上 下
42 / 62

キスマーク

しおりを挟む
 明け方まで激しい行為を貪った鈴子とジェイは、鈴子のカフェの出勤時間ギリギリまで睡眠を貪った。


 遅刻ギリギリでカフェに到着した鈴子は、急いでギャルソンエプロンを付ける。


「鈴子ちゃん、おはよう。今日は寝坊でもしたの? いつも早めに出勤するのに」


 クククと笑う徹也だったが、鈴子の首筋に痣を発見する。それは鈴子からは見えない位置に付いており、明らかに鈴子以外の他者を牽制する物だった。濃く内出血している小さな痣、キスマークは徹也の心を掻きむしる。


「……す、鈴子ちゃん。その……、言いにくいんだけど、キスマークが付いてるよ」

「え? えーーーー! やだ……。ど、何処ですか?」


 顔を耳まで赤くする鈴子を見て、カッとした何かが身体を突き抜けた徹也は、指をスッと伸ばして鈴子の首筋のキスマークを触る。


「ここだよ。鈴子ちゃんからは見えない位置だね。誰がやったの? ジェイ君?」


  徹也が鈴子に尋ねる声は優しいが、目は氷のように冷たい。
 
 
 徹也にキスマークを触られた瞬間に、鈴子は「あぁっ!」とピクリと震えた。朝方まで快楽を与え続けられた鈴子の身体は既に熟しており、少しの刺激でも身体が反応するのだった。


 鈴子の艶めかしい声と潤んだ瞳を見た徹也は、鈴子を無理矢理引っ張って店の奥へと入って行く。状況の分からない鈴子は「え? どうしたんですか?」と混乱しているようだった。


 徹也は店の事務室に鈴子を押し込み自身も入ってドアを閉めた。


「あ、あのう……。急にどうしたんですか?」


 混乱した表情の鈴子が徹也を見つめる。徹也はハアハアと荒く息を吐きながら、鈴子に近づいていく。その目は虚ろに鈴子を見つめている。その時、入り口のドアがバタンと大きな音を立てて開いたのだった。


「てっちゃん、ここに居たのか! 発注のことで業者が入り口で待ってる。手違いがあったって。ん? あれ鈴子ちゃんも一緒だったのか?」


 田中の声で我に返った徹也は、慌てて机の上に置いてあったスカーフを鷲掴みにする。


「鈴子ちゃん。これで今日は隠しておいて。ごめんね、一応客商売だから」


 一瞬で元の優しげな徹也に戻り、鈴子に「はい」とスカーフを手渡した。鈴子は一瞬躊躇したが、申し訳なさそうにスカーフを受け取る。


「田中君、今行くよ」


 徹也はぐるりと振り返り、田中と共に事務所を出て行ったのだった。


「もう、ジェイってば最悪だわ! もう少しで徹也さんに怒られる所だった」


 鈴子は徹也から受け取ったスカーフを首に巻いて、真っ赤な顔で事務所から出て行ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ジェイが鈴子をカフェまで迎えに来る。ジェイを見つけて笑顔で手を振る鈴子を、徹也は冷めた目で見ていた。徹也は鈴子が接客でこちらを見ていないことを確認し、ジェイの元に近づいていく。


「ねえ、ジェイ君。君は鈴子ちゃんの彼氏ではないんだろ? 鈴子ちゃんから聞いたよ」


 いきなり目の前に現れた徹也をギロリと睨むジェイ。体格はジェイの方が大きく迫力もある。細身の徹也は一瞬たじろぐが、気を取り直して再度口を開いた。


「あまり鈴子ちゃんを弄ぶような事は止めた方がいい。彼氏でもない人に身体を許すなんて、可哀想だろ? あんな純情そうな子を騙したりしないで欲しい」


 事情をよく知りもしない徹也が口を挟むことではないが、真面目そうな鈴子と刺青だらけのジェイを見れば、誰しもが鈴子が騙されていると思うだろう。それはジェイも分かっていたが、わざわざ徹也に言われるのは腹が立ち、ジェイは徹也の襟元をグイッと掴んだのだった。


「アンタに言われる筋合いは無い。俺と鈴子のことに口出しするな!」

「え? ちょっと! ジェイやめてよ! 何してるのよ」


 二人の異変に気が付いた鈴子が慌てて飛んでくる。既に帰る支度も済んでおり、鈴子はジェイを引っ張って徹也から引き離す。


「徹也さん、すみません。今日はこれで失礼します! 本当にごめんなさい」


 鈴子は謝りながらジェイを連れてカフェから出て行ったのだった。


「てっちゃん、どうしたんだよ……。何かあったのか?」


 心配そうに奥から出てきた田中が徹也の肩をポンっと叩く。徹也はハッとして「何もない。俺が言いすぎたんだ」とボソリと呟いたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「鈴子! アイツのこと徹也って呼んでるのか?」


 ジェイはまだ怒りが収まらないのか、イライラした表情で煙草を吸い出す。


「ジェイ、歩き煙草はダメだよ……。吸いたいなら、あそこに座ろう」


 鈴子はジェイを通りの端にある小さな広場に連れて行く。ベンチと灰皿が端っこにあり、ここなら大丈夫と鈴子はジェイを座らせた。


「なあ、何でアイツを下の名前で呼ぶんだ!」

「はあ? 別にいいでしょ? 徹也さんがそうしてくれって言うんだから」

「ダメだ! 鈴子が下の名前で呼ぶのは俺だけにしろ!」


 いきなりのジェイの横暴な態度に、鈴子は苛立ちを覚えて顔を膨らませて怒り出す。


「何言ってるのよ! 私は純平さんのことも下の名前で呼んでるじゃん。今まで何も言わなかったくせに!」

「純平はいいんだよ……。でも、他はダメだ!」

「はあ? 意味わかんない!」


 刺青だらけの外国人風の男と童顔な小柄な女の言い合いは、道を行き交う人々の興味を引き、少しギャラリーが出来上がっていた。周囲の騒がしさに気が付いた二人は喧嘩を止めて、そそくさと広場から出ていく。


「にいちゃん! 女の子には優しくせんとあかんよ~」


 関西のおばちゃんのヤジに、ジェイは恥ずかしそうに頭を下げる。鈴子も「すみません」と呟きその場を後にしたのだった。


 言い合いを止めたからと言って、ジェイの怒りが収まったワケでもなく、鈴子もムッとしたままで家路に就く。しかし無言で店のドアを開けて中に入った瞬間に、どちらともなく互いの唇を激しく貪りだしたのだった。


  チュプ チュプと湿った音と共に、ハアハアと二人の熱い息遣いが店内に響く。
 
 
「なあ、鈴子を抱きたい……。いいか?」

「はあ? そんな……聞くこと? ヤーぁ、恥ずかしい……」


 真っ赤な顔の鈴子は顔を両手で覆い、そっぽを向いてしまう。その手を優しく外すジェイは、もう一度問いかける。


「真剣だ……。鈴子が本当にイヤなら俺は手を出さないよ」


 真面目な顔で鈴子を見つめるジェイに、鈴子はドキドキと心臓を鳴らしてしまう。きっと、この音はジェイには聞こえているかも知れないと言うほどに、ドドドドと大きな音が鈴子の身体中を駆け巡っている。


「い、……いい……わ」


 鈴子の返事を聞いてパーッと明るくなったジェイの顔に、鈴子は「プっ」と笑ってしまった。そこまでして自分を抱きたかったのかと、鈴子はそんなジェイが可笑しくなったのだ。


 善は急げと鈴子を肩にガバッと担ぎ上げたジェイは、大股で居住エリアに進んで行くのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

レイプ短編集

sleepingangel02
恋愛
レイプシーンを短編形式で

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...