上 下
128 / 217

128話 特訓しつつ凸待ちする配信④

しおりを挟む
 かれこれ数十レース走り続けているものの、コースの種類が豊富であり、それぞれが個性的な特色を備えていることもあって、一向に飽きが来ない。

「――あっ、ちょっと待ってね」

 レースを終え、参加メンバーを入れ替えて次の一戦に進もうとしたタイミングで、待ちに待った第二の凸者が現れた。
 通話をつなぎ、相手の音声を配信に乗せる。

「ユニコちゃんのリスナーさんたち、こんばんは。少しの間、一緒に遊ばせてもらいますね」

 ただあいさつしただけなのに、尋常ならざる癒やし効果を感じさせる魅惑のボイス。
 画面を見続けていたことによる目の疲労さえも軽減されたような気さえする。

「ミミちゃんの登場だ~! お風呂上りのミミちゃん! それぞれ自分の部屋にいるから直接は感じ取れないけど、絶対にいい匂いだよ! 普段からいい匂いだし、なんなら運動の後でもいい匂いだけど、お風呂上りの匂いって考えるとなんか特別な感動と興奮を――」

「ゆ、ユニコちゃん、ちょっと落ち着いてくださいっ」

「えっ……あっ、ごめん、つい昂っちゃって」

 我に返り、大きく息をして気持ちを整える。
 ミミちゃんの隣で深呼吸したら、極上の芳香で肺が満たされるんだろうな……なんて変態じみた考えが浮かんでしまったので、それは後でのお楽しみということにして意識の片隅に追いやった。

『ミミちゃんようこそー』
『うちのユニコがすみません』
『推しに代わって謝罪します』
『ミミちゃん来た~』
『めちゃくちゃ早口で草』

「ほんのちょっとだけ取り乱しちゃったけど、次のレースに移るよ~!」

 新しいルームを作り、まずミミちゃんにチャットでパスワードを伝える。

『ほんのちょっと?』
『ちょっとかな』
『軽い放送事故でしたけども』

「細かいことはいいの! ほらっ、パスワード貼ったからみんな集まって!」

 そして、ミミちゃんを迎えて最初のレースが始まった。
 エリナ先輩の時はいきなり不意打ちをして因果応報としか言えない目に遭ったので、今回は平和的に進めていこう。

「ミミちゃん見付けた~」

 スタート直後の軽いアクシデントで出遅れたものの、アイテムとショートカットを駆使してどうにか先頭手段に追い付いた。

「こ、攻撃しないでくださいね」

 現状、ミミちゃんは防御に使えるアイテムを持っていない。
 上手くいけば勝利を狙える位置なだけに、声音から緊張感が伝わってくる。

「大丈夫だよ~、あたしも手ぶらだから」

 ミミちゃんに安心してもらうべく、嘘偽りのない事実を告げる。
 と、ここまではなんの問題もない行動だった。

「ミミちゃんのお尻を眺めながら走るのは楽しいな~。このままどこまでも追いかけ回しちゃうよ~」

 しばらく順位の変動がなく、うっかりストーカーみたいなことを口走ってしまう。
 フラグなんてフィクションの話だと思いがちだけど、普段の生活においても『あれってフラグだったのかな』と思うような出来事はたまにある。

「ストーカーみたいなこと言わないでください」

「あはは、ごめんごめ――んんっ!?」

 予期せぬタイミングで、壁に反射してこちらへ向かってきたアイテムの直撃を受けた。
 体勢を立て直し、崖沿いのコーナーに突入。
 安全マージンを捨て、限界ギリギリまでイン側を攻める。
 確保している加速アイテムの使いどころについて考え始めた矢先、背後から不穏な音色が近づいてくるのを感じた。
 嫌な予感が頭をよぎった次の瞬間、それは現実となる。

「っ!?」

 無敵状態となったプレイヤーの無慈悲な接触を受け、ギリギリのラインを走行していたあたしはそのまま崖の方へ突き飛ばされてしまう。

「やったっ、一位です!」

 あたしの状況を知る由もないミミちゃんが、無事に一着でゴールできた喜びをあらわにする。

「おめでとうっ、あたしもすぐに行くから待っててね!」

 好敵手の勝利を素直に祝いつつ、新たに入手した加速アイテムも使って最短ルートを突き進む。
 残念ながら順位は真ん中ぐらいだったものの、あの状態からよく持ち直せたと思う。

「みんな、ストーカーは絶対にダメだよ~。もし悪い考えが頭をよぎったら、さっきのあたしみたいに崖から落ちるってことを思い出してね」

 リスナーさんたちなら心配ないと信じているけど、因果応報という言葉に説得力を持たせられる出来事が起きた直後なので、この機会に注意喚起しておくことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...