甘美な百合には裏がある

ありきた

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108話 出来レース

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 今日は数日ぶりに制服を着て、部室の掃除をするために学校へと赴いた。
 とはいえ、夏休み前に気合を入れて掃除したので、今回は換気を除けば蜘蛛の巣のチェックぐらい。
 ゴキブリがいたらどうしようと内心ビクビクしていたけど、幸いにも心配は杞憂で終わる。
 滞在時間は一時間にも満たず、コンビニに寄って軽く買い物をして帰路に着く。

「帰ったらポッキーゲームしようよ~」

「なるほど、そのために三箱も買ったんですね」

「いいわよ、面白そうじゃない」

「う、うん、やりたい」

「どうせなら、罰ゲームを設けるのはどうかしら❤」

「いいね~っ、それ採用!」

「罰ゲームですか……今日こそ私が一方的に勝たせてもらいますから、いまのうちに覚悟しておいてください」

 なんて息巻いていたのも束の間、帰宅して手洗いうがいを済ませてすぐにゲームが始まり、ルールを確認して冷や汗が流れる。
 両端からポッキーを食べて、先に口を離した方が負け。シンプルゆえに勝敗が分かりやすいけど、衝撃の事実に気付いてしまった。
 私は誰と当たってもキスするつもりで食べ進めるから、まず負けることはないとして。
 もし誰かが私とのキスを拒んで口を離せば、勝負には勝てても精神的に大敗を喫した気分になってしまう。
 お互いに最後まで口を離さない場合は、引き分けだから私の勝ちにはならない。
 つまり、私にとって一方的な勝ちという結果は存在しない。

「悠理~、準備はいい?」

「はい、大丈夫です」

 テーブルを奥にずらして、カーペットに直接座る。
まずは発起人である葵先輩と私の対戦だ。
 近寄ってポッキーの両端を咥え、合図と共に食べ始める。
 私は口の動きを止めず、葵先輩も躊躇なく食べ進めていく。
 すると当然、数秒としないうちに二人の唇が重なった。
 キスの気持ちよさにうっとりすると同時に、ホッと安堵する。
 私の勝利は事実上の敗北なので、引き分けこそが最上の結果だ。

「あはは、引き分けだね!」

 葵先輩が口の中のポッキーを飲み込み、唇をペロッと舐めて朗らかに笑う。

「罰ゲームは次に持ち越しですね」

「甘いよ悠理~、引き分けなら二人とも受けるに決まってるじゃん」

「えっ、そうなんですか? というか、罰ゲームの内容って……?」

「心配しなくても、一枚脱ぐだけだよ~」

 と言いもって、葵先輩がブラウスのボタンを外し始めた。
 なるほどと納得し、私も同じように脱ぐ。
 残るはスカートと靴下、ブラとショーツの計四枚。靴下を左右別々でカウントするなら計五枚となる。

「次はわたしがやらせてもらうわ❤ よろしくね、悠理❤」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 いつの間にか葵先輩と姫歌先輩が入れ替わり、私が交代のため立ち上がろうとしたところで勝負を挑まれた。
 連戦になるけど断る理由もないので、座り直してポッキーを咥える。
 そして、またしても結果は引き分け。
 お菓子よりも甘いキスに満足しつつ、スカートを脱ぐ。
 いまさらだけど、最初は靴下でもよかった気がする。

「つ、次は、アリス。ゆ、悠理、負けないよ」

「えっ、いや、さすがに誰かと交代――」

「そ、そんな……あ、アリスとは、してくれないの?」

「やりましょう」

 結果は言わずもがな。
 次いで真里亜先輩とも連戦することになり、当然のごとく引き分けに終わった。
 脱いだ左右の靴下は、アリス先輩が嬉しそうに握りしめている。
 いまのところ四戦を終えて、私は上下の下着以外すべてを失い、先輩たちはブラウスだけを脱いだ状態だ。
 この後も私がひたすら連戦することは、もはや疑うべくもない。

「悠理、分かってるよね~?」

「うふふ❤ かわいそうだけど、容赦はしないわよぉ❤」

「ぱ、パンツも、貰う」

「恥ずかしさに耐えられなくなったら、いつでもあたしをボコりなさい」

 このゲームが始まった時点で、私に完全な勝利はなく、誰かと交代して罰ゲームを先延ばしにするという逃げ道すらも残されていなかった。
 だけど、ただで終わるつもりはない。

「ふふっ、望むところですよ。先輩たち、途中で投げ出さないでくださいね」

 私は怖気付くことなく、毅然とした態度を示した。

***

 続く二戦で私は全裸になったけど、羞恥に耐えつつ連戦を重ね、先輩たちにも同じ目に遭ってもらう。
 四人の神秘的なまでに美しい裸体をまじまじと眺めながら、私は本当の勝利というものを噛み締めるのだった。
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