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128話 特訓しつつ凸待ちする配信④
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かれこれ数十レース走り続けているものの、コースの種類が豊富であり、それぞれが個性的な特色を備えていることもあって、一向に飽きが来ない。
「――あっ、ちょっと待ってね」
レースを終え、参加メンバーを入れ替えて次の一戦に進もうとしたタイミングで、待ちに待った第二の凸者が現れた。
通話をつなぎ、相手の音声を配信に乗せる。
「ユニコちゃんのリスナーさんたち、こんばんは。少しの間、一緒に遊ばせてもらいますね」
ただあいさつしただけなのに、尋常ならざる癒やし効果を感じさせる魅惑のボイス。
画面を見続けていたことによる目の疲労さえも軽減されたような気さえする。
「ミミちゃんの登場だ~! お風呂上りのミミちゃん! それぞれ自分の部屋にいるから直接は感じ取れないけど、絶対にいい匂いだよ! 普段からいい匂いだし、なんなら運動の後でもいい匂いだけど、お風呂上りの匂いって考えるとなんか特別な感動と興奮を――」
「ゆ、ユニコちゃん、ちょっと落ち着いてくださいっ」
「えっ……あっ、ごめん、つい昂っちゃって」
我に返り、大きく息をして気持ちを整える。
ミミちゃんの隣で深呼吸したら、極上の芳香で肺が満たされるんだろうな……なんて変態じみた考えが浮かんでしまったので、それは後でのお楽しみということにして意識の片隅に追いやった。
『ミミちゃんようこそー』
『うちのユニコがすみません』
『推しに代わって謝罪します』
『ミミちゃん来た~』
『めちゃくちゃ早口で草』
「ほんのちょっとだけ取り乱しちゃったけど、次のレースに移るよ~!」
新しいルームを作り、まずミミちゃんにチャットでパスワードを伝える。
『ほんのちょっと?』
『ちょっとかな』
『軽い放送事故でしたけども』
「細かいことはいいの! ほらっ、パスワード貼ったからみんな集まって!」
そして、ミミちゃんを迎えて最初のレースが始まった。
エリナ先輩の時はいきなり不意打ちをして因果応報としか言えない目に遭ったので、今回は平和的に進めていこう。
「ミミちゃん見付けた~」
スタート直後の軽いアクシデントで出遅れたものの、アイテムとショートカットを駆使してどうにか先頭手段に追い付いた。
「こ、攻撃しないでくださいね」
現状、ミミちゃんは防御に使えるアイテムを持っていない。
上手くいけば勝利を狙える位置なだけに、声音から緊張感が伝わってくる。
「大丈夫だよ~、あたしも手ぶらだから」
ミミちゃんに安心してもらうべく、嘘偽りのない事実を告げる。
と、ここまではなんの問題もない行動だった。
「ミミちゃんのお尻を眺めながら走るのは楽しいな~。このままどこまでも追いかけ回しちゃうよ~」
しばらく順位の変動がなく、うっかりストーカーみたいなことを口走ってしまう。
フラグなんてフィクションの話だと思いがちだけど、普段の生活においても『あれってフラグだったのかな』と思うような出来事はたまにある。
「ストーカーみたいなこと言わないでください」
「あはは、ごめんごめ――んんっ!?」
予期せぬタイミングで、壁に反射してこちらへ向かってきたアイテムの直撃を受けた。
体勢を立て直し、崖沿いのコーナーに突入。
安全マージンを捨て、限界ギリギリまでイン側を攻める。
確保している加速アイテムの使いどころについて考え始めた矢先、背後から不穏な音色が近づいてくるのを感じた。
嫌な予感が頭をよぎった次の瞬間、それは現実となる。
「っ!?」
無敵状態となったプレイヤーの無慈悲な接触を受け、ギリギリのラインを走行していたあたしはそのまま崖の方へ突き飛ばされてしまう。
「やったっ、一位です!」
あたしの状況を知る由もないミミちゃんが、無事に一着でゴールできた喜びをあらわにする。
「おめでとうっ、あたしもすぐに行くから待っててね!」
好敵手の勝利を素直に祝いつつ、新たに入手した加速アイテムも使って最短ルートを突き進む。
残念ながら順位は真ん中ぐらいだったものの、あの状態からよく持ち直せたと思う。
「みんな、ストーカーは絶対にダメだよ~。もし悪い考えが頭をよぎったら、さっきのあたしみたいに崖から落ちるってことを思い出してね」
リスナーさんたちなら心配ないと信じているけど、因果応報という言葉に説得力を持たせられる出来事が起きた直後なので、この機会に注意喚起しておくことにした。
「――あっ、ちょっと待ってね」
レースを終え、参加メンバーを入れ替えて次の一戦に進もうとしたタイミングで、待ちに待った第二の凸者が現れた。
通話をつなぎ、相手の音声を配信に乗せる。
「ユニコちゃんのリスナーさんたち、こんばんは。少しの間、一緒に遊ばせてもらいますね」
ただあいさつしただけなのに、尋常ならざる癒やし効果を感じさせる魅惑のボイス。
画面を見続けていたことによる目の疲労さえも軽減されたような気さえする。
「ミミちゃんの登場だ~! お風呂上りのミミちゃん! それぞれ自分の部屋にいるから直接は感じ取れないけど、絶対にいい匂いだよ! 普段からいい匂いだし、なんなら運動の後でもいい匂いだけど、お風呂上りの匂いって考えるとなんか特別な感動と興奮を――」
「ゆ、ユニコちゃん、ちょっと落ち着いてくださいっ」
「えっ……あっ、ごめん、つい昂っちゃって」
我に返り、大きく息をして気持ちを整える。
ミミちゃんの隣で深呼吸したら、極上の芳香で肺が満たされるんだろうな……なんて変態じみた考えが浮かんでしまったので、それは後でのお楽しみということにして意識の片隅に追いやった。
『ミミちゃんようこそー』
『うちのユニコがすみません』
『推しに代わって謝罪します』
『ミミちゃん来た~』
『めちゃくちゃ早口で草』
「ほんのちょっとだけ取り乱しちゃったけど、次のレースに移るよ~!」
新しいルームを作り、まずミミちゃんにチャットでパスワードを伝える。
『ほんのちょっと?』
『ちょっとかな』
『軽い放送事故でしたけども』
「細かいことはいいの! ほらっ、パスワード貼ったからみんな集まって!」
そして、ミミちゃんを迎えて最初のレースが始まった。
エリナ先輩の時はいきなり不意打ちをして因果応報としか言えない目に遭ったので、今回は平和的に進めていこう。
「ミミちゃん見付けた~」
スタート直後の軽いアクシデントで出遅れたものの、アイテムとショートカットを駆使してどうにか先頭手段に追い付いた。
「こ、攻撃しないでくださいね」
現状、ミミちゃんは防御に使えるアイテムを持っていない。
上手くいけば勝利を狙える位置なだけに、声音から緊張感が伝わってくる。
「大丈夫だよ~、あたしも手ぶらだから」
ミミちゃんに安心してもらうべく、嘘偽りのない事実を告げる。
と、ここまではなんの問題もない行動だった。
「ミミちゃんのお尻を眺めながら走るのは楽しいな~。このままどこまでも追いかけ回しちゃうよ~」
しばらく順位の変動がなく、うっかりストーカーみたいなことを口走ってしまう。
フラグなんてフィクションの話だと思いがちだけど、普段の生活においても『あれってフラグだったのかな』と思うような出来事はたまにある。
「ストーカーみたいなこと言わないでください」
「あはは、ごめんごめ――んんっ!?」
予期せぬタイミングで、壁に反射してこちらへ向かってきたアイテムの直撃を受けた。
体勢を立て直し、崖沿いのコーナーに突入。
安全マージンを捨て、限界ギリギリまでイン側を攻める。
確保している加速アイテムの使いどころについて考え始めた矢先、背後から不穏な音色が近づいてくるのを感じた。
嫌な予感が頭をよぎった次の瞬間、それは現実となる。
「っ!?」
無敵状態となったプレイヤーの無慈悲な接触を受け、ギリギリのラインを走行していたあたしはそのまま崖の方へ突き飛ばされてしまう。
「やったっ、一位です!」
あたしの状況を知る由もないミミちゃんが、無事に一着でゴールできた喜びをあらわにする。
「おめでとうっ、あたしもすぐに行くから待っててね!」
好敵手の勝利を素直に祝いつつ、新たに入手した加速アイテムも使って最短ルートを突き進む。
残念ながら順位は真ん中ぐらいだったものの、あの状態からよく持ち直せたと思う。
「みんな、ストーカーは絶対にダメだよ~。もし悪い考えが頭をよぎったら、さっきのあたしみたいに崖から落ちるってことを思い出してね」
リスナーさんたちなら心配ないと信じているけど、因果応報という言葉に説得力を持たせられる出来事が起きた直後なので、この機会に注意喚起しておくことにした。
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