに悪っぽくも見えて、さっき《任せて》って言っていたのはこういう事だったのか、と感心する。


(成程…ちょっとの変装と、表情だけでさっき会ったばかりの総一郎にも完全に別人だと思わせるなんて、流石は一流俳優…すごい演技力だ。)


 



「ふん、別にお前みたいな世間に置いて行かれたようなクズに興味は無い。とっとと失せろ。」


巧斗さんの演技にすっかり騙された総一郎が、そう捨て台詞を残してこの場を退散しようとすると、巧斗さんもまた同様に総一郎に捨て台詞を吐く。



「ほっとけや。オレは好きな奴にさえ置いていかれなきゃ、世間なんかどうでもいいんだよ。」

「!!!」



ボトッ


何気ない巧斗さんの言葉のどこが総一郎を動揺させたのか、総一郎が肩にかけていたバッグを地べたに落とす。


「…………っ。」


それから数拍俯いて地面を見つめた総一郎は、すぐに被りを振って、


「いや、俺はまだ違う…。さっきだって、ひなに《俺の彼氏だ》って送っていたのを見たじゃないか…。」


等とブツブツと呟き始めた。
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