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第1章

第99話《鷲ノ宮さんと夜のドライブ》

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いや…でもまぁ、これもスマホや他の日用品と同じく同居する間だけの借り物だと思えばいいか。


「巧斗さん、ありがとう…!それじゃあ、帰ったら早速つけさせてもらうね?」
「はい。ふふ、今からとても楽しみです。…つい俺の好みで買ってしまいましたが、出来れば気に入らなくても返してこないでくださいね?悲しいので…。」
「!」


額が額だけに、自分の中で「これはレンタル品」だという事にして心を落ち着けようとしたその時、巧斗さんがまるで俺の心の声を読んでいたかのように、悪戯っぽく、かつ捨てられた子犬のような声で返品不可だと釘を刺してきた。

(うっ…そんな声でそう言われたらもう貰う以外の選択肢が無いじゃないか…。この人って、たまに鋭いんだか、天然なんだかまだ分かりづらい所があるよな…?)


しかしまぁ、なんだかんだ言いつつも、家族以外にこういう箱に入った贈り物をされるという事自体あまり経験が無いので、実を言うと嬉しい気持ちはとても大きい。

…一応一昨日の夜、総一郎にオメガローズの廉価版チョーカーを貰ったが、あれはひなの高級版チョーカーと比較して、格付けをするためのものだったのでノーカンだ。


(値段の事(と総一郎のアレ)は一旦置いておくとして……人にチョーカーを贈られるってこんなにも嬉しいものなんだな。…絶対大事にしよう。)

これには傷一つすらつけたくないので、またあの変態おじさんαに襲われないように俺も用心しないとな。





「…ああ、そうだ。出来ればそのチョーカー、俺がすずめに着けたいのですが、許してもらえますか?」
「え?勿論いいよ!(機械とか疎いから)むしろ、巧斗さんが着けてくれるのすごく嬉しいっ。」


俺が家族以外に(ほぼ)初めて貰った贈り物に心の中で密やかに喜んでいると、巧斗さんが機械音痴の俺にとても助かる提案をしてくれたので、思わず紙袋をぎゅっと抱き締めながら満面の笑みを向ける。

すると、彼はまた口元に手を当て、俺とは反対側の方を向いてしまった。

「~っ…本当にこの子は…。丁度今が赤信号で良かったですよ。」
「??」

(良く分からないけど、巧斗さんのこういった仕草は少し照れくさい時とかの癖なんだろうか?)

まぁ俺も恥ずかしい思いをした時は両手で顔を隠すので気持ちは分かるけど。


◇◇◇


それから赤信号が青に変わり、再度発進した車はそのまま高層ビル街を駆け抜け……る事もなく都心の一番高いタワーマンション付近にて一旦停車した。

普段、中々ここまでの大都会には来ないため、雲を突き抜ける勢いの高さのマンションを始めてゆっくり間近で見て感嘆の声をあげる。


「うわ~すごい高さのマンションだ!最上階なんて雲で隠れて見えないよ。こういう所ってやっぱり芸能人とか大企業の社長さんとかが住んでたりするのかな~!」

「!…すずめはテレビは見る方なんですか?」


眠気もすっかりふっとんではしゃいだようにキョロキョロと外の景色を見上げる俺を微笑まし気に見ていた巧斗さんが、途中で何故か急に緊張した声を出した。


「?テレビ?ここ最近は見てないけど…でも実家にいた頃は結構見てたよ。アイドル系の番組とかドラマとか。妹がOrion《α》って言うアイドルグループが好きらしくて、特にそのグループが出てる番組は全部…」


「…!!!!君は、その中のどのメンバーが好みでしたか??」
「え!?好み…?」

(巧斗さん、急にどうしたんだろう?…あ!もしかしてあの中に推しがいるのか?それならつばめと話が合いそうだな。)

巧斗さんらしくない動揺の仕方と突然の質問攻めに、頭の中にハテナが浮かぶも、真剣に考えてみる。


__Orion《α》は今日文化祭りにも来ていた超一流俳優の鷲田タクトが加入していたトップアイドルグループだ。妹情報によると、今は解散して俳優や歌手、タレントなど、それぞれ別の道を進んでいるらしい。

(好み…うーん…。妹に話を合わせていただけで彼らの事はよく知らないんだけど、誰が好みだったかっていったら、やっぱり鷲田タクトさんって事になるのかな?)


何故か彼がテレビに映ると息が上がるほど、見つめてしまうという不思議な現象を思い出しながら返事をする。


「えっと、俺は鷲田タクトって人が一番好きだな。彼がテレビに出ると何故かいつもドキドキして…ってこんな事言われても困るよね…?」


あはは…と苦笑いしながら彼の方を見てみると、巧斗さんは何故か今までの紳士なキャラに似合わない位見事なガッツポーズを決めていた。
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