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35話 違和感の正体
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部室に足を踏み入れたときから、得体の知れない違和感に襲われている。
きっと気のせいに違いないと結論付けて、かれこれ一時間ほど経つ。
姫歌先輩のタイピング音が絶え間なく聞こえてくる。今日はいつにも増して執筆が捗っている様子だ。
葵先輩は美少女が全裸で逆立ちしているイラストを描いていて、流麗な動きでタブレットにペンを走らせている。
アリス先輩は部屋の隅で歌を収録中。耳にすぅっと浸透する澄んだ歌声が、心に癒しをもたらしてくれる。
真里亜先輩は自作したお菓子を食べつつ、アイデアをメモに記している。チラッと見ただけでも、よだれが出そうになってしまった。
私はというと、新しい試みとして四コママンガを描いている。構成や画力は壊滅的だけど、姫歌先輩と葵先輩から受けたアドバイスを思い出しつつ頑張る。
全員の行動を確認してみても、やはり違和感の正体が掴めない。
気のせいだと割り切ったはずなのに、得体の知れない悶々とした感覚を拭えずにいる。
「アリス先輩、お疲れ様です。相変わらず素敵な歌声で、感動しちゃいました」
収録を終えて席に戻るアリス先輩に、素直な感想を伝えた。
「あ、ありがとう。こ、今晩投稿するから、ま、また、聞いてね」
頬をほんのりピンクに染めて照れ臭そうに微笑む様子が、たまらないほどに愛らしい。
「もちろんです」
とある有名な動画投稿サイトにおいて、アリス先輩の歌ってみた動画やボイスドラマは尋常ならざる人気を博している。
当然ながら、私もファンの一人だ。
「アリスってほんとに歌上手だよね~。なんかコツとかあるの?」
ペンをくるくると回しながら、葵先輩が質問する。
私としても、ぜひご教授願いたい。
「え、あ、う……えっと、コツかどうかは、わ、分からないけど、あれこれ考えず、のびのびと歌うのが、い、いいと、思う」
アリス先輩は意地でも目を合わせまいと視線を泳がせつつ、自信なさげに答えた。
なんとなくだけど、言わんとすることは分かった気がする。
今度からカラオケに行くときは、いまの教えを意識してみよう。
***
最終下校時間が近付き、みんなが帰り支度を始める。
結局、私の意識に付きまとっていた違和感はなんだったんだろう。
「あらあら❤ 悠理ったら、なにか悩み事でもあるのかしらぁ❤」
「えっ、顔に出てました?」
「そりゃもう、ハッキリと出てたよ~っ」
「え、遠慮せず、アリスたちに、そ、相談、してね」
「一人で抱えるのは精神衛生上よくないわよ」
先輩たちの心遣いが身に染み、胸が熱くなる。
ここはありがたく、お言葉に甘えさせてもらおう。
「実は、部活が始まってからずっと違和感を覚えてたんです。なにかがいつもと違うというか……活動に支障があるようなことではないと思うんですけど、ちょっと物足りないような、寂しいような……」
少しでも情報が伝わるように、頭をひねって言葉を捻出する。
私の説明を受けて、先輩たちは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、すぐさまニヤニヤと意地悪そうな笑みに変わった。
もしかして、いまの漠然とした情報だけで答えにたどり着いたのだろうか。
「うふふ❤ それはきっと、悠理の生活に必要不可欠な要素に違いないわ❤」
「うんうんっ、間違いなく大切なことだね~!」
「む、無自覚だけど、心から、ほ、欲してるんだよ」
「重要であり当たり前のことでもあるから、違和感の正体に気付けないんじゃないかしら」
――分かった。分かってしまった。
先輩たちが一瞬驚いてからニヤニヤし始めたのも、納得がいく。
もっと早く気付くべきだった。今日一日の中を探るのではなく、昨日以前と今日の違いに目を向けるべきだったんだ。
違和感という言葉を用いておきながら、『なにかが違う』という考え方に至らなかったなんて……。
「そ、それじゃあ、お先に失礼します」
先制気味に立ち上がったものの、直後に四方を囲まれて身動きが取れなくなってしまう。
「あははっ、そんなに焦らなくてもいいじゃん!」
背後の葵先輩が腋の下から腕を通し、抱き着くようにして私の胸を揉む。
「も、もう少し、い、一緒にいようよ」
足元ではアリス先輩がうずくまり、スカートの内側で下腹部に顔を埋める。
「こういうのはどうかしらぁ❤ はむっ❤」
左側に密着する姫歌先輩は耳元で息を多めに囁くや否や、耳たぶを甘噛みしてきた。
官能的な刺激が全身に回り、ビクンッと体が跳ねる。
「どうしても嫌なら、あたしを殴り倒して抜け出しなさい」
右側からは、真里亜先輩に胸を強く押し付けられている。
体の左右を爆乳と巨乳がもたらす快感に責め立てられ、絶妙な手つきで胸をこねくり回され、最もデリケートな部分に鼻を擦り付けられ。
四人の同時攻撃を受け、あまりの快感に意識が飛びそうになる。
つまるところ、これが答えだ。
この状況に至るまで、今日は部活中のセクハラじみたスキンシップが皆無だった。
姫歌先輩はゼロ距離まで詰め寄って来ないし、葵先輩は胸にもお尻にも手を伸ばさないし、アリス先輩はパンツと靴下に目もくれないし、真里亜先輩は罵声や暴力を求めない。
部室の外でなら当然のことだけど、この場所に限ればむしろ逆。
拭えない違和感を覚えてしまうほどに日常レベルまで浸透し、あまつさえ物足りなさや寂しさまで感じてしまっている。
「うふふ❤ 頑張って耐えた甲斐があったわぁ❤」
「でも、おかげで悠理が心から求めてくれてるのが分かったよ~!」
「き、気を遣ってる、わけじゃなくて、よ、よかった」
「これからも遠慮しなくてよさそうね」
みんなの口ぶりから察するに、私の反応を見るために口裏を合わせていたのだろう。
セクハラまがいのスキンシップに対して、表面上だけでなく深層心理でどう感じているのかを確かめるために。
ハメられたみたいでちょっと悔しいけど、違和感の正体が判明して心のモヤモヤが消え失せ、先輩たちに囲まれて物理的にも気持ちいい。
せっかくだから最終下校時間までの数分間、この心地よさに浸らせてもらおう。
きっと気のせいに違いないと結論付けて、かれこれ一時間ほど経つ。
姫歌先輩のタイピング音が絶え間なく聞こえてくる。今日はいつにも増して執筆が捗っている様子だ。
葵先輩は美少女が全裸で逆立ちしているイラストを描いていて、流麗な動きでタブレットにペンを走らせている。
アリス先輩は部屋の隅で歌を収録中。耳にすぅっと浸透する澄んだ歌声が、心に癒しをもたらしてくれる。
真里亜先輩は自作したお菓子を食べつつ、アイデアをメモに記している。チラッと見ただけでも、よだれが出そうになってしまった。
私はというと、新しい試みとして四コママンガを描いている。構成や画力は壊滅的だけど、姫歌先輩と葵先輩から受けたアドバイスを思い出しつつ頑張る。
全員の行動を確認してみても、やはり違和感の正体が掴めない。
気のせいだと割り切ったはずなのに、得体の知れない悶々とした感覚を拭えずにいる。
「アリス先輩、お疲れ様です。相変わらず素敵な歌声で、感動しちゃいました」
収録を終えて席に戻るアリス先輩に、素直な感想を伝えた。
「あ、ありがとう。こ、今晩投稿するから、ま、また、聞いてね」
頬をほんのりピンクに染めて照れ臭そうに微笑む様子が、たまらないほどに愛らしい。
「もちろんです」
とある有名な動画投稿サイトにおいて、アリス先輩の歌ってみた動画やボイスドラマは尋常ならざる人気を博している。
当然ながら、私もファンの一人だ。
「アリスってほんとに歌上手だよね~。なんかコツとかあるの?」
ペンをくるくると回しながら、葵先輩が質問する。
私としても、ぜひご教授願いたい。
「え、あ、う……えっと、コツかどうかは、わ、分からないけど、あれこれ考えず、のびのびと歌うのが、い、いいと、思う」
アリス先輩は意地でも目を合わせまいと視線を泳がせつつ、自信なさげに答えた。
なんとなくだけど、言わんとすることは分かった気がする。
今度からカラオケに行くときは、いまの教えを意識してみよう。
***
最終下校時間が近付き、みんなが帰り支度を始める。
結局、私の意識に付きまとっていた違和感はなんだったんだろう。
「あらあら❤ 悠理ったら、なにか悩み事でもあるのかしらぁ❤」
「えっ、顔に出てました?」
「そりゃもう、ハッキリと出てたよ~っ」
「え、遠慮せず、アリスたちに、そ、相談、してね」
「一人で抱えるのは精神衛生上よくないわよ」
先輩たちの心遣いが身に染み、胸が熱くなる。
ここはありがたく、お言葉に甘えさせてもらおう。
「実は、部活が始まってからずっと違和感を覚えてたんです。なにかがいつもと違うというか……活動に支障があるようなことではないと思うんですけど、ちょっと物足りないような、寂しいような……」
少しでも情報が伝わるように、頭をひねって言葉を捻出する。
私の説明を受けて、先輩たちは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、すぐさまニヤニヤと意地悪そうな笑みに変わった。
もしかして、いまの漠然とした情報だけで答えにたどり着いたのだろうか。
「うふふ❤ それはきっと、悠理の生活に必要不可欠な要素に違いないわ❤」
「うんうんっ、間違いなく大切なことだね~!」
「む、無自覚だけど、心から、ほ、欲してるんだよ」
「重要であり当たり前のことでもあるから、違和感の正体に気付けないんじゃないかしら」
――分かった。分かってしまった。
先輩たちが一瞬驚いてからニヤニヤし始めたのも、納得がいく。
もっと早く気付くべきだった。今日一日の中を探るのではなく、昨日以前と今日の違いに目を向けるべきだったんだ。
違和感という言葉を用いておきながら、『なにかが違う』という考え方に至らなかったなんて……。
「そ、それじゃあ、お先に失礼します」
先制気味に立ち上がったものの、直後に四方を囲まれて身動きが取れなくなってしまう。
「あははっ、そんなに焦らなくてもいいじゃん!」
背後の葵先輩が腋の下から腕を通し、抱き着くようにして私の胸を揉む。
「も、もう少し、い、一緒にいようよ」
足元ではアリス先輩がうずくまり、スカートの内側で下腹部に顔を埋める。
「こういうのはどうかしらぁ❤ はむっ❤」
左側に密着する姫歌先輩は耳元で息を多めに囁くや否や、耳たぶを甘噛みしてきた。
官能的な刺激が全身に回り、ビクンッと体が跳ねる。
「どうしても嫌なら、あたしを殴り倒して抜け出しなさい」
右側からは、真里亜先輩に胸を強く押し付けられている。
体の左右を爆乳と巨乳がもたらす快感に責め立てられ、絶妙な手つきで胸をこねくり回され、最もデリケートな部分に鼻を擦り付けられ。
四人の同時攻撃を受け、あまりの快感に意識が飛びそうになる。
つまるところ、これが答えだ。
この状況に至るまで、今日は部活中のセクハラじみたスキンシップが皆無だった。
姫歌先輩はゼロ距離まで詰め寄って来ないし、葵先輩は胸にもお尻にも手を伸ばさないし、アリス先輩はパンツと靴下に目もくれないし、真里亜先輩は罵声や暴力を求めない。
部室の外でなら当然のことだけど、この場所に限ればむしろ逆。
拭えない違和感を覚えてしまうほどに日常レベルまで浸透し、あまつさえ物足りなさや寂しさまで感じてしまっている。
「うふふ❤ 頑張って耐えた甲斐があったわぁ❤」
「でも、おかげで悠理が心から求めてくれてるのが分かったよ~!」
「き、気を遣ってる、わけじゃなくて、よ、よかった」
「これからも遠慮しなくてよさそうね」
みんなの口ぶりから察するに、私の反応を見るために口裏を合わせていたのだろう。
セクハラまがいのスキンシップに対して、表面上だけでなく深層心理でどう感じているのかを確かめるために。
ハメられたみたいでちょっと悔しいけど、違和感の正体が判明して心のモヤモヤが消え失せ、先輩たちに囲まれて物理的にも気持ちいい。
せっかくだから最終下校時間までの数分間、この心地よさに浸らせてもらおう。
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