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第1章

第67話《シマちゃんとひなのランウェイ》

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司会がなんとも力の抜けたような適当な進行をすると、後方扉がゆっくりと開き、シマちゃんがランウェイを歩いてくる。

(もう、司会の態度の悪さはこの際置いておくとして、シマちゃん、とても綺麗だな。色素の薄い銀色の髪に純白の王道のドレスが見事だ。)

会場からも歓声と拍手が巻き起こり、その歓声を聞いて、ランウェイを歩いているシマちゃんが嬉しそうに微笑み、小さく手を振っている。

「シマちゃんすごいな…。純白な衣装がとても良く似合ってる…!まるで妖精みたいだ。」
「うんうん!ゲームとかに出てくるエルフみたいだよね!」

思わず口から零れ出た俺と妹の感想はほぼ同じだったようで、二人してうんうんと頷きながらシマちゃんの晴れ姿を見守る。


『シマ様~!とっても輝いてますよぉー!』
『シマちゃんこそが、《〇×大学の白百合》だー!もう自称なんて言わせないぞ!』
『そうだそうだ!』

『シマたそ~メイド姿もさることながら花嫁姿も萌え萌えきゅんでござるな~!!』
『後で《にゃんにゃんお絵描きおむらいちゅ》頼みに行くからね!』

観客の声も暖かく、それでいて熱量もある。
中には、メイド喫茶のお客さんでシマちゃんのファンっぽい男性客の声も混じっていて、それがまた盛り上げ要員となって良い雰囲気づくりが出来ている。

(よし…!かなりいい感じだ。これは、結構な高得点が狙えるのでは?)

シマちゃんがランウェイを歩ききり、ステージに登壇しきったのを合図に次の出場者が入場して、司会も咳払いをして次々に入場に合わせてアナウンスをしていく。


シマちゃんを筆頭に6人の入場が終わると、エントリーナンバー7番のひなの出番が回ってきた。


(来たな…。さて、観客がどう反応するか…。)

俺はコンテスト前にひなに白無垢のまま出場するように誘導したが、果たしてそれが吉と出るか凶とでるか。
俺と同じ衣装を着る事で、自分の方が美人だとマウントを取ろうとする性格の悪さを、今出回っている悪評の噂に便乗させる作戦だったのだが、あまりの美貌に逆にファンが増えすぎる可能性だってある。



『さぁ!それでは、最後にトリを飾りますのは、エントリーナンバー7番の愛野ひな様です!皆様盛大な拍手にてお迎えください!!』

司会が声高々にそう叫ぶと、ゆっくりとぎぎぎと音を立てて後方扉が開く。

(どうか、吉であれ…!)

俺は祈りながら後方扉から入場してくるであろうひなを見つめる。


堂々とした面持ちでゆっくりとランウェイを歩いてくるひなの白無垢姿は、とても妖艶かつ華やかで、その姿はまるで花魁のようだ。

(うわ。予想はしてたけどこうして改めて遠目で見るとやばいな……これは。)

敵ながらに、かなりクオリティが高い。
人生で中々お目にかかれないレベルの美しさで、さっきまで賑やかだった会場が一瞬綺麗に静まり返った。

人というのは、オーケストラしかり、本当に感動した時は静かになるというが、まさしく同じ現象が今起きているとでもいうのだろうか。


ひなの方も中々の手ごたえを感じているようで、ゆったりとしなを作り、流し目をしながらランウェイを花魁道中のように練りあるく。

静まり返った観客達の沈黙を破ったのは、誰かのちょっと困惑したようなつぶやき声だった。




『……え。なんか、違くね?』


『だよな…!めっちゃ綺麗だし、似合ってるっちゃ、似合ってるけど…なぁ?』
『なんでだろう…。びびるくらい美人なんだけど、う~ん…』
『花嫁に見えるかって言われるとなぁ。』
『圧倒的に透明感が足りない…』

一人の声に皆が一斉に便乗しだす。
周囲の人の声しか聞こえないが小さく声を潜めたようなざわざわとした声が会場中にひしめきあっているのが分かる。

(ん?どういう事だ…?女性客からのヘイトを買うどころか、何故だか男性客からの反応も微妙だ。)

何かドジをやらかしたのかとひなを凝視してみるも、ただただ綺麗なだけで何もおかしい所はない。
俺の予想しえなかった反応に戸惑いはあるが、どうやらこちら側に有利な状況っぽいのでそのまま放っておこう。


『そもそもウェディングドレスじゃないじゃんあれ。テーマ間違えてない?』
『まぁ、それはミスターコンの方でも神前式の衣装も認められてたし、花嫁であればいいんじゃね?』
『でもあれ、花嫁か?』

『すずめたんは何もかもが透き通ってて可愛いすぎる花嫁だったのになぁ…。』
『お前…流石にあれと比べるなよ。正直レベチだったけどこっちはこっちで味があるだろ。』
『でもやっぱり比べちゃうよね。ってかそれで思い出したけど、あれあの子と全く同じ衣装じゃない?』
『え、マジで!?気づかなかった…』
『なんだよ?パクりか?』


(お、やっと衣装が俺と同じだという事に気づいた人がいたみたいだ。それだよそれ!)

これを期にひなのマウント癖にヘイトが向かえばこっちのものだ。
そして明日の最終審査までに噂が広まってくれれば尚嬉しい。

観客の困惑と疑問の声はひそひそ声なので、まだひなの耳には入っておらず、皆が自分に見惚れていると思ったのか満足気な顔をして色っぽい仕草でランウェイを歩き続ける。


『うおおぉぉお!!!』
『俺たちのひなっちが最高すぎる~~~~!!!!』
『なんて…なんて美しいんだぁぁぁぁ!!』

会場がひそひそ声でざわざわとする中、テニスサークルの大きな歓声がやけに悪目立ちしているのだった。
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