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29話 妄想よりも刺激的
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受験勉強を頑張って憧れの高校に入学し、気のいいクラスメイトに恵まれ、心から楽しいと思える部活と巡り会う。
そしてなにより、人生を大きく変える出会いを経て、その人たちと交際するに至った。
「――つまり、いわゆる主人公補正なんじゃないかと思うんです」
テーブルに両肘をつき、神妙な面持ちで先輩たちに語る。
スピーチが終了したのを確認し、姫歌先輩が気まずそうに微笑みながら口を開く。
「そ、それって、悠理の努力と人柄が招いた必然の結果なんじゃないかしらぁ❤」
「いいえ、違いますね。どう考えても恩恵が大きすぎます。普通なら、先輩たちと出会えた時点で来世分の運まで使い果たしているはずなんです」
「あはは、大げさだけど照れちゃうな~」
葵先輩が子どもをあやすように笑う。
アリス先輩と真里亜先輩は、反応に困っている様子だ。
この時点ですでに理解を得られているとは言いにくいけど、私はさらに続ける。
「つまり、もしかしたら近いうちに覚醒して、特殊能力的な力が手に入る可能性もあると思うんです!」
部員の中で私だけ強烈な性癖を持たないのは、ある種の伏線だったのかもしれない。
さらなる仮説を述べ立てようとした瞬間、体が硬直して言葉に詰まる。
超常現象に見舞われたわけではない。
驚くほど冷たい視線が、四人から向けられているからだ。
指一本動かせず、沈黙を余儀なくされる。
「小説のネタとしては、使えなくもないかもしれないこともないわねぇ❤」
「いや~、さすがに妄想が激しすぎだよ」
「げ、現実味の、欠片も、ない」
「どうせならドSの女王様として覚醒しなさい」
口々に否定され、完膚なきまでに叩きのめされる。
初めて味わう冷ややかな眼差しには恐怖すら覚えたものの、おかげで我に返ることができた。
「ご、ごめんなさい。確かに突飛な妄想でした。夢なんじゃないかと思うぐらい幸せな出来事が続いたので、ちょっと思考がマヒしていたみたいです」
深く反省し、頭を下げて謝る。
意味不明な言動で困らせてしまい、本当に申し訳ない。
顔を上げると、いつの間にか姫歌先輩が消えていた。
音もなくどこへ行ったのか。
背後に気配を感じると同時に、後ろから肩を優しく掴まれる。
「夢じゃないってこと、体に教えてあげる❤」
どういうことかと質問するより先に、答えが示された。
姫歌先輩は掴んだ右肩の制服を軽く引っ張り、露出した首筋に吸い付く。
「んぁっ」
音を立てて力強く吸われ、わずかな痛みが走る。
とはいえ、決して苦痛ではない。むしろ心地いいとさえ感じてしまう。
「あーしもやる!」
ガタッと勢いよく席を立った葵先輩が、姫歌先輩の反対――左側の首筋に唇を当て、思い切り吸引する。
控え目ながらも確かな痛みが、夢ではなく現実の出来事なのだと思い知らせてくれる。
「あ、アリス、も、やりたい」
テーブルの下に潜り、いつも通りスカートの中に首を突っ込んだアリス先輩。今日は下着に顔を押し付けないのかと思っていたら、太ももの付け根に激しく吸い付かれた。
「それじゃあ、あたしも」
真里亜先輩はそう言いもって私の手を取り、袖を少しめくって腕に唇を当てる。
他の三人と同じように、力強く、音を立てて息を吸い込む。
「せ、先輩たち、急になにを……っ?」
四人が自席に戻ったのを見計らって、訊ねる。
「うふふ❤ 夢じゃないってハッキリと分かったんじゃないかしら❤」
確かに、もはや疑いようもない。
唇が離れてもなお残るジンジンとした痛み。
そして、湿り気を帯びた柔らかな唇の、この上なく生々しい感触。
手段はともかく、効果は抜群だ。さすがの私も、この期に及んで訝るほど疑り深くはない。
「キスマーク残しちゃったけど、制服で隠れるから大丈夫だよ~っ」
葵先輩の言葉にハッとなって、袖をめくる。
ついさっきまで真里亜先輩の唇が触れていた場所に、すぐには消えないであろう痣ができていた。
位置的に確認するのは難しいけど、首筋や太ももも同様であることは間違いない。
「ゆ、悠理の太もも、き、気持ちよかった」
そわそわした様子でイスに座るアリス先輩が、伏し目がちにつぶやく。
私としても、唇の感触が実に気持ちよかった。
「いつかムチを振るってもらって、あたしの全身に痣を残してほしいわね」
想像するだけで痛いことを心底楽しそうに言ってのける真里亜先輩。
こればかりは、安易に承認するわけにもいかない。
「わたしたちが悠理のことを大好きなのも、四人そろって悠理の恋人になったのも、すべて紛れもない現実よ❤」
姫歌先輩の発言に、周りの先輩たちも一様にうなずく。
よく見ると、四人とも頬がちょっと赤い。
唇同士ではないとはいえ、素肌へのキス。いまさらになって私も照れてしまい、つられて赤面する。
「わ、私も、していいですか?」
訊ねると、全員の首肯と共に承諾の声が上がった。
みんなの額に、チュッと短いキスを落とす。
恥ずかしくないと言えば嘘になる。
だけど、満面の笑みを浮かべて喜んでくれる姿を見ていたら、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
そしてなにより、人生を大きく変える出会いを経て、その人たちと交際するに至った。
「――つまり、いわゆる主人公補正なんじゃないかと思うんです」
テーブルに両肘をつき、神妙な面持ちで先輩たちに語る。
スピーチが終了したのを確認し、姫歌先輩が気まずそうに微笑みながら口を開く。
「そ、それって、悠理の努力と人柄が招いた必然の結果なんじゃないかしらぁ❤」
「いいえ、違いますね。どう考えても恩恵が大きすぎます。普通なら、先輩たちと出会えた時点で来世分の運まで使い果たしているはずなんです」
「あはは、大げさだけど照れちゃうな~」
葵先輩が子どもをあやすように笑う。
アリス先輩と真里亜先輩は、反応に困っている様子だ。
この時点ですでに理解を得られているとは言いにくいけど、私はさらに続ける。
「つまり、もしかしたら近いうちに覚醒して、特殊能力的な力が手に入る可能性もあると思うんです!」
部員の中で私だけ強烈な性癖を持たないのは、ある種の伏線だったのかもしれない。
さらなる仮説を述べ立てようとした瞬間、体が硬直して言葉に詰まる。
超常現象に見舞われたわけではない。
驚くほど冷たい視線が、四人から向けられているからだ。
指一本動かせず、沈黙を余儀なくされる。
「小説のネタとしては、使えなくもないかもしれないこともないわねぇ❤」
「いや~、さすがに妄想が激しすぎだよ」
「げ、現実味の、欠片も、ない」
「どうせならドSの女王様として覚醒しなさい」
口々に否定され、完膚なきまでに叩きのめされる。
初めて味わう冷ややかな眼差しには恐怖すら覚えたものの、おかげで我に返ることができた。
「ご、ごめんなさい。確かに突飛な妄想でした。夢なんじゃないかと思うぐらい幸せな出来事が続いたので、ちょっと思考がマヒしていたみたいです」
深く反省し、頭を下げて謝る。
意味不明な言動で困らせてしまい、本当に申し訳ない。
顔を上げると、いつの間にか姫歌先輩が消えていた。
音もなくどこへ行ったのか。
背後に気配を感じると同時に、後ろから肩を優しく掴まれる。
「夢じゃないってこと、体に教えてあげる❤」
どういうことかと質問するより先に、答えが示された。
姫歌先輩は掴んだ右肩の制服を軽く引っ張り、露出した首筋に吸い付く。
「んぁっ」
音を立てて力強く吸われ、わずかな痛みが走る。
とはいえ、決して苦痛ではない。むしろ心地いいとさえ感じてしまう。
「あーしもやる!」
ガタッと勢いよく席を立った葵先輩が、姫歌先輩の反対――左側の首筋に唇を当て、思い切り吸引する。
控え目ながらも確かな痛みが、夢ではなく現実の出来事なのだと思い知らせてくれる。
「あ、アリス、も、やりたい」
テーブルの下に潜り、いつも通りスカートの中に首を突っ込んだアリス先輩。今日は下着に顔を押し付けないのかと思っていたら、太ももの付け根に激しく吸い付かれた。
「それじゃあ、あたしも」
真里亜先輩はそう言いもって私の手を取り、袖を少しめくって腕に唇を当てる。
他の三人と同じように、力強く、音を立てて息を吸い込む。
「せ、先輩たち、急になにを……っ?」
四人が自席に戻ったのを見計らって、訊ねる。
「うふふ❤ 夢じゃないってハッキリと分かったんじゃないかしら❤」
確かに、もはや疑いようもない。
唇が離れてもなお残るジンジンとした痛み。
そして、湿り気を帯びた柔らかな唇の、この上なく生々しい感触。
手段はともかく、効果は抜群だ。さすがの私も、この期に及んで訝るほど疑り深くはない。
「キスマーク残しちゃったけど、制服で隠れるから大丈夫だよ~っ」
葵先輩の言葉にハッとなって、袖をめくる。
ついさっきまで真里亜先輩の唇が触れていた場所に、すぐには消えないであろう痣ができていた。
位置的に確認するのは難しいけど、首筋や太ももも同様であることは間違いない。
「ゆ、悠理の太もも、き、気持ちよかった」
そわそわした様子でイスに座るアリス先輩が、伏し目がちにつぶやく。
私としても、唇の感触が実に気持ちよかった。
「いつかムチを振るってもらって、あたしの全身に痣を残してほしいわね」
想像するだけで痛いことを心底楽しそうに言ってのける真里亜先輩。
こればかりは、安易に承認するわけにもいかない。
「わたしたちが悠理のことを大好きなのも、四人そろって悠理の恋人になったのも、すべて紛れもない現実よ❤」
姫歌先輩の発言に、周りの先輩たちも一様にうなずく。
よく見ると、四人とも頬がちょっと赤い。
唇同士ではないとはいえ、素肌へのキス。いまさらになって私も照れてしまい、つられて赤面する。
「わ、私も、していいですか?」
訊ねると、全員の首肯と共に承諾の声が上がった。
みんなの額に、チュッと短いキスを落とす。
恥ずかしくないと言えば嘘になる。
だけど、満面の笑みを浮かべて喜んでくれる姿を見ていたら、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
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