甘美な百合には裏がある

ありきた

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67話 自販機にて

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 三限目の休み時間。お茶を買おうとして、購買のそばにある自販機に足を運んだ。
 そして財布を忘れたことに気付き、一瞬思考が固まる。
 教室を出るまで友達と話していたから、財布を持たないままここに来てしまった。
 我ながら呆れる話だけど、立ち止まっていても仕方がない。
 一度教室に戻ろうと踵を返した、そのとき。

「ゆ、悠理」

 聞きなれたかわいらしい声が背後から聞こえ、すぐさま振り向く。

「アリス先輩!」

 こんなところで顔を合わせるとは思っていなかったので、つい過剰に反応してしまう。
 幸いにも辺りに人気はなく、注目を浴びるようなことはなかった。

「ど、どうしたの? 飲み物、か、買わないの?」

 視線を地面に落として、おっかなびっくりといった様子で話すアリス先輩。
 事情を話すと、アリス先輩は「な、なるほど」とうなずいた。
 普通なら笑われてもおかしくない場面だけど、彼女は優しく微笑んでくれる。相変わらず目は合わないけども。

「に、二度手間になるから、こ、ここはアリスが払うよ」

「え、いいんですか? ありがとうございます、後で必ず返しますね」

 アリス先輩から小銭を受け取り、お茶を購入。
 改めてお礼を言ってから、キャップを外してのどを潤す。

「や、役に立てて、よかった。あと、お、お金は、返さなくて、いいから」

「いやいや、そんなわけにはいきませんよ。倍にして返します」

「ううん、ほ、本当に、気にしないで。い、いつも、お世話になってる、お礼」

「それを言うなら、私の方こそお世話になってますよ。三倍にして返させてください」

「せ、先輩に、素直に奢られても、罰は当たらないよ。だから、その、受け取ってもらえると、う、嬉しいな」

 先輩……っ。
 ここまで言われたら、頑なに遠慮するのはむしろ失礼に値する。

「ありがとうございます。アリス先輩に奢ってもらったお茶、よく味わって飲みますね」

 私がお礼を言うと、アリス先輩は柔らかな笑みを返してくれた。

「ところで、アリス先輩はなにを買ったんですか?」
 購買から出てきたということは、なにか目的の品があったのだろう。
 なんとなく気になったので、校舎に戻る道すがら訊ねてみた。

「の、のど飴。さ、さっきの休み時間にも来たんだけど、さ、財布を忘れたから……」

「な、なるほど……」

 とてつもないシンパシーを感じ、私は思わず苦笑した。
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