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76話 スノウ・フレイムサンダー
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猫目ネココちゃんのデビュー配信から一夜明け、今日もまた後輩のデビュー配信が行われる。
昨日と同じくお菓子と飲み物を用意してソファに座り、万全の視聴態勢で配信開始を待つ。
そしていよいよ、待機画面から――
「……あれ?」
「……始まりませんね」
配信が始まるはずの時間になっても、画面が切り替わらない。
一分、二分、三分と経っても、待機画面のままだ。
なにかアクシデントでもあったのだろうか。
「運営さんに連絡した方がいいのかな~?」
「運営さんも見ているはずですし、アクシデントだとすればすでに対応している最中だと思いますよ」
「確かに、それもそうだね」
あたしへの返信という手間を増やすのも申し訳ないし、ここは静かに待つとしよう。
「ミミちゃん、あたしのおっぱい揉む?」
「もう、こんな時になにを言ってるんですか。そういうのは配信を見終わった後です」
他愛のないおしゃべりをしたり、お菓子をつまんだり、ジュースを飲んだり。
メンバー用のチャットで先輩たちやネココちゃんとやり取りを交わしたりしながら、配信が始まる瞬間をいまかいまかと待ち続ける。
……。
…………。
………………。
気付けば開始予定の時間から、二時間が経とうとしていた。
さすがに心配なので運営さんに状況を訊ねようとしたその時、待機画面が切り替わる。
赤と黒のマーブル模様な背景画像が表示され、画面の左側にコメント、右側に立ち絵が現れた。
『やぁ、皆の衆。今宵はボクのために集まってくれてありがとう。さっそく自己紹介を始めたいところだけど、その前に……今日は本当に申し訳ないです初配信から遅刻とかありえないですよねすみません心の底から反省してますなんて口ではどうとでも言えますよね今後の活動で示していきたいと思います!』
落ち着いたトーンのあいさつから始まり、心底申し訳なさそうな声での謝罪が告げられた。
『この度は皆様に多大な迷惑と心配をおかけして、本当に本当に申し訳ありませんでした! 改めまして、自己紹介させていただきたいと思います』
一拍置いてから、彼女は再び口を開く。
『ボクはスノウ・フレイムサンダー、強すぎるがゆえに異世界を追放された暗黒騎士だよ。今後はこの世界でVtuberとして生きていくから、応援してくれると幸いだ』
いままでガールズパーティにいなかったクール系――なんだけど、先ほどの慌てふためいた謝罪の様子がチラついて、『かっこいい』より『かわいい』という感想が先に来る。
『さて、せっかくだからボクの装備を紹介しておこうか』
そう言った後、スノウちゃんの全身が表示された。
毛先が足首に届きそうな水色のスーパーロングヘアーは首の辺りで束ねられ、身にまとうのは西洋の騎士を彷彿とさせるデザインの鎧。
異世界出身というだけあって、あたしやミミちゃんの初期衣装と近しい雰囲気を感じる。
『ふっ、我ながらかっこいい。かっこよすぎてスクショせずにはいられない。デビューしたばかりだけどボクのフィギュアを作ってほしいぐらいだ。ちなみに、鎧の上からでは分からないけど、胸は手のひらサイズ、お尻はちょっと大きめだよ。細身だけど太ももがぷにっとしているのが個人的にチャームポイントだと思ってる』
「ミミちゃん的には、あたしのチャームポイントってどこだと思う?」
スノウちゃんの言葉に便乗して、ミミちゃんに訊ねてみた。
「全部ですね」
即答だった。
しかも、声に有無を言わせぬ意思の強さが込められている。
「えへへ、ありがとっ」
自分たちのことながら、バカップル以外の何物でもないやり取りだ。
後で存分にイチャイチャするとして、いまはスノウちゃんの配信に集中しよう。
『好きなジャンルはRPGで、苦手なのはリズムゲームかな。一期生のシャテーニュ先輩が得意だって聞いたから、ぜひとも今度ご教授願いたいね』
つい最近シャテーニュ先輩の力量を間近で見せてもらったばかりなので、あたしとしてはなかなかタイムリーな話題だ。
『クッ、左目が疼く……っ。皆を巻き込むわけにはいかないっ。ヤツが暴走する前に、この空間を閉じなければ……!』
唐突に苦しそうな声を上げるスノウちゃんに、『急にどうした?』とか『中二病かな?』といったコメントが多数送られる。
中には『ま、まさかヤツが!?』や『そうか、今朝観測された異常な魔力の正体は……!』みたいにノリのいいコメントもあった。
かくしてネココちゃんに負けず劣らず個性的なスノウちゃんのデビュー配信は、二時間の遅刻というハプニングがあったものの、本人の誠意ある謝罪もあって炎上することなく無事に終了した。
後で聞いた話によると、遅刻の理由は寝坊だったらしい。
緊張のあまり一睡もできないまま配信準備をしていて、開始まであと十数分というところで体力の限界を迎えて寝落ちしてしまったとのこと。
昨日と同じくお菓子と飲み物を用意してソファに座り、万全の視聴態勢で配信開始を待つ。
そしていよいよ、待機画面から――
「……あれ?」
「……始まりませんね」
配信が始まるはずの時間になっても、画面が切り替わらない。
一分、二分、三分と経っても、待機画面のままだ。
なにかアクシデントでもあったのだろうか。
「運営さんに連絡した方がいいのかな~?」
「運営さんも見ているはずですし、アクシデントだとすればすでに対応している最中だと思いますよ」
「確かに、それもそうだね」
あたしへの返信という手間を増やすのも申し訳ないし、ここは静かに待つとしよう。
「ミミちゃん、あたしのおっぱい揉む?」
「もう、こんな時になにを言ってるんですか。そういうのは配信を見終わった後です」
他愛のないおしゃべりをしたり、お菓子をつまんだり、ジュースを飲んだり。
メンバー用のチャットで先輩たちやネココちゃんとやり取りを交わしたりしながら、配信が始まる瞬間をいまかいまかと待ち続ける。
……。
…………。
………………。
気付けば開始予定の時間から、二時間が経とうとしていた。
さすがに心配なので運営さんに状況を訊ねようとしたその時、待機画面が切り替わる。
赤と黒のマーブル模様な背景画像が表示され、画面の左側にコメント、右側に立ち絵が現れた。
『やぁ、皆の衆。今宵はボクのために集まってくれてありがとう。さっそく自己紹介を始めたいところだけど、その前に……今日は本当に申し訳ないです初配信から遅刻とかありえないですよねすみません心の底から反省してますなんて口ではどうとでも言えますよね今後の活動で示していきたいと思います!』
落ち着いたトーンのあいさつから始まり、心底申し訳なさそうな声での謝罪が告げられた。
『この度は皆様に多大な迷惑と心配をおかけして、本当に本当に申し訳ありませんでした! 改めまして、自己紹介させていただきたいと思います』
一拍置いてから、彼女は再び口を開く。
『ボクはスノウ・フレイムサンダー、強すぎるがゆえに異世界を追放された暗黒騎士だよ。今後はこの世界でVtuberとして生きていくから、応援してくれると幸いだ』
いままでガールズパーティにいなかったクール系――なんだけど、先ほどの慌てふためいた謝罪の様子がチラついて、『かっこいい』より『かわいい』という感想が先に来る。
『さて、せっかくだからボクの装備を紹介しておこうか』
そう言った後、スノウちゃんの全身が表示された。
毛先が足首に届きそうな水色のスーパーロングヘアーは首の辺りで束ねられ、身にまとうのは西洋の騎士を彷彿とさせるデザインの鎧。
異世界出身というだけあって、あたしやミミちゃんの初期衣装と近しい雰囲気を感じる。
『ふっ、我ながらかっこいい。かっこよすぎてスクショせずにはいられない。デビューしたばかりだけどボクのフィギュアを作ってほしいぐらいだ。ちなみに、鎧の上からでは分からないけど、胸は手のひらサイズ、お尻はちょっと大きめだよ。細身だけど太ももがぷにっとしているのが個人的にチャームポイントだと思ってる』
「ミミちゃん的には、あたしのチャームポイントってどこだと思う?」
スノウちゃんの言葉に便乗して、ミミちゃんに訊ねてみた。
「全部ですね」
即答だった。
しかも、声に有無を言わせぬ意思の強さが込められている。
「えへへ、ありがとっ」
自分たちのことながら、バカップル以外の何物でもないやり取りだ。
後で存分にイチャイチャするとして、いまはスノウちゃんの配信に集中しよう。
『好きなジャンルはRPGで、苦手なのはリズムゲームかな。一期生のシャテーニュ先輩が得意だって聞いたから、ぜひとも今度ご教授願いたいね』
つい最近シャテーニュ先輩の力量を間近で見せてもらったばかりなので、あたしとしてはなかなかタイムリーな話題だ。
『クッ、左目が疼く……っ。皆を巻き込むわけにはいかないっ。ヤツが暴走する前に、この空間を閉じなければ……!』
唐突に苦しそうな声を上げるスノウちゃんに、『急にどうした?』とか『中二病かな?』といったコメントが多数送られる。
中には『ま、まさかヤツが!?』や『そうか、今朝観測された異常な魔力の正体は……!』みたいにノリのいいコメントもあった。
かくしてネココちゃんに負けず劣らず個性的なスノウちゃんのデビュー配信は、二時間の遅刻というハプニングがあったものの、本人の誠意ある謝罪もあって炎上することなく無事に終了した。
後で聞いた話によると、遅刻の理由は寝坊だったらしい。
緊張のあまり一睡もできないまま配信準備をしていて、開始まであと十数分というところで体力の限界を迎えて寝落ちしてしまったとのこと。
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