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91話 三人で遊ぶ③

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 あたしたちは六基のベンチが設置された休憩スペースに移動し、シャテーニュ先輩がくれたジュースを飲みながら一休みしている。

「あの揺れ弾むおっぱい、ホントにすごい迫力だったな~」

 火照った顔を手で扇ぎつつ、しみじみとつぶやいた。
 すると左隣のシャテーニュ先輩が「確かに」とうなずき、右隣のミミちゃんは無言であたしの頬を軽くつねる。

「ご、ごめんごめん。ところでミミちゃん、けっこう派手に揺れてたけど、痛かったりしない?」

 あたしには無縁の悩みだけど、おっぱいが揺れたら痛いということぐらいは知っている。
 絶景に見惚れるあまり、プレイ中に気が回らなかった至らなさを反省するばかりだ。

「そうですね、少しジンジンします。さっきまではゲームに夢中で、あんまり気になりませんでしたけど」

「あっ……ごめん、再戦を勧めたせいで、余計に動くことになっちゃったね」

「いやいや、それを言うなら謝るのはあたしの方だよ! 一戦目でおっぱいに見惚れて動きを止めたのが原因なんだから!」

 気を利かせて再戦を勧めてくれたシャテーニュ先輩が申し訳なさそうにしているのを見て、あたしは思わず遮るように言葉を発した。

「ま、待ってください、謝る必要なんて微塵もないですっ。千切れるほど痛いわけでもないですし、夢中になって楽しめたんですからっ」

 ミミちゃんは慌ててそう言った後、「それに」と続ける。

「ユニコちゃんに完勝する喜びも味わえました」

 嬉しそうに微笑むミミちゃんの声には、誇らしさも混じっていた。
 これ以上の謝罪は喜びに水を差すことにもなりかねないし、気を遣わせてしまうのも申し訳ない。

「一休みしたところで、シャテーニュ先輩のプレイも見せてもらおうかなっ」

「ですね。ぜひ見たいですっ」

 スッと立ち上がりつつ告げた提案に、ミミちゃんも賛同する。

「いいよー。さっきの勝負はミミちゃんの勝ち抜けってことで、ユニコちゃんが相手してくれるんだよね?」

「うんっ。あたしもコツを掴んだから、いまならシャテーニュ先輩にも勝てる気がする!」

 前にも同じようなことを口走って惨敗した気がするけど、細かいことは置いておこう。
 空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、あたしたちは再びダンスゲームのある場所へ移動した。

「いまなら誰にも負けないという絶対の自信があるっ。ミミちゃん、この戦いに勝ったらお祝いのキスしてね! シャテーニュ先輩、負けた時の言い訳を考えるならいまのうちだよ~っ」

「ゆ、ユニコちゃん、それ以上フラグを立てるのはやめてくださいっ」

***

 あたしは言い訳の余地がない清々しいほどの完敗を喫した。

「よし、それじゃあ次は趣向を変えてクレーンゲームで遊ぼうっ」

 気を取り直し、二人を先導するようにクレーンゲームのコーナーへと勇み足で進む。
 ぬいぐるみやフィギュア、お菓子やオモチャ。景品の種類は実に豊富だ。

「とりあえず、おやつを調達しようかな~」

 板チョコが景品となっている台に目を付け、さっそく百円玉を投入する。
 ボタンは右への移動、奥への移動、回転の三つ。
 狩りをする肉食動物になったつもりで、慎重かつ大胆にアームを動かす。

「あっ、いけそうっ。もうちょっと、あと少し耐えてっ」

 強くはないけど緩くもない設定のアームが、技術と偶然の結果として二枚の板チョコを掴んだままゴールへと向かっている。

「――やった! 取れた~っ、一発ゲット!」

「おめでとうございますっ」

「ユニコちゃん上手いねー」

「ありがと~っ。はい、これは二人にあげるっ」

 そう言って差し出すと、せっかくの戦利品だからと遠慮されてしまう。
 半ば強引に板チョコを二人に渡し、品定めをしながらクレーンゲームのコーナーを歩く。
 あたしの次に挑戦したのはミミちゃんで、数回のプレイでボトルガムを獲得した。

「あ、これなら取れそー」

 そう言って、シャテーニュ先輩はスナック菓子が散りばめられた台にお金を入れる。
 一回目は惜しくも景品を掴めず、二回目は掴んだ瞬間に滑り落ち、三回目は狙いを変えたものの的外れな場所にアームが下りてしまった。
 さらに四回目、五回目と失敗が続く。

「せ、先輩、別の台に移るのもありだよ?」

「大丈夫、次で確実に決めるから」

 ちなみにこのセリフ、三回目を終えた後にも言っていた。

(千円を超えそうになったらさすがに止めよう)

(了解です)

 ミミちゃんとアイコンタクトを交わし、真剣な表情を浮かべるシャテーニュ先輩を見守る。
 時に声援を飛ばし、時に自分たちなりのアドバイスを送り、八回目の挑戦で見事に目的のスナック菓子を獲得した。

「や、やった。取れた、取れたよっ」

 慌てて取り出し口から景品を手に取り、満面の笑みを浮かべて喜びを露にするシャテーニュ先輩。
 声のトーンも普段より明らかに高く、いかに嬉しいかがひしひしと伝わってくる。

「やったね、シャテーニュ先輩!」

「頑張った甲斐がありましたねっ」

「ありがとう。二人が応援してくれたおかげだよ」

 あたしたちは感動を分かち合い、しばらく余韻に浸り続けた。
 夕方になると人が増え始め、そろそろ切り上げようという話になりゲームセンターを後にする。
 それからすぐには解散せず、あたしたちの家にシャテーニュ先輩を招いて、おしゃべりしながら戦利品のお菓子をおいしくいただいた。
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