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100話 ホラー要素皆無の百物語
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和室で座布団を円状に並べ、私から右に姫歌先輩、葵先輩、アリス先輩、真里亜先輩という順に座る。
いまから行われるのは、まったく怖くない百物語だ。
怪談を百話語り終えて物の怪が出てきたら怖いので、創作部らしくアレンジを加えることになった。
「みんな、ルールは把握できているかしら❤」
「うんっ、大丈夫だよ~! 怖い話じゃなくてエッチな話をするんだよね!」
「さ、最初は、座ってる順番に進めて、い、一巡したら、挙手制になる」
「実体験だけじゃなく妄想も可だから、百話ぐらいなら余裕でこなせそうね」
ルール内容は先輩たちが言った通り。
思い付きによる遊びだから、それほど厳格な取り決めはない。
不安があるとすれば、百話目を終えるまで羞恥心に耐えられるかどうか。
ホラー要素はないけど、それに勝るとも劣らない緊張感がある。
さて、まずは順番決めだ。
毎晩寝る場所を決めるときに使っているサイコロを取り出し、順番に振っていく。
出た目が一番大きい人がトップバッターで、時計回りに続けていき、一巡したら順不同で進める。
「あ、私からですね」
姫歌先輩が2、葵先輩が1、アリス先輩が2、真里亜先輩が3と、軒並み小さな目ばかりが出る中、最後に振った私が出したのは6だった。
「うふふ❤ 悠理のエッチな話、期待しているわよ❤」
「ほどほどに頑張ります」
とは言ったものの、なにを話そ――あ、そうだ。
話題は決まった。まだ記憶に新しい、黒歴史と呼ぶに値する出来事。
「これは先輩たちも知っていることなんですけど、実は私、尋常じゃなく恥ずかしい体験をしたんです」
雰囲気作りのため、一拍置く。
先輩たちの視線を一身に受けつつ、すぅっと息を吸い込んで続きを話す。
「その日は私が最初に目を覚まして、こっそり先輩たちの寝顔を堪能していました。かわいいなぁ、かわいいなぁって、ドキドキさせられた矢先に……姫歌先輩が、エッチな吐息を漏らしたんです」
ここで再び深呼吸。
羞恥心に苛まれる覚悟を決め、口を開く。
「興奮を抑えられなくなった私は、みんなが寝ている部屋の中で、自慰行為を始めてしまったんです。我ながら正気の沙汰とは思えません。その結果、うっかり声が漏れてみんなを起こしてしまい、経緯を説明するという恥辱を味わうことになりました。以上で、この話は終わりです」
うわぁぁああああっ、やっぱり別の話にすればよかった!
当時の恥ずかしさがよみがえる!
恥の上塗りって、こういうことを言うのかな。
表面上は平静を装っているけど、顔が燃えるように熱い。まず間違いなく、耳まで真っ赤になってる。
「さすが悠理❤ トップバッターにふさわしい話だったわぁ❤」
「うぅ、ありがとうございます」
喜んでいいのか分からないけど、褒められて嬉しいと感じてしまう。
「時計回りだから、次は姫歌だね! いまの話の後だと、かなりハードル高いよ~」
「あらあら❤ とっておきを出す必要がありそうね❤ 悠理が実体験だったから、わたしは妄想で続かせてもらうわ❤」
姫歌先輩は頬にそっと手を添え、ニコニコと微笑みながら話し始める。
「ある日、トイレで――」
そこからの内容は、あらゆる意味でヤバかった。
断片を思い出しただけでもすさまじい興奮を誘う、エッチすぎるにもほどがある猥談。
仮にこの卑猥さを恐ろしさに変換した怪談があるとするなら、恐怖のあまり精神が壊れても不思議じゃない。
素直な感想としては、控えめに言って最高だった。
「姫歌~っ、いくらなんでもハードル上げすぎだよ! 棒高跳びのバーより高く設定されてるじゃん!」
と、何気に上手いことを言った葵先輩。
しばらく悩んだ末に選んだのは、イラストに関係する実体験とのこと。
「中二の頃にね、イラストの参考にしようと思って、部屋の中で裸になって姿見の前でいろんなポーズを取ってたんだ~。それで、M字開脚してアソコがどうなってるのか見てたときに……洗濯物を取りに来たお母さんが、扉を開けちゃってさ……あはは」
いつも陽気でハイテンションな葵先輩が、珍しく乾いた笑いを漏らす。
「確か、その日からだったかな~。あーしは別にノックとか気にしないんだけど、お母さんがめちゃくちゃ気にするようになったんだよね。ってことで、あーしの番は終わり!」
葵先輩が両手をパンッと叩いて話を締めくくり、手番がアリス先輩に移る。
「あ、アリスは、えっと……き、昨日、お風呂に入るとき、ゆ、悠理の後、だったから、せ、洗濯機の中にある下着を、こっそり借りて、か、嗅いだり、舐めたり、したの。す、すごく、興奮した。お、終わり」
サラッととんでもないことを暴露されてしまった。
汚いからやめた方がいいと思う反面、アリス先輩に興奮してもらえて嬉しくもある。
「次はあたしね。せっかくの機会だから、悠理に断られそうなプレイの妄想を語らせてもらうわ」
内容によっては、もしかしたら断らずに済むかもしれない。真里亜先輩が望んでくれるなら、少しだけでも応えたい。
そう考えていたのも束の間。
嬉々として語られた妄想は、思わず青ざめてしまうほどに残酷で、参考にすることすら不可能な内容だった。
これでようやく一巡、五話目が終わったに過ぎない。
私たちの百物語は、まだまだ序盤だ。
***
数時間後。永遠に続くかのように思えた百物語も、いよいよ最後の一話が語られた。
怪談じゃなくて猥談だから、百話目を終えても物の怪は出ない。
とはいえ、奇しくも――いや、必然と言うべきだろうか。
その日の夜、私たちは全員そろってエッチな夢を見た。
いまから行われるのは、まったく怖くない百物語だ。
怪談を百話語り終えて物の怪が出てきたら怖いので、創作部らしくアレンジを加えることになった。
「みんな、ルールは把握できているかしら❤」
「うんっ、大丈夫だよ~! 怖い話じゃなくてエッチな話をするんだよね!」
「さ、最初は、座ってる順番に進めて、い、一巡したら、挙手制になる」
「実体験だけじゃなく妄想も可だから、百話ぐらいなら余裕でこなせそうね」
ルール内容は先輩たちが言った通り。
思い付きによる遊びだから、それほど厳格な取り決めはない。
不安があるとすれば、百話目を終えるまで羞恥心に耐えられるかどうか。
ホラー要素はないけど、それに勝るとも劣らない緊張感がある。
さて、まずは順番決めだ。
毎晩寝る場所を決めるときに使っているサイコロを取り出し、順番に振っていく。
出た目が一番大きい人がトップバッターで、時計回りに続けていき、一巡したら順不同で進める。
「あ、私からですね」
姫歌先輩が2、葵先輩が1、アリス先輩が2、真里亜先輩が3と、軒並み小さな目ばかりが出る中、最後に振った私が出したのは6だった。
「うふふ❤ 悠理のエッチな話、期待しているわよ❤」
「ほどほどに頑張ります」
とは言ったものの、なにを話そ――あ、そうだ。
話題は決まった。まだ記憶に新しい、黒歴史と呼ぶに値する出来事。
「これは先輩たちも知っていることなんですけど、実は私、尋常じゃなく恥ずかしい体験をしたんです」
雰囲気作りのため、一拍置く。
先輩たちの視線を一身に受けつつ、すぅっと息を吸い込んで続きを話す。
「その日は私が最初に目を覚まして、こっそり先輩たちの寝顔を堪能していました。かわいいなぁ、かわいいなぁって、ドキドキさせられた矢先に……姫歌先輩が、エッチな吐息を漏らしたんです」
ここで再び深呼吸。
羞恥心に苛まれる覚悟を決め、口を開く。
「興奮を抑えられなくなった私は、みんなが寝ている部屋の中で、自慰行為を始めてしまったんです。我ながら正気の沙汰とは思えません。その結果、うっかり声が漏れてみんなを起こしてしまい、経緯を説明するという恥辱を味わうことになりました。以上で、この話は終わりです」
うわぁぁああああっ、やっぱり別の話にすればよかった!
当時の恥ずかしさがよみがえる!
恥の上塗りって、こういうことを言うのかな。
表面上は平静を装っているけど、顔が燃えるように熱い。まず間違いなく、耳まで真っ赤になってる。
「さすが悠理❤ トップバッターにふさわしい話だったわぁ❤」
「うぅ、ありがとうございます」
喜んでいいのか分からないけど、褒められて嬉しいと感じてしまう。
「時計回りだから、次は姫歌だね! いまの話の後だと、かなりハードル高いよ~」
「あらあら❤ とっておきを出す必要がありそうね❤ 悠理が実体験だったから、わたしは妄想で続かせてもらうわ❤」
姫歌先輩は頬にそっと手を添え、ニコニコと微笑みながら話し始める。
「ある日、トイレで――」
そこからの内容は、あらゆる意味でヤバかった。
断片を思い出しただけでもすさまじい興奮を誘う、エッチすぎるにもほどがある猥談。
仮にこの卑猥さを恐ろしさに変換した怪談があるとするなら、恐怖のあまり精神が壊れても不思議じゃない。
素直な感想としては、控えめに言って最高だった。
「姫歌~っ、いくらなんでもハードル上げすぎだよ! 棒高跳びのバーより高く設定されてるじゃん!」
と、何気に上手いことを言った葵先輩。
しばらく悩んだ末に選んだのは、イラストに関係する実体験とのこと。
「中二の頃にね、イラストの参考にしようと思って、部屋の中で裸になって姿見の前でいろんなポーズを取ってたんだ~。それで、M字開脚してアソコがどうなってるのか見てたときに……洗濯物を取りに来たお母さんが、扉を開けちゃってさ……あはは」
いつも陽気でハイテンションな葵先輩が、珍しく乾いた笑いを漏らす。
「確か、その日からだったかな~。あーしは別にノックとか気にしないんだけど、お母さんがめちゃくちゃ気にするようになったんだよね。ってことで、あーしの番は終わり!」
葵先輩が両手をパンッと叩いて話を締めくくり、手番がアリス先輩に移る。
「あ、アリスは、えっと……き、昨日、お風呂に入るとき、ゆ、悠理の後、だったから、せ、洗濯機の中にある下着を、こっそり借りて、か、嗅いだり、舐めたり、したの。す、すごく、興奮した。お、終わり」
サラッととんでもないことを暴露されてしまった。
汚いからやめた方がいいと思う反面、アリス先輩に興奮してもらえて嬉しくもある。
「次はあたしね。せっかくの機会だから、悠理に断られそうなプレイの妄想を語らせてもらうわ」
内容によっては、もしかしたら断らずに済むかもしれない。真里亜先輩が望んでくれるなら、少しだけでも応えたい。
そう考えていたのも束の間。
嬉々として語られた妄想は、思わず青ざめてしまうほどに残酷で、参考にすることすら不可能な内容だった。
これでようやく一巡、五話目が終わったに過ぎない。
私たちの百物語は、まだまだ序盤だ。
***
数時間後。永遠に続くかのように思えた百物語も、いよいよ最後の一話が語られた。
怪談じゃなくて猥談だから、百話目を終えても物の怪は出ない。
とはいえ、奇しくも――いや、必然と言うべきだろうか。
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