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93話 一学期の終業式
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今日は終業式。二年生は片付けがあるので、私は昇降口を出て少し開けた場所で先輩たちを待つ。
入学してから濃密すぎる日々が続いたこともあり、あっという間に月日が過ぎたように感じる。
穏やかな気持ちで終業式を迎えられたのは、間違いなく同棲のおかげだ。
もし実家暮らしのままだったら、先輩たちと会える時間が激減する絶望と悲しみから正気を失っていたかもしれない。
いまは希望と喜びが満ち溢れ、夏休みを心待ちにしている。
それと……キスも経験したことだし、夏休み中に大人の階段を昇れるかも、と密かに期待していたり。
「悠理❤ お待たせ❤」
「ひゃっ!」
背後から肩をポンと叩かれ、ビクッと震え上がる。
ちょうどエッチなことを考えていたところだったので、動揺が数割増しで強い。
「あははっ、驚きすぎだよ~」
「考え事でもしてたのかしら?」
姫歌先輩に続いて、葵先輩と真里亜先輩も昇降口から出てくる。
ただ、アリス先輩が見当たらない。
「あれ? アリス先輩は?」
「……こ、ここに、い、いるよ。うぷっ」
いつになく弱々しい声を頼りに姿を探すと、真里亜先輩の足元でうずくまっていた。
顔面蒼白で口元を抑え、いつ嘔吐してもおかしくないような様子だ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫じゃ、ないかも……あ、アリス、人混みは、ほ、本当に、無理……」
私も人混みはそれほど得意じゃないけど、アリス先輩はそれが相当重度であるらしい。
どれほどつらいか一目瞭然とはいえ、病気の類じゃなくてよかったと安堵する。
「とりあえず、一刻も早くここを離れた方がよさそうねぇ❤」
「アリス先輩、歩けますか? 私でよければ、家までおんぶしますよ」
「し、してほしいっ」
表情は相変わらず暗いけど、私の申し出に答える声は幾分か明るかった。
「それじゃ、カバンはあーしが持つよ~」
「あっ、ありがとうございます」
さりげなくカバンを持ってくれた葵先輩に、慌ててお礼を言う。
葵先輩は続けてアリス先輩のカバンも手に取り、いつでも出発できるよう待機している。
「疲れたらいつでも交代するから、遠慮せず言ってね❤」
姫歌先輩が優しく微笑む。
そう言ってもらえると、非常に心強い。
「ありがとうございます。家までそんなに遠くないですし、多分大丈夫です」
「アリス、吐きそうになったらすぐに教えなさいよね。ビニール袋もあるから、我慢するんじゃないわよ」
「う、うん、分かった。あ、ありがとう」
真里亜先輩は慣れた手つきでアリス先輩の背中を優しくさする。
いとこ同士、もしかすると似たような出来事を過去にも経験しているのかもしれない。
「ん、しょっ」
私は短い掛け声を漏らしつつ、アリス先輩を背中に乗せる。
「ご、ごめんね、悠理。へ、平気になったら、自分で、あ、歩くから」
「気にしないでください。なんなら、私の背中で寝てくれてもいいですよ」
こんな状態でも私のことを気遣ってくれるアリス先輩。
少しでも心配を和らげられるように、私は軽い足取りで歩き始めた。
校門を抜けて信号を渡り、住宅街へと続く道を進む。
近辺に住んでいる生徒もいるとはいえ、さすがに学校を離れると人の数は激減する。
「いよいよ夏休みですね」
「うふふ❤ 楽しい夏休みにしたいわね❤」
「花火したりお祭りに行ったり、バーベキューもいいな~」
「か、カラオケ、行きたい」
「流しそうめんもやってみたいわ」
明日に迫った夏休みの話題で盛り上がり、例に挙げられたイベントを想像して胸が躍る。
アリス先輩もかなり回復しているし、家に着く頃には万全の状態に戻りそうだ。
***
帰宅後、二階にカバンを置いてからリビングに集まる。
手洗いうがいを済ませた時点で、アリス先輩はすっかり復調していた。これでもう安心だ。
真里亜先輩が用意してくれたバナナミルクと甘さ控えめ低糖質クッキーを手元に置き、腰を据えて駄弁る。
「サウナに行って、悠理の汗を一滴も余さず舐め取りたいわねぇ❤」
「おっぱいかお尻を枕にして日向ぼっこするのもいいよね~」
「ぶ、ブーツを履いてもらって、一日でどれぐらい足を臭くできるか、た、試してほしい」
「せっかくの長期休暇だから、痣が残るぐらいボコボコに殴られたいわ!」
さっきまでは人前だったから、比較的爽やかな内容だった。
帰宅したいま、彼女たちの言動を縛るものはない。
刺激的な発言にドキドキしつつ、ありのままの先輩たちを感じられて嬉しい気持ちになる。
「私は先輩たちと一緒に過ごせれば、それだけで幸せです」
大切なことだから、こういうことは素直に伝えておきたい。
あぁ、でも、本心とはいえ、やっぱり照れ臭いかも。段々顔が熱くなってきた。
「あらあら❤ 悠理は本当にわたしたちの心を掴むのが上手なんだから❤」
「ホントにそれ! いま、ヤバいぐらいに胸がキュンってなった~!」
「あ、アリスたちも、悠理と過ごせるだけで、し、幸せだよ」
「今年は間違いなく過去最高の夏休みになるわね」
恋人たちと過ごす初めての夏休み。
思い出に残る出来事が待ち受けているに違いない。
入学してから濃密すぎる日々が続いたこともあり、あっという間に月日が過ぎたように感じる。
穏やかな気持ちで終業式を迎えられたのは、間違いなく同棲のおかげだ。
もし実家暮らしのままだったら、先輩たちと会える時間が激減する絶望と悲しみから正気を失っていたかもしれない。
いまは希望と喜びが満ち溢れ、夏休みを心待ちにしている。
それと……キスも経験したことだし、夏休み中に大人の階段を昇れるかも、と密かに期待していたり。
「悠理❤ お待たせ❤」
「ひゃっ!」
背後から肩をポンと叩かれ、ビクッと震え上がる。
ちょうどエッチなことを考えていたところだったので、動揺が数割増しで強い。
「あははっ、驚きすぎだよ~」
「考え事でもしてたのかしら?」
姫歌先輩に続いて、葵先輩と真里亜先輩も昇降口から出てくる。
ただ、アリス先輩が見当たらない。
「あれ? アリス先輩は?」
「……こ、ここに、い、いるよ。うぷっ」
いつになく弱々しい声を頼りに姿を探すと、真里亜先輩の足元でうずくまっていた。
顔面蒼白で口元を抑え、いつ嘔吐してもおかしくないような様子だ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫じゃ、ないかも……あ、アリス、人混みは、ほ、本当に、無理……」
私も人混みはそれほど得意じゃないけど、アリス先輩はそれが相当重度であるらしい。
どれほどつらいか一目瞭然とはいえ、病気の類じゃなくてよかったと安堵する。
「とりあえず、一刻も早くここを離れた方がよさそうねぇ❤」
「アリス先輩、歩けますか? 私でよければ、家までおんぶしますよ」
「し、してほしいっ」
表情は相変わらず暗いけど、私の申し出に答える声は幾分か明るかった。
「それじゃ、カバンはあーしが持つよ~」
「あっ、ありがとうございます」
さりげなくカバンを持ってくれた葵先輩に、慌ててお礼を言う。
葵先輩は続けてアリス先輩のカバンも手に取り、いつでも出発できるよう待機している。
「疲れたらいつでも交代するから、遠慮せず言ってね❤」
姫歌先輩が優しく微笑む。
そう言ってもらえると、非常に心強い。
「ありがとうございます。家までそんなに遠くないですし、多分大丈夫です」
「アリス、吐きそうになったらすぐに教えなさいよね。ビニール袋もあるから、我慢するんじゃないわよ」
「う、うん、分かった。あ、ありがとう」
真里亜先輩は慣れた手つきでアリス先輩の背中を優しくさする。
いとこ同士、もしかすると似たような出来事を過去にも経験しているのかもしれない。
「ん、しょっ」
私は短い掛け声を漏らしつつ、アリス先輩を背中に乗せる。
「ご、ごめんね、悠理。へ、平気になったら、自分で、あ、歩くから」
「気にしないでください。なんなら、私の背中で寝てくれてもいいですよ」
こんな状態でも私のことを気遣ってくれるアリス先輩。
少しでも心配を和らげられるように、私は軽い足取りで歩き始めた。
校門を抜けて信号を渡り、住宅街へと続く道を進む。
近辺に住んでいる生徒もいるとはいえ、さすがに学校を離れると人の数は激減する。
「いよいよ夏休みですね」
「うふふ❤ 楽しい夏休みにしたいわね❤」
「花火したりお祭りに行ったり、バーベキューもいいな~」
「か、カラオケ、行きたい」
「流しそうめんもやってみたいわ」
明日に迫った夏休みの話題で盛り上がり、例に挙げられたイベントを想像して胸が躍る。
アリス先輩もかなり回復しているし、家に着く頃には万全の状態に戻りそうだ。
***
帰宅後、二階にカバンを置いてからリビングに集まる。
手洗いうがいを済ませた時点で、アリス先輩はすっかり復調していた。これでもう安心だ。
真里亜先輩が用意してくれたバナナミルクと甘さ控えめ低糖質クッキーを手元に置き、腰を据えて駄弁る。
「サウナに行って、悠理の汗を一滴も余さず舐め取りたいわねぇ❤」
「おっぱいかお尻を枕にして日向ぼっこするのもいいよね~」
「ぶ、ブーツを履いてもらって、一日でどれぐらい足を臭くできるか、た、試してほしい」
「せっかくの長期休暇だから、痣が残るぐらいボコボコに殴られたいわ!」
さっきまでは人前だったから、比較的爽やかな内容だった。
帰宅したいま、彼女たちの言動を縛るものはない。
刺激的な発言にドキドキしつつ、ありのままの先輩たちを感じられて嬉しい気持ちになる。
「私は先輩たちと一緒に過ごせれば、それだけで幸せです」
大切なことだから、こういうことは素直に伝えておきたい。
あぁ、でも、本心とはいえ、やっぱり照れ臭いかも。段々顔が熱くなってきた。
「あらあら❤ 悠理は本当にわたしたちの心を掴むのが上手なんだから❤」
「ホントにそれ! いま、ヤバいぐらいに胸がキュンってなった~!」
「あ、アリスたちも、悠理と過ごせるだけで、し、幸せだよ」
「今年は間違いなく過去最高の夏休みになるわね」
恋人たちと過ごす初めての夏休み。
思い出に残る出来事が待ち受けているに違いない。
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