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59話 新たな扉
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恋人関係になってから、以前にも増して一緒に過ごすようになった気がする。
いまだって、当たり前のように二人でお風呂に入ろうとしているところだ。
私としては嬉しい限りなので、この調子でもっともっと親密な関係になっていきたい。
ケンカしそうになったら一旦堪えてイチャイチャするという取り決めは、徹底できていないものの意識はしている。
ゴールデンウィーク中にも何度か衝突が起きたけど、殴り合いにまで発展してしまったのはほんの数回程度だ。以前と比べて激減したと言っていい。
なんてことを考えながら、脱いだパンツを洗濯かごに入れる。
次いでタオルを取ろうと棚に手を伸ばすと同時に、彩愛先輩が目にも留まらぬ速さで動いた。
そのまま洗濯かごから私のパンツを拾い上げ、チラッとこちらを一瞥してから手中の布に視線を落とす。
「どうしたんですか?」
不思議に思い、半ば反射的に質問する。
ゴミでも付いていたのだろうか。
虫だったら困る。申し訳ないけど、窓から外に逃がす役割は彩愛先輩に押し付けさせてもらいたい。
私の予想がいかに的外れであるかを指摘するかのように、彩愛先輩はおもむろに顔を近付けた。
脱いだばかりの、私のパンツに。
しかも、あろうことかクロッチ部分に鼻を当て、肺活量の測定でもするかのように思いっきり息を吸い始めた。
「~~~~~~っっ!?」
私が心底驚愕したのは言わずもがな、動揺のあまり体が一瞬硬直し、声にならない絶叫を発してしまう。
「#%$&%――返してください!」
「あっ、なにすんのよ!」
「それはこっちのセリフですよ! パンツなんて嗅がないでください!」
どうにか言語能力を取り戻した私は、慌ててパンツをひったくり、洗濯かごに放り投げた。
不満気な彩愛先輩の背中を押し、強制的に浴室へと移動させる。
「そんなに怒ることないじゃない。心を昂らせる魅力的な香りだったわよ。あれなら毎日でも嗅ぎたいぐらいだわ」
「うっ、ぐ……」
こういう時、普通ならドン引きしたり激怒したりするのだろう。
でも、私が真っ先に抱いた感情は喜びだった。
以前の私なら、問答無用でみぞおちに拳を叩き込んでいたに違いない。
「とは言っても、改めて考えるとさすがに度が過ぎたわね。歌恋からしてみれば不快だったと思うし、今回限りにしておくわ」
「あ、彩愛先輩は、また嗅ぎたいんですか?」
「もちろん」
清々しいほどに即答で返された。
「……たまになら、いいですよ」
「ホントに!?」
「はい、まぁ、別に減るものでもないですし。喜んでもらえるなら、私も嬉しいですから」
私がそう言うと、彩愛先輩はパァァッと満面の笑みを浮かべ、「やったーっ!」と歓喜の声を上げた。
いつの間にか、彩愛先輩は新しい扉を開いてしまっていたらしい。
洗濯前の下着なんて、汚いだけだと思うんだけどなぁ。
――お風呂上りに自分も彩愛先輩と同じ扉を開くことを、この時の私はまだ知らない。
いまだって、当たり前のように二人でお風呂に入ろうとしているところだ。
私としては嬉しい限りなので、この調子でもっともっと親密な関係になっていきたい。
ケンカしそうになったら一旦堪えてイチャイチャするという取り決めは、徹底できていないものの意識はしている。
ゴールデンウィーク中にも何度か衝突が起きたけど、殴り合いにまで発展してしまったのはほんの数回程度だ。以前と比べて激減したと言っていい。
なんてことを考えながら、脱いだパンツを洗濯かごに入れる。
次いでタオルを取ろうと棚に手を伸ばすと同時に、彩愛先輩が目にも留まらぬ速さで動いた。
そのまま洗濯かごから私のパンツを拾い上げ、チラッとこちらを一瞥してから手中の布に視線を落とす。
「どうしたんですか?」
不思議に思い、半ば反射的に質問する。
ゴミでも付いていたのだろうか。
虫だったら困る。申し訳ないけど、窓から外に逃がす役割は彩愛先輩に押し付けさせてもらいたい。
私の予想がいかに的外れであるかを指摘するかのように、彩愛先輩はおもむろに顔を近付けた。
脱いだばかりの、私のパンツに。
しかも、あろうことかクロッチ部分に鼻を当て、肺活量の測定でもするかのように思いっきり息を吸い始めた。
「~~~~~~っっ!?」
私が心底驚愕したのは言わずもがな、動揺のあまり体が一瞬硬直し、声にならない絶叫を発してしまう。
「#%$&%――返してください!」
「あっ、なにすんのよ!」
「それはこっちのセリフですよ! パンツなんて嗅がないでください!」
どうにか言語能力を取り戻した私は、慌ててパンツをひったくり、洗濯かごに放り投げた。
不満気な彩愛先輩の背中を押し、強制的に浴室へと移動させる。
「そんなに怒ることないじゃない。心を昂らせる魅力的な香りだったわよ。あれなら毎日でも嗅ぎたいぐらいだわ」
「うっ、ぐ……」
こういう時、普通ならドン引きしたり激怒したりするのだろう。
でも、私が真っ先に抱いた感情は喜びだった。
以前の私なら、問答無用でみぞおちに拳を叩き込んでいたに違いない。
「とは言っても、改めて考えるとさすがに度が過ぎたわね。歌恋からしてみれば不快だったと思うし、今回限りにしておくわ」
「あ、彩愛先輩は、また嗅ぎたいんですか?」
「もちろん」
清々しいほどに即答で返された。
「……たまになら、いいですよ」
「ホントに!?」
「はい、まぁ、別に減るものでもないですし。喜んでもらえるなら、私も嬉しいですから」
私がそう言うと、彩愛先輩はパァァッと満面の笑みを浮かべ、「やったーっ!」と歓喜の声を上げた。
いつの間にか、彩愛先輩は新しい扉を開いてしまっていたらしい。
洗濯前の下着なんて、汚いだけだと思うんだけどなぁ。
――お風呂上りに自分も彩愛先輩と同じ扉を開くことを、この時の私はまだ知らない。
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