上 下
178 / 217

178話 夏場は特に蒸れるらしい

しおりを挟む
 まだ涼しい時間に雑談配信をして、正午過ぎぐらいにミミちゃんと食事に出かけた。
 食後の運動ということでバスを使わずにマンションまで帰ってきたあたしたちは、言うまでもなく汗だくになっている。

「今日も暑いですね」

「ほんとにね。かき氷浴びたいぐらいだよ~」

「浴びるのはダメですよ」

 なんて他愛のないやり取りを交わしながら、エレベーターに乗り込む。
 何気なく隣を見ると、ミミちゃんがシャツの胸元を少し引っ張ってもう片方の手で谷間を扇いでいた。
 胸が大きい人は谷間が蒸れて大変だ。
 あたしには一生縁がない――まだ成長する可能性は残ってるから絶対にないとは言い切れない――けど、かなりの不快感が伴うのだろうということは察せる。

「――あっ、そうだ!」

 帰宅して玄関で靴を脱いだのとほぼ同時に、妙案が舞い降りた。
 一度冷静に考えてから声に出すべきだと分かっていながらも、頭に浮かぶと同時にもう口が開いていた。

「ミミちゃんお願い! おっぱいの谷間に手を突っ込ませて!」

 あたしはミミちゃんの正面に立ち、わずかな躊躇もなく声を大にして告げる。

「えっ!? な、なんでですか?」

「谷間が蒸れるってことがどういうことなのか、少しでも味わいたいの。あたしが分かったところでなんの助けにもならないけど、ミミちゃんの気持ちを少しでも共感したい!」

 目を見て素直な気持ちを伝えると、ミミちゃんは少し戸惑いつつも首を縦に振ってくれた。
 手洗いうがいと水分補給を済ませ、リビングのソファに腰かける。
 一息ついたのも束の間、あたしは腰を上げてミミちゃんの前に立った。

「ミミちゃん、いい?」

「は、はい、どうぞ」

 あたしが至極真剣な態度で訊ねたせいか、ミミちゃんの表情に緊張の色が見える。

「それじゃあ……シャツ、脱がすね」

 これは決して急に発情したとかじゃなく、下着姿の方が谷間に手を突っ込みやすいというちゃんとした理由がある。
 ミミちゃんにも、手を洗う時にきちんと説明しておいたし。
 脳内で言い訳じみたことを並べ立てながら、ミミちゃんのシャツを脱がせる。

「汗びっしょりだね~。はい、タオル」

「ありがとうございます」

 洗面所から持ってきておいたタオルをミミちゃんに渡し、風邪を引かないように汗を拭いてもらう。
 あたしの手にはミミちゃんの汗と体温でまだじっとりと温かいシャツがあるわけで……。

「ん~」

 気付いたらミミちゃんのシャツに顔を埋めていた。
 体が勝手に動いたというか、こうなる運命だったのだと思えるほど自然に、脱ぎたてのシャツに顔を擦り付けながら深呼吸している。
 口を閉じ、鼻だけを使って深く深く息を吸う。

「ゆっ、ユニコちゃん!」

「あっ」

 ミミちゃんにシャツをひったくられてしまった。
 名残惜しいけど、ここは潔く諦めるとしよう。

「こんな汗臭いシャツ、嗅いじゃダメですよっ。いますぐベランダに出て外の空気を吸ってきてくださいっ」

「別に臭くなかったけどな~。むしろ、もっと――」

 ミミちゃんにジト目で見つめられ、言葉を飲み込む。

「気を取り直して、谷間に手を突っ込ませてもらうね!」

「本当にやるんですか? 汗ですごく蒸れてますから、手に汗のにおいが移っちゃうかもしれませんよ?」

「もちろん! 大丈夫、嗅ぐのはミミちゃんが見てないところで――あっ」

 全部は言わない方がいいかも、と思った時にはもう遅かった。
 ミミちゃんは顔を赤くして、シャツで谷間を覆い隠してしまう。

「や、やっぱり今日はダメですっ」

 そう言い残し、ミミちゃんは小走りでリビングを後にした。
 そしてその後、あたしとミミちゃんは一緒にシャワーを浴びて汗を洗い流し、特殊なプレイに走らずひたすらに甘いひと時を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...