甘美な百合には裏がある

８１話 気持ちが晴れ渡る

　結論から言うと、両親の説得は無事に成功した。
　話し合いに要した時間は一時間ほど。客観的に見れば拍子抜けとさえ思えるかもしれない。
　同居人が信頼できる先輩たちであること、住所が実家と同じ町内であること。快く納得してもらえたのは、この二点が主な要因だ。
　私がへらへらせず真剣な態度で話したことも、説得成功の一助になったと信じたい。
　先輩たちに関しても、すでに心配は不要。
　昨晩のうちに、全員が家族の了承を得たことを確認できた。保護者用のLINEグループも作られたらしい。
　生活費に関してはバイトを始めようかと考えたものの、親からは気にしなくていい、どうしても自分が納得できないのなら大人になってから返してくれればいいと言ってもらえたので、素直に甘えさせてもらうことに。

「これからは先輩たちと一緒に過ごせる時間が何倍にも増えますね」

　部活中、さっそく今回の件について話す。
　この上なく円滑に進んだとはいえ、説得を終えるまでの緊張感はこれまでの人生においてダントツだった。
　最大の難関を超えられた安堵と先輩たちとの同居生活が始まるという喜びも相俟って、肩の荷が下りたどころか、重力から解き放たれたかのような気分だ。

「うふふ❤　本当に楽しみだわ❤」

「寝落ちするまで話し放題だよ～！」

「と、登下校も、一緒にできる」

「おそろいでなにか買うのもいいんじゃないかしら」

　聞けば昨夜は全員が遅くまで荷造りをしていたというのに、誰一人として疲れた様子はない。
　当然と言えば当然だ。同居への期待感が強すぎて、多少の疲労なんて軽く吹き飛ぶ。
　親元を離れた生活はいろいろと大変なこともあるだろうけど、大好きな先輩たちと一緒なら、なにが起きても乗り越えられる。
　ただ一つ、はしゃぎすぎて羽目を外しすぎないようにだけ気を付けないと。