甘美な百合には裏がある

ありきた

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103話 冷やし中華始めました

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 蒸し暑い夏の昼下がり。テーブルを囲む私たちの手元にあるのは、真里亜先輩特製の冷やし中華。
 お皿の中央に盛られた麺の周りを囲うように細切りキュウリ、錦糸卵、紅ショウガ、長芋の千切りが並び、脇にはトマトとブロッコリーが添えられている。

「ん~っ、おいしい! この冷やし中華だけでもお店が開けるよ!」

「あ、アリスも、そう思う。すごく、おいしい」

「ありがと。なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「このタレって真里亜の手作りなのよねぇ❤ サッパリしていて食べやすいわ❤」

「もちろん手作りよ。今日は朝から暑くて食欲が落ちてると思ったから、お酢を少し多めに入れてみたの」

「彩りも豊かだし、盛り付けもきれいですよね。さすがです」

「ふふっ、光栄だわ。その気になったら、いつでもあたしを殴りなさいよね」

「嫌ですよ!」

 私にだけ明らかに毛色の違う返答に、思わず声を荒げてしまう。
 真里亜先輩がドМなのは重々承知しているけど、未だに自分から暴力を振るう気にはなれない。

「じゃあ、土下座するから、頭を踏み付け――」

「それも嫌です」

 言い終わる前に、ピシャリと切り捨てる。
 とはいえ、常々思っているように、真里亜先輩の欲求を満たせる手段を少しでも増やしたい。
 現状だと、お尻叩きと全力の抱擁が挙げられる。
 真里亜先輩を傷付けず、それでいて満足してもらえるような方法は……。

「あらあら❤ 悠理、食事中に考え事はダメよ❤」

「あっ、ごめんなさいっ」

 行儀の悪いことをしてしまった。反省しよう。



 食後。みんなで後片付けを行い、再びテーブルに着く。

「そう言えば、真里亜って料理中は洗濯ばさみで乳首を挟んでるんだよね? 痛くないの?」

「甘いわね、痛いからいいんじゃない。でも、それはけっこう前の話よ。いまはもう、悠理が与えてくれる痛みじゃないと満足できないのよね」

 葵先輩の問いに対する真里亜先輩の答えを聞いて、ホッと安堵する。
 色も形もきれいなままとはいえ、洗濯ばさみで挟むのは決して体にいいことではない。
 恋人がケガをする要因が一つ消えたのは、素直に嬉しい。

「い、いまは、どうやって、も、モチベーション、上げてるの?」

 テーブルの下で私の下着を嗅ぎつつ、アリス先輩が訊ねた。

「基本的には、悠理にボコボコにされる妄想で気分を高めてるわね。今日は作り始める前に悠理がキッチンに来たから、お願いしてお尻を叩いてもらったわ」

「あらあら❤ そうだったのね❤」

 先輩たちのやり取りを聞いて、一時間ほど前の出来事を思い出す。
 キッチンの前を通りがかったらエプロン姿の真里亜先輩に心を奪われ、思わず凝視していたら声をかけら――あっ、そうだ!

「真里亜先輩、お尻を見せてください!」

「んぇ!? な、なによ急にっ」

 あの時私は、前回より強めに叩いてほしいという要望に従った。
 もちろん加減はしたものの、真里亜先輩の大切な体に痣でも残っていたら大変だ。
 本人は恍惚とした表情で満足気にお礼を言ってくれたけど、患部を直接確認しておかないと気が済まない。

「急いでください!」

「わ、分かったわ」

 真里亜先輩は慌てて席を立ち、ショートパンツを脱ぐ。
 続けて純白の下着に手がかかり、一瞬の躊躇を挟んでから勢いよく下ろされた。
 桃のようなプリッとしたお尻が姿を現し、私は近くに寄ってまじまじと見つめる。

「も、もういいかしら?」

「もう少し待ってください」

 透き通るような珠肌。実際に触れなくても、すべすべもちもちの感触であることが伝わってくる。
 肌荒れとは無縁だと訴えかけてくるような、芸術的なまでの瑞々しさ。

「ありがとうございます、もういいですよ。痣になってなくてよかったです」

「なるほど、そういうことだったのね。心配してくれてありがと」

「うふふ❤ 前に真里亜が言ってた通り、悠理にはドSの才能がありそうね❤」

「ドSな悠理もいいよね! 恥ずかしいことを命令されてみたいな~」

「あ、アリスは、ぬ、脱ぎたての靴下を、口に詰め込んでほしい」

 不可抗力とはいえ先輩に脱衣を強要してしまったため、久しぶりにドSの才能とやらを見出されてしまう。
 そこでふと、私が下した命令に頬を赤らめながら従う先輩たちの姿を想像する。
 ……先輩たちには内緒だけど、ゾクゾクッとした感覚が背筋を走った。
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